55話 教団側
がしゃん
薄暗い地下牢。そこそこ小ぎれいで簡易のベッドと机と椅子とトイレがある小部屋の檻のドアが乱暴にしめられる。
「ちょ!?待ってください!!なんで僕が牢に!?」
カズヤが縋るように、牢の鉄格子にしがみつけば
カズヤを牢に入れた神官の一人が
「あのまま捨てられるより衣食住が保証されているだけましでしょう?」
と、あざ笑った。
そこでカズヤは理解した。
元々自分も捨てられる予定だったのだと--だが。
がしんっ!!と、カズヤは牢の扉を叩く。
見てろよ、このままで終わってたまるか。キリカも教団連中も……こんな目にあわせたことを後悔させてやる。
僕は真実の愛を見失っていたんだ。
真実の相手は最初からクミだったのに、自分はそれを見失ってしまっていた。
全部あの性悪女のキリカのせいだ。
今度こそ手に入れて見せる--クミを。
□■□
「勇者の様子はどうだ?」
「はっ。牢にいれてあります。何も問題がないかと。
表向きは手はず通り魔獣に殺された事にしてあります」
大神官の執務室で。大神官ロンディエンが部下に問えば返って来た答えはそれだった。
ロンディエンは仕事をする手をとめ満足気に頷いた。
「よくやった、これで邪魔な勇者はいなくなった。
まぁこのような小細工をしなくても、聖女様は邪魔に思っていたようだが……」
カズヤを魔の森に強制転移しなかったのは、キリカへの信頼度のためだった。
クミを早々に転移してしまったのは、キリカが明らかに邪魔だと言わんばかりの態度をとったからにすぎない。
恋する聖女と勇者の仲を引き裂こうと刃物で脅して殺そうとしてきたと訴えたのだ。
もちろん勇者の方が目を泳がせ、クミが刃物を所持していなかったため信じたわけではなかったが……。
聖女がとても扱いやすい馬鹿な女という判断できた。その聖女が不要としているならとクミを捨てた。
勇者の方は情があるため捨てないでおいたが、その必要もなかったらしい。いくら馬鹿でも体裁くらいは取り繕っておくべきだろう。
聖女にはカズヤは魔獣に倒されたと説明してある。
「……にしてもまさかセルヴァもあの異世界人も生きていたとはな」
ロンディエンはため息をついた。
厄災の魔獣を倒しにいかせたはずの、勇者一行は魔獣を倒すどころか、魔獣の逆鱗に触れ、大量のモンスターに襲われ、そこを異世界人とセルヴァに救われたと、報告を受けている。
勇者を殺さないのもセルヴァと一緒の異世界人と何かもめごとが起きた時用に、保険に生かしておくにすぎない。
「討伐に向かった神官の話では、伝説の魔獣フェンリルを従えていたそうです。
……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫?何がだ?」
「我々に捨てられた恨みで復讐などを考えたりしないかと」
神官の言葉にロンディエンは鼻先で笑い
「あちらにセルヴァがいる限りそれはない。
あれがフェンリルという戦力をこちらに見せてきたのも、手を出すなと言う脅しだ。
我らに復讐をするつもりなら、勇者を返すのにフェンリルなどという貴重な戦力を見せはしないだろう。
……それに」
「それに?」
「忘れたのか、あれは私の血を引いている」
「なるほど、そうでしたね」
と、大神官の言葉に付き従っていた神官も微笑んだ。
「どのみち魔の森に籠ると決めた以上、下手な手出しさえしなければ、あれの事だ、我らに歯向かおうなどと考えもしないだろう。
あれはそういう男だ。
あの異世界人を早期に捨ててしまったのは失敗だったかもしれぬが、まぁ放っておけばいい」
聖女召喚についてきてしまった邪魔な勇者も、牢にいれた。
これで脅威になりうるものは排除したといっていい。
異世界人とセルヴァの事が気にならないといえば嘘になるが、あちらにセルヴァがいる限り、こちらに害はなせないだろう。
「獣人達も勝手に村から去ってくれたのだ、ダンジョンと村はわれらの支配下にいれておけ」
「はっ」
神官が仰々しく挨拶をし、去っていく。
―――さて、これからが本当の改革だ。
セルヴァを慕ってついていった連中は遅かれ早かれ自分の脅威になりうる人物だ。
はやめに始末しておくべきだ、自分に忠実な人物だけを残せばいい。
大神官ロンディエンは微笑むのだった。
□■□
「うーん、快適♪」
優雅にお茶を飲みながらキリカがつぶやいた。
カズヤが魔獣を倒しに行ってから、変に絡んでくる嫌なやつもいなくなった。
お気に入りの美形の神官達は相変わらずキリカにチヤホヤしてくれる。
特にお気に入りは金髪美形の神官で、大神官の息子で次の大神官候補らしい。
聖女キリカにぴったりじゃない?
次期大神官と聖女様。なんてぴったりな組み合わせ。
ここは怒ってくる人もあれこれ言ってくる人もいない。
キリカの願いをかなえてくれる人ばかり。
「異世界召喚最高っ!」
キリカはにっこりと微笑むのだった。
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