7.初日
声をかけてきたのは栗色の髪の可愛らしい顔のイケメンだったんだけど、なぜか四人揃ってこっちに近寄ってきやがった。
ちょっと待てッ! とりあえずは【ステータス】で確認だッ! まずは声をかけてきたやつから……。
--《 汐 伊織 》--
state:摩利亞那高校二年の四大イケメン【キングダムカルテット(K4)】の一人。
通称『姫王子』いおりん。
栗色の髪にベビーフェイスが女子に大人気だよ。
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な、なんなんだこいつは。
キングダムカルテット!? 姫王子!?
俺が驚いている間にも、続けて残り三人のステータスもポップアップみたいに表示されていく。
--《 天王寺 学賀 》--
state:摩利亞那高校二年の四大イケメン【キングダムカルテット(K4)】の一人。
通称『メガネ賢者』ガッくん。
学年一位の成績に冷たいメガネが印象的な生徒会副会長のイケメンだよ。
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--《 火村 修司 (シュウくん)》--
state:摩利亞那高校二年の四大イケメン【キングダムカルテット(K4)】の一人。
通称『黒騎士』シュウ。
色黒のスポーツマンだよ。アカルの◎$Å。
◯☆△■◎♂〆▲‰△■◎♂〆▲$!?。
△■◎♂〆▲‰△■◎♂〆。
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--《 冥林 美加得 》--
state:摩利亞那高校二年の四大イケメン【キングダムカルテット(K4)】の一人。
通称『堕天使』ミカエル。
イマ風のファッションに金髪で、ケンカの強いって噂のイケメンだよ。
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ゔぉい! なんなんだよこいつらは!
全員変な呼び名がついてるし! なんかゲーム開始していきなりラスボス的な四天王が登場してきた感じじゃないかよッ!
しかもその中の一人、火村修司の【ステータス】が変だ。もしかしてこの表示は……文字化けしてるのか?
だが今はそんな無駄なことを考えている暇はない。俺がステータスを確認している間に、キングダムなんちゃらとかの一人である汐 伊織が俺の目の前にまでやってきていたんだ。
「やっぱり……あかるちゃんだっ! 春休みの間にずいぶんイメチェンしてきたねっ!」
「あっ、うぅ……」
まるで女の子みたいな可愛らしい笑顔で俺に語りかけてくる『姫王子』汐伊織。なんとなく『姫王子』なんてあだ名がついているのもわかる。こいつ……男のくせに姫みたいにキラキラしてるんだよ! まさに姫と王子が合わさったみたいなヤツだ。
俺がコミュ障丸出しな感じでロクに返事も返せない間に、他の三人のイケメンも俺のそばに近寄ってきていた。
「うぉぉ? この子マジであの日野宮あかる? すっげーなっ!」
金髪でチャラチャラしたキラキラネームのイケメン、『堕天使』冥林美加得くんが好奇の眼差しで俺の顔を覗き込む。
「おまえ、アカ……いや日野宮、なのか?」
その横で『黒騎士』火村修司とやらが驚きの表情を浮かべていた。こいつ、今サラッと俺の名前を呼び捨てにしようとしたよな?
でもまぁ今はそんなことはどうでもいい。こいつらのステータスを確認した瞬間、確信した。こいつらは攻略対象だ!! そうに違いない。でなければわざわざ向こうから声をかけてくるなんてありえないし!
しかし参った。いきなりやってきたこのイケメン軍団とどう接すりゃいいんだよぉ?
予想外の事態によって、俺は結果として完全に追い込まれていた。 アカルちゃん、万事休すっ!
--だけど、助け舟は不意にやってきた。
「おいお前ら、そのへんにしとけよ。日野宮さん困ってるだろう?」
おお、ナイスフォローだメガネイケメン!
こいつはたしか『メガネ賢者』天王寺額賀だっけか? でかしたぞメガネくん! 君はポイント高いぞぉ!
メガネ賢者ガッくんの一言のおかげで、俺を囲んでいた他のイケメンたちも一歩引いてくれた。そのスキに俺はサッと頭を下げると、「きゃー、イケメンに囲まれて恥ずかちぃ!」的な感じで素早くこの場から逃げ出したんだ。
ふぃぃ、危なかったぜッ!
あんなやつらに囲まれて話しかけられたら、絶対にボロが出るに決まってるじゃないか、なぁ?
◇◇◇
イケメン軍団たちからほうほうの体で逃げ出したあと、俺はなんとか自分の教室までたどり着くことができた。入り口の上には『2-A』と表示されたプレートが掲げられている。
いやー、ここまでたどり着くのにも【ステータス】が大活躍だったよ。こいつのおかげで自分の靴箱も教室もすぐに分かったしな。
通学ルートなんかも問題なく表示されたから、もしかしてこの【ステータス】って能力は結構チートなんじゃね?
それにしても、さっきのイケメン軍団はヤバかった。もしあいつらが本当に『攻略対象』なんだとしたら、今後の展開次第ではまた声をかけられる事態に陥りそうだな。勝手にフラグが立っちまったりとか、そんなの勘弁してくれよ?
……そういえば考えもしなかったけど、アカルちゃんに彼氏とかいたりしないよな?
もしいたとしたら、俺は……そいつの相手をしたりしなくちゃいけなかったりするのかっ!?
ゾクリ。背筋に冷たいものが流れ落ちる。
い、いやだ! そんなの絶対にイヤだ! 何がイヤって、男相手なんて無理に決まってるじゃん!!
俺が最低最悪の事態に思い至って頭を抱えていると、不意に目の前にポップアップが上がってきた。
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『ご安心を。アカルに彼氏はいないよ』
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うほっ、なんて空気の読める【ステータス】なんだ!
しかし助かったぁ〜! アカルちゃんに彼氏がいなくて良かったよ。なにせ男と手を繋いだりキスしたりとか……あぁ、想像するだけで耐えられんわ。あ、でももしこれが『乙女ゲーム』の世界だとしたら、今後は最悪の事態も訪れるかもしれないな。
まぁ良い、とにかくいまは教室に入ることだ。なにせ大事な最初の第一歩なんだからな。さぁ、これから俺の女子高生ライフの第一歩がスタートだ! たくさん友達作ってやるぜ!
俺は呼吸と髪の毛をさっと整えると、めいいっぱいの笑顔を顔に貼り付けて、思い切って教室のドアを開けたんだ。
ガラガラ。扉を開けた瞬間、一気に俺に集まる視線。
あ、あれれ? これはどういうことなんだ? みんな俺のことをなんだか驚いたような目で見てくるんだけど?
「お、はようございます」
予想外の反応に戸惑いながらもなんとか挨拶をする。ところがなぜか誰も返事を返してくれない。
……ちょっとちょっと⁉︎ なにこれヤバいよヤバいよ! なんなのさこの空気。かつての心の傷を刺激されてるような気がするんだけど、それがなんなのか思い出せない。
と、とりあえず席に座ろう。【ステータス】で自分の席を確認すると、どうやら窓際の後方にあるみたいだ。席の間を縫うようにして進んでいく。
俺が席に着くと、それまで黙っていた周りの生徒たちがまた会話を再開し始めた。そのことに、なんとなくこの教室に自分が受け入れられたのを感じた。
ふいぃ、どうやらここまでは違和感なく行動できたみたいだ。
続けてカバンを片付けたり教科書を机にしまったりしながら、無難な感じでその場をしのごうとする。いまのところ、アカルに声をかけてくる人はいない。
ガラガラッ。勢いよく教室の前方のドアが開き、続けて若い女教師が入ってきた。
「はーい、みんな席についてー。ホームルームを始めますよー」
どうやら彼女が担任の先生みたいだ。なんだか優しそうな感じの先生で良かったよ。
こうしてついに、俺の【日野宮あかる】としての学校生活がスタート……してしまったのだった。
---《おまけ》---
同級生1「あれが……日野宮あかる!? めっちゃ可愛くなってない⁉︎」
同級生2「うそっ⁉︎ まるで別人だわ! 信じられないんだけど……」
同級生3「あの子が例の【あの事件】の……」
同級生4「うわぁ、日野宮ってあんなに可愛かったんだ。完全に騙されてたよなぁ」




