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【番外編】出目 美朱の場合

 あたしの名前は出目でめ 美朱みあか

 だけどこの名前を、あたしはずっと嫌いだった。なぜなら、小学校の頃からこの名前のせいでずっとイジメられていたから。


 まず出目という苗字で『出目金』だのと言われて馬鹿にされてイジメられた。それに反発すると、次に美朱という名前でいじられた。

 今考えると、それは小学生特有の幼稚な遊びの延長みたいなものだったのかもしれない。でも、あの頃のあたしはそのことに耐えられなかったし、なにより笑って受け流すような可愛げもなかった。


 なぜならあたしは、小さなころから無駄にプライドが高かったから。他人に迎合するようなことはできないと、無条件に頑なに思い込んでた。


 だからあたしは自然と孤立していった。それは中学に上がっても変わらず、気がつくとあたしは……他人との接し方が分からなくなってたんだ。



 それでもあたしは摩利亞那マリアナ高校に合格した。友達もいなかったから勉強だけしていた成果でもあるし、なんだかんだで共働きの両親があたしのためにそれなりの教育資金を貯めていてくれて、安くない学費を捻出してくれたってのもある。

 いまとなっては、そのことを両親にすごく感謝してる。おとうさん、おかあさん、あたしをマリアナ高校に入れてくれてありがとう。


 だけど入学したてのころのあたしは、やっぱり孤立していた。小学校でダメで、中学でもダメだったあたしが、高校でどうにかなるわけがなかった。

 高校こそはやり直してやると意気込んでいたあたしの心は、そこでポッキリと折れた。それからあたしは徐々に内に籠るようになったんだ。


 --そんなときだった。

 あたしが、インターネットの世界にのめり込んでいったのは。




 ◇◇◇




 もともとインターネットは小さい頃からやってた。だけど本格的にやり始めたのは高校に入ってからだ。

 中でもあたしがハマったのは、オンラインゲームだ。『ドラゴニック・ファンタジア・オンライン』っていうのにどっぷりとハマった。


 あたしがこのゲームにハマった理由はいろいろあるけど、一番の要因は『みんながチヤホヤしてくれる』ことだった。

 現実では友達の一人もいないっていうあたしのことを、周りはものすごく持ち上げてくれた。現役女子高生だって暴露してからは、もっとチヤホヤされた。


 あたしはそのことを、まるでアイドルになったようだと錯覚した。そう、錯覚してたんだ。

 本当はそんなことないって知ってるのに。たいして可愛くもない、ただの根暗で毒舌なコミュ障だっていうのに。

 ……あたしは、勘違いしてたんだ。



 同時期にあたしはもう一つのものにハマっていた。それは、『レノにゃんのにゃんにゃんレボリューション』という配信動画。

 配信主であるレノにゃんは、あたしと同じ高校一年生だっていうのに、すごく可愛くてネット界で人気があった。そんな彼女の、あたしはファンになったんだ。


 その結果、あたしはさらなる勘違いをしてしまった。

 レノにゃんでさえこんなに人気があるんだから、このあたしがやればもっと人気になるに違いない! ってね。


 それであたしは、レノにゃんをマネした格好をしてみたり、ネットアイドルを気取って動画配信したりしてみた。

 そのサイトを見たゲーム仲間たちはすごく褒めてくれたんだけど、なぜか再生数はレノにゃんみたいに伸びなかったんだ。


 本当はその辺りで気づいても良かったんだけど、もはやその頃のあたしは引っ込みがつかなくなっていた。

 気がつくと二年生になっていて、もともと休みがちだった学校に、全く行かなくなってしまったんだ。




 ◇◇◇




 そんなあたしには、目の上のたんこぶとも言うべき存在がいた。それは、ゲーム内の同じギルドにいる『アンドロメダ』っていう名前のヒーラー。


 アンドロメダは不思議な子だった。

 ぶっきらぼうな口調、だけど高いゲームスキル、そしてなぜか平伏したくなるような立ち居振る舞い。その様子からギルドのみんなはあいつのことを『姫』と呼んでいた。

 でもあたしはぶっちゃけアンドロメダのことを嫌いだった。ネカマだと思って蔑んでた。だってプライベートのことはほとんど秘密にしてたし、なにより姫プレイなんてしてるのがおかしかったからさ。


 アンドロメダと姫プレイをするメンバーの中に、あたしが密かに惹かれていた『ランスロット』がいたってのも、すごく癪に触った。

 ネカマのくせに、男をたらしこみやがって。ムカついたあたしは、何度もアンドロメダに噛み付いたりした。だけどあいつはいつもスルーしてて、それが余計ムカついてたんだ。


 そのアンドロメダも、ある日を境にパッタリと来なくなって、どうしたのかと思っていたらふいに復活した。

 そのときには、ずいぶんと『アンドロメダ』のキャラが変わってたんだ。


 普通の話し方、普通の立ち居振る舞い。まるで別人になったって思うほど、中身が変わってしまってた。

 そのことを気にする人もいたんだけど、「あぁ、きっと姫さまプレイを辞めて素になったんだろうなー」くらいでろくに話題に上ることもなかったんだ。


 でも、あたしはそれがよけい気に食わなかった。だから何度もアンドロメダにちょっかいをかけた。その結果、なぜか……ギルドのみんなでオフ会に参加することになってしまったんだ。

 あの、あたしの運命を変えることになるオフ会に。




 ◇◇◇




 オフ会に来たアンドロメダは、信じられないくらいの美少女だった。それだけじゃない、どうやらあたしを変な男たちから守るために、オフ会に参加してくれたみたいだった。


 美人なだけじゃなく、優しい。

 一方のあたしは、ブサイクなくせに性格も悪い。

 そんなの、あたしが勝てるわけがないじゃない。あたしは、最初から負けてたんだ。


 自分が負けてることを認めた瞬間、あたしの心は一気に軽くなった。それまでの心のトゲトゲが、ウソみたいに消えてなくなっていった。

 そしてあたしは……ようやく素直になることができたんだ。



 そのあとは、驚くようなことの連続だった。

 不登校になっていたあたしに復活を促すためにクラスメイトがうちに来たんだけど、それがなんとあの憧れのレノにゃんだったのだ!

 実はレノにゃん、二年生になったときからうちのクラスメートだったのだという。そんなの知ってたら絶対登校してたのに……まぁ友達がいないから知らなかったんだけどさ。


 しかも、そのあと担ぎ出された生徒会選挙で知ったんだけど、例のアンドロメダまで同じ学校の同級生だったのだ!

 あたしを闇の底から救い出してくれたアンドロメダのリアルネームは″日野宮あかる″。どうやら彼女もあたしと同じ学校だったことは知らなかったみたいで、すごく驚いた顔をしてた。


 そんなわけで、気がつくとあたしは……憧れの存在と救ってくれた恩人の二人とお友達になっていた。

 それからのあたしの日々は、それまでの鬱屈した日々がウソみたいに光り輝く楽しいものになった。

 新しく出来た友達。あたりまえの普通の日々。楽しい会話。放課後の寄り道。

 あたしの人生、負けを認めて下らないプライドを捨てた瞬間から、生まれ変わったかのように新たに輝き出したんだ。




 ◇◇◇




 最近は仲良くなったジュリちゃんと、過去の失敗話なんかで華を咲かせたりもしてる。ジュリちゃんもネットアイドル関連で痛い目を見た--あたしの同類だったから、すごく話があったんだ。

 そんなあたしたちを、仲間として受け入れてくれたレノにゃん……レノンちゃん。つい先日も三人でユニットみたいな感じで踊る動画をにゃんレボで配信して好評を得たりした。


 レノンちゃんには、どんなに感謝してもしたりない。

 同様に、アカルちゃんにもものすごい恩義を感じてるんだ。


 日野宮あかる。マリアナ高校のエヴァンジェリストで、抜群の知名度と人気を誇るスーパースター。「薔薇姫」とか「女帝」などと呼ばれる至高の存在。

 彼女は本当にすごい人だ。学校中の誰もが彼女に魅力されている。


 その人気のほどは、女子の人気を一身に集めているイケメン軍団『キングダムカルテット』の四人のうち三人が、アカルちゃんに夢中になってることからも分かる。

 あたしら野次馬の評価としては、現時点では″姫王子″いおりんこと汐くんが一歩リードしてる。みんなは汐くんを密かに『薔薇女王の正妻』などと呼んでいる。


 次いで生徒会長である″メガネ賢者″ガッくんこと天王寺くんが、正妻の座を追いかけている状況だ。先日の生徒会長選のときに全校生徒の前でひざまづいたのが評価が高い。あたしを含めたナイト厨には絶大な人気を誇るカップリングだ。

 実は天王寺くんはあたしがネトゲで憧れてたあの″ランスロット″だったんだけど、相手がアカルちゃんじゃあ勝ち目がないから、すぐに諦めちゃったんだ。そのかわり、あたしは二人の恋が成就することを密かに願ってたりする。


 あとは、最近一気に追い上げて来た″堕天使″ミカエルこと冥林くん。金髪ハーフの彼は、その甘いルックスもあってすごい人気なんだけど、同時に遊び人としても有名だったそうな。そんな彼が、最近他の女の子を振ってまでアカルちゃんにアタックしているらしい。


 あぁ、どうなるのかしらこの恋の三角……いいえ、四角関係はっ! あたしたちはそんなネタで盛り上がっては、楽しげに嬌声を上げたりしてたんだ。

 その辺が、今の学校内での最大のゴシップネタだったりする。


 そんなアカルちゃんが、なんと今度の学祭--マリアナ祭で、バンドとして出演するのだという。

 その話を聞きつけたレノンちゃんが、鼻息荒くあたしたちに言い募ってきた。


「ねぇみんな、これは絶好のチャンスにゃん! アカルにゃんのステージでバックダンサーとして踊って、その動画をにゃんレボで流すにゃん!」

「レノン様、それって……」

「ジュリにゃん! 分かってるからみなまで言うにゃ! さて、そうと決まればエリスにゃんも手伝うにゃん!」

「えっ⁉︎ ぼくもですかっ?」


 レノンちゃんの取り巻き--というよりにゃんレボの影のプロデューサーである恵里巣エリスくんが驚きの声を上げる。

 彼は普通の男子に見える後輩なんだけど、なんだかすごく落ち着いていてお兄さんみたいに感じる時がある。

 だけど今の恵里巣くんは、すごく戸惑ってた。


「レノンさん、ぼくが何を手伝うんですか?」

「エリスにゃんがアカルにゃんのステージの演出をするにゃん! エリスにゃんならきっとすごいステージにできるにゃん!」

「そ、それはとても魅力的なお話ですが、ぼくは例の件で日野宮先輩に嫌われてたりしないですかね?」

「アカルにゃんはそんなにちっさい心は持ち合わせてないにゃん! レノが一緒に謝ってあげるから大丈夫にゃん!」


 こうして、レノンちゃんに強引に押し切られたあたしたち『チームにゃんレボ』は、みんなでアカルちゃんのところに乗り込むことになったんだ。


 はてさて、どんなステージになるのかな?

 いまからとっても楽しみ!



 ねぇカミサマ。あたし……負けを認めて良かったよ!


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