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76.マリアナ祭の準備

お待たせしました!

いよいよ最終シリーズ『マリアナ祭編』のスタートです!


 

 修学旅行も終わったら、次は学園祭だ。

 ちなみに我らが摩利亞那マリアナ高校の場合、『マリアナ祭』という名前になる。外部生なんかも来る、けっこう人気のイベントだ。


 マリアナ祭の目玉は大きく四つある。

 まずは、各クラスや部活が出すお店やアトラクション。

 二つ目は、中央広場で行われる『至高の一輪華プリモディーネ聖誕祭』……ようはミスコンだ。

 三つ目は、講堂で行われるバンド演奏などのステージ。

 そして最後の一つが、学生たちだけで行なわれるダンスパーティーだ。

 特に4つ目については、このダンスパーティーでカップル成立する男女が非常に多いことから、マリアナ祭の目玉イベントとなっている……らしい。

 らしい、というのは浮き足立った一二三ひふみトリオから、先日初めてそう聞かされたばかりだからだ。へー、カップルねぇ。ま、俺にはどうせ関係ないイベントなんだろうけどさ。


 そんなわけで俺は、マリアナ祭のバンド出演に向けての準備--すなわち作詞に、全力を注ぐのだった。やばい、いおりんからのプレッシャーがハンパないのよ……。




 ◇◇◇




「なぁんだ、【G】も魔王ラーに会えたのか?」


 俺の問いかけに、目の前のケーキ--ハロウィン仕様のパンプキンタルトを食べる手を止めて【G】が頷く。


 いつものようにメールで催促されてスイーツを食べに来てみれば、彼女の口から語られたのは「先日、ラー様にお会いすることができた」という報告だった。


「それで、ラー様から大体の事情はお聞きしただろうから、今後のことについて話したいのだ。……ムグムグ」

「まーそうだよね、今更ミッションとか言われても意味ないしね」

「そうなのだ。ラー様を探すという私の使命もクリアした今となっては、こちらから君に頼みたいことも無いのでな。だからこれからの君は、ラー様にも言われた通り、″選択の時″に向けての心の準備を整えることになる」


 心の準備、ねぇ。それで、だいたいいつ頃までに整えればいいのやら。


「おそらくは……学祭が終わる頃までだろう」

「あぁ、やっぱりそれくらいまでになるのね」


 なんとなくそれくらいの時期だと思っていた。どうやら一ヶ月後のマリアナ祭が、俺にとっての運命のタイムリミットとなるらしい。


「それまでに、後悔しないように答えを選択してほしい」

「……ああ、分かってるよ」


 そう言って目の前のコーヒーに口をつけると、なにやら【G】は不思議そうな表情を浮かべてこちらを眺めていた。こいつがこんな顔をするなんて珍しいな。


「ん? どうしたの?」

「いや……君は、我々のことを恨んでたりしないのか?」


 恨む? なんで?

 本気で質問の意味がわからなくて首を傾げると、【G】はふぅと大きく息を吐いた。


「だって、その……我々は、君の運命を弄ぶような真似をしているわけじゃないか。そのことに対して恨みつらみあるんじゃないかと」

「へ? んなもんないよ」


 だってさ、俺が間抜けな死に方をしかけてたのを、こうやって助けてくれたんだろう?

 そりゃあ女の子の身体ってので色々と問題はあったけど……命あっての物種だって言うしね。

 それに何より、俺はアカルちゃんになることで、たくさんの出会いがあった。こんな貴重な体験ができてるのも、こいつらのおかげだとも言えなくはないし。


 そう言うと【G】は、複雑な表情を浮かべながらも俺に白黒ストライプの頭を下げた。


「本当にすまない……でも、そう言ってもらえると救われるよ。だから、私たちにできうる限りのことはさせてもらうつもりだ。もちろん、私も全力を尽くさせてもらうよ」

「ははっ、そっか。じゃああと一ヶ月くらいだけど、よろしくな」


 そう、あと一ヶ月。

 その期間が過ぎれば、間違いなく【G】たちとの関係は終わりを告げるのだ。


 こうやって一生懸命がんばってくれてる【G】のためにも、俺自身が後悔しないような答えを出すようにしないとな。


「……ところでさ、あの魔王ラーってのは何ものなんだ? 時を止めたりとんでもない力を持ってるみたいなんだけど……」

「あ、あのお方は別格だ。深入りしないほうがいい」


 さいですかー。

 まー別格ですよねー。時を止めるくらいですもんねー。

 でもさ、そんくらい出来るなら、俺を元の身体に戻してくれてもいいんじゃね?




 ◇◇◇




 俺がメインヴォーカルを務めて、いおりんたちがバックで演奏する--マリアナ祭に出場するバンドの名称がようやく決まった。

 その名も……ジャジャーン!

  『アカル☆パラドックス』!

 ちなみに名付け親はいおりんだ。


 ……アカルパラドックス? なんなのそのネーミングは? なんでパラドックスなんだか。

 理由を聞いてみると、いおりん曰く「アカルちゃんは色々と矛盾だらけだからね」とのこと。その説明に一緒にいたバンドメンバー……ガッくんやシュウ、ミカエルに羽子ちゃんまでがウンウンと頷く。それってどういうことよー⁉︎

 イマイチ納得できなかったんだけど、じっくりと考えてる余裕もなかったので、今回の案を受け入れることにしたんだ。


「なんだか可愛らしいバンド名ですね?」

「……そっかな? なんかどこかのお笑い芸人みたいじゃない?」

「ぷっ。お笑い芸人……そんなことはないですよー」


 本当かなぁ羽子ちゃん? だったらなんでそんなに笑ってるの?



 ようやく決まったバンド名をレーナにメールすると、仕事の合間を縫って返事が返ってきた。

 レーナは最近ついに『激甘♡フルーティ』(最近♡に変更した)のナンバーワンに上り詰めて、修学旅行明けは休みなしなくらい大忙しなのだ。売れっ子は大変だね、その分充実はしてるみたいだけどさ。


『アカルパラドックス、いい名前じゃない! なんだか心惹かれるわ!』

「そうかな? まぁバンド名なんて、なんでもいいんだけどね。どうせ一回こっきりなんだしさ」


 そう返事してしばらくすると、レーナから電話が掛かってきた。


「もしもしレーナ? 仕事中にどうしたの?」

『ねぇアカル、あなたのバンドにあたしも参加させてよ!』


 はぁ? 学園祭のイベントにプロのアイドルが参加するってか?

 それってなんかオーバーキルな気がするんだけど……。そもそも事務所的に許されるの?


『別にいいでしょ? あたしだってマリアナ高校の生徒なんだからさ』

「そりゃまぁそうだけど……じゃあさ、レーナはなんの役をやるの?」

『あたし、アカルのバックコーラスするわ。もしくは裏にハモりで入るか。本物のアイドルをバックで使えるのよ? すごい贅沢よねぇ〜』


 なんだか知らないけど、すでにレーナが参加することは決定事項のように話している。えーっと、俺はまだ許可は出してないんだけど?


『えっ? まさかダメだったりするの? アカルはあたしのことを拒んだりするの……?』

「そ、そんなことしないよ!」

『じゃあ決まりね! 曲データはいおりんから貰うようにするわ。楽しみにしてるわね!』


 そう言うとレーナの電話は一方的に切れてしまった。おいおい、相変わらず人の話を聞かない子だこと。

 それにしても、レーナも参戦かぁ。なんだか大ごとになってきたなぁ……。でも、ちょっぴり楽しみかも!




 ◇◇◇



 秋だというのに、学内の雰囲気がずいぶんと華やいでいるように感じる。それもこれも、あちらこちらで男子と女子がなにやら話をしている様子が見受けられるようになったからだ。

 これもやはりマリアナ祭が近づいて来てるからだろうか? きっと学祭後のダンスパーティーに誘う相手の争奪戦が始まってるんだろう。


 もっとも、この争いにおいて俺は全く蚊帳の外だった。なにせ、アカルちゃんはこんなに可愛くて周りからの注目の的なのに、なぜかまったくお誘いが来ないのだ。


 冷静になって思い返してみると、特に誰かから「付き合ってほしい」とかって告白されたこともない。いやさ、修学旅行のときにはレーナとか羽子ちゃん、いおりんに好きとか言われたよ? でもさ、あれって友達としての「好き」だよね? いおりんのやつも茶化してたから冗談交じりだろうし、恋愛感情とかが絡まないやつなわけよ、たぶん。


 そういう意味では友人にはすごく恵まれてるんだけど、恋愛となるとまるで縁がない。

 いや、男に告白されても困るけどさ……わかるかな、このジレンマ。なんというか、避けられてる気すらするんだよねぇ。


 これってもしかして、恐れられてる? もしくは、見た目は評価されてるものの、中身が敬遠されてる⁉︎

 どうしても中身が男ってのが滲み出ちゃったりしてんのかなぁ。んー、恋愛云々やダンスパーティーはどうでもいいとして、ちょっと色々考えなきゃいけないかもなぁ。



 今回のマリアナ祭のメインイベントの一つ、各クラスの出し物がホームルームで検討された。

 お化け屋敷だの寸劇だのと色々な案が出たものの、結局決まったのは″メイド喫茶″だった。


 俺自身が何かを発言すると、エヴァンジェリストとしての影響力が大きすぎるので、今回は口を挟まないようにしてたんだけど、よりにもよってメイド喫茶かいっ!

 しかも決まるまでのプロセスが歪でさ。「やっぱメイド喫茶でしょ! メイド服を着たやつね!」とクラスの男子が発言した直後から、それまで様々な意見が出ていたのが一気にメイド喫茶に一本化されていったんだよねぇ。


 絶対出来レースだと思ったんだけど、横に座ってる三谷さんに聞いてみると、そんなことは無かったらしい。ふーん、みんなそんなにメイド服が好きなんかねぇ? まぁ俺も嫌いじゃないけどさ、羽子ちゃんのメイド服……ぐふふっ。


「もちろん、日野宮さんもメイド服を着てもらえるよね?」

「へっ? 私?」


 急に話を振られて顔を上げると、なにやらクラス中の注目が俺に集中していた。なにこれ、不用意に変なこと答えられそうにないんだけど……。

 でもなー、安易にオッケーするのも悔しいよなぁ。


「うーん、じゃあ男子もメイド服着てくれるならいいよ?」

「「「ええっ⁉︎」」」


 俺の発言に、クラスの男子一同から驚きと戸惑いの声が上がる。うけけっ、悩め悩め! そして禁断の扉を開けてしまうがいい。

 ……もちろん、化粧道具は貸してあげましてよ? おーっほっほ。

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