表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/112

40.オンライン・コミュニケーション

 

 カタカタカタ。リズミカルにキーボードを打つ音がこだまする。よし、回復魔法が間に合った。この調子ならエリアボスを撃破できそうだ。

 ノートパソコンの前にあぐらをかいてキーボードを打ちながら、俺はいつものようにネトゲいきぬきをしていた。ゲームはもちろん『ドラゴニック・ファンタジア・オンライン』だ。

 今日はいつものパーティメンバーであるランスロット、侘助わびすけ、あめみぃ、そして俺の操るアンドロメダの四人でこのエリアのボスである『滅災獣ウラボロギガント』と交戦していた。こいつ、意外と硬くて時間かかるんだけど、上手く立ち回ればうちらでも撃破できるレベルの相手だ。


「やった!」


 およそ10分程度の激戦の上、あめみぃの落雷魔法が炸裂して、俺たちは無事エリアボスを撃破した。思わずリアルでガッツポーズしてしまう。それくらい回復役ヒーラーとして見事に立ち回れたと思う。

 レアアイテムも入手して、磨耗した装備の耐久力を回復させるためにも、意気揚々とギルドホームに帰還した……はずだった。





 我謝髑髏がしゃどくろ:「よう、おかえり。ウラボロ倒したのか?」

 ランスロット:「ああ、村長。今日も無事最後まで姫を守りきることができた」

 侘助わびすけ:「黒の牙と黒の鱗もゲットしたでござるよ!」

 我謝髑髏がしゃどくろ:「おお、よかったな! こっちもこの、かわいこちゃんのテイムが順調でゴキゲンさ!」


 いつものようにギルドホームで調教テイムをしていた我らがギルド【のほほん村】のギルマスである『村長』我謝髑髏がしゃどくろさんと気軽に挨拶を交わす。今日の村長はセクシーフォックスというキツネ型のモンスターを調教していた。さすがケモナー、ほんっとこの人ブレないな。


 そんなこんなで村長と雑談していると、ふいに赤い色の文字のチャットが乱入してきた。ゲッ、みかりんじゃねーか。


 みか☆りん♪:「やーん♪ ランス様おかえりぃ! いつもながらカッコいいわぁ♡」

 あめみぃ:「こらこら、うちらもいるんだけど?」

 みか☆りん♪:「あら、あなたたちいたの? 暇を持て余した専業主婦のオバさんやネカマになんか用はないんだけど?」

 あめみぃ:「なっ⁉︎」


 いきなり言ってはいけないどストレート発言キタコレ! いつもは温厚でチームの交渉役であり良き母 (?)でもあるあめみぃさんが、静かに切れてるのを画面越しにもヒシヒシと感じる。一応自分のことをネカマ呼ばわりしたのは無視しておく。だってある意味事実だし。

 一方のみかりんは。そんな……ディスプレイの向こう側で怒り狂ってる(であろう)あめみぃを完全無視して、白騎士ランスロットのほうにすり寄っていく。


 みか☆りん♪:「ランス様ぁ、オバさんやネカマなんてほっといて、リアル女子高生のみかりんと遊ぼうよぉ♡」

 ランスロット:「いや、俺は姫を守るために存在しているのだ。貴女の期待に応えることは難しい」


 うお、みかりん女子高生だったのか⁉︎ あのわけのわからない動画配信を見て幼いとは思ってたけど、まさか高校生だったとは……。


 ってかさ、リアル女子高生がこんなとこでネットゲームなんてすんなよな。もっとこう、現実リアルに楽しいことがたくさんあるだろう?

 そもそもネットってのはな、俺たちみたいな孤独に耐えかねた大人たちが、世知辛い世の中で背負った傷を舐め合う癒しの場なんだ。おめーさんみたいな小娘があんまり調子に乗ってると、すぐにネットスケベたちに喰われちまうぞ? ……なーんて偉そうなことを思いながら、今の自分もJKだったりするんだけどさ。


 ま、それは置いておくとして、さっきから暴言吐きまくりのみかりんは、自分の周りに取り巻き?のような男どもを何人もはべらせて逆ハーレムのようなものを形成していた。ちなみに取り巻きどもはゲームのアバターだけあって当然イケメン揃いだ。

 あーもしかしてこの子、バーチャル世界でホストクラブ気分を味わってるのかな? もしくは、オタサーの姫的な感じ? だとしたら、ほんっとに寂しいやつだよな。

 ……調子に乗りすぎて出会い系目的のスケベヤローにそそのかされたりして、痛い目にあったりしなきゃいいんだけどなぁ。その前に目が覚めれば良いんだけど。


 アーサー:「なぁみかりん、そんなのほっといて俺たちで遊ぼうぜ!」

 ウルフギャング:「そうそう! そんなやつのことよりも、今度のみかりんファンクラブの『オフ会』の相談しようよ!」

 剣客木村:「やっぱり場所は渋◯あたりかな? 俺、イカした店知ってるよん? 」

 みか☆りん♪:「にゅ〜、せっかくだならランス様にも『オフ会』来て欲しかったんだけどなぁ。ねぇランス様、そこのネカマなんかと違って、リアル女子高生に会えるチャンスだよ? しかもあたしは……カリスマネットアイドルの『れの☆にゃん』には負けるけど、これでもネットアイドルの端くれなんだからね?」


 むむっ⁉︎ オフ会だと? みかりんの聞き捨てならないセリフに思わず反応してしまう。


 オフ会、それは甘美な響き。オフ会、それはネット界のロマン。あぁ、なんという輝きを放つ言葉だろうか。

 だが同時にオフ会は危険な場所でもある。たとえば、イメージしていた外見と現実の違いに打ちひしがれる、なーんてのは序の口。まずいケースだと、そのまま犯罪的なものに巻き込まれたりすることが考えられる。

 ……などという俺のオフ会への偏見は置いておくとして、どうやらこいつらはみかりんを中心としたオフ会を企画していたようだ。それにランスロットを呼ぼうとしてたみたいだけど、どうも反応は芳しくないようだ。まー、あのサイトを見たら会いたくなくなるよなぁ。俺もドン引きしたし。逆に言えば取り巻きの男どもはよく会う気になったな。


 あめみぃ:「ちょっとみかりん。あなた彼らとオフ会するの? 女の子一人はさすがに危険じゃない?」


 おお! さすがは我がパーティの聖母マドンナあめみぃさんだ。さっきの暴言への怒りもそっちのけで、みかりんのことを心配して警告してくれてる。

 ところがみかりんは、そんな彼女の優しさに気づくことなく暴言を吐き続ける。


 みか☆りん♪:「あれー? あめみぃはもしかしてみかりんが一人モテモテだから妬いてるの? あ、それともオバさんも参加したい? ぷぷぷ、むりだよねー? オバさん一人浮いちゃうもんねー? あ、そうだ。そこのネカマと一緒に参加する? ネカマだからオフ会なんかに参加できないよねぇ?」

 あめみぃ:「こ、このクソガキが……痛い目に会うがいいわ!」

 みか☆りん♪:「うふふっ、心配ご無用♪」


 その後、堂々とオフ会の相談を始めるみかりんと取り巻きの男どもを横目に、俺たちはグループチャットで相談をし始めていた。



 --グループチャット--


 侘助わびすけ:「気にすることないでごさるよ、あめみぃ。あんなんほっときゃいいでござるよ。 どうせ痛い目に遭って思い知るでござるよw」

 あめみぃ:「……まぁそうなんだけどさ。子供持つ親としては、あんなんでもなかなか放っておけないのよ。ねぇランスロット、せめてあんたがオフ会に参加して、彼女を守ってあげれないかね? あんただったら身持ち固そうだし」

 ランスロット:「えっ? 俺は、その……」

 侘助わびすけ:「いやいやあめみぃ、ランスロットだって男でござろう? いいでござるかそれで? ミイラ取りがミイラになったりして、ぎゃははwww」


 ---


 うーん、なんともコメントに困る微妙な感じのチャットが画面を流れていく。

 個人的には俺は侘助さんと同意見で、みかりんがどうなろうと知ったこっちゃないんだけど--たとえネットの世界での接点だけだとはいえ、知り合いがあからさまに危険な目に遭いそうなのを無視するのも可哀想な気がするんだよねぇ。はてさて、どうしたものやら……。


 みか☆りん♪:「あーら、クソドロメダさん。あなたオフ会に参加できないってことは、やっぱりネカマさんだったのね? いやーん、初めてネカマを見たわ、きたなーい、けがらわしーい! この際だからネット掲示板にあんたのことネカマって晒してやるからね!」


 ぶちっ。

 あまりにも理不尽な暴言チャットを前に、それまで態度を決めかねていた俺の中の何かがプチンと切れた。


 はぁ? なにいってんだテメー。こっちは心配してやってるってのにつけ上がりやがって! ザケンナよ!

 だいたいなぁ、こっちはもうネカマじゃねーんだよ! リアルのJKなんだよ!


 ……よーし、わかった。テメーがそう言うなら参加してやろーじゃなーか! なにがオフ会だ、上等だよ!

 それに、俺が参加すれば、この子がひどい目に遭って目覚めの悪い思いをするのを避けることもできるしな。おおこれ、一石二鳥じゃん!


 アンドロメダ:「……するよ」

 みか☆りん♪:「あぁん? 何言ってんの、ネカマドロメダちゃん?」

 アンドロメダ:「だから、オフ会私も参加するよ」


 みか☆りん♪:「えっ?」

 アーサー:「えっ?」

 ウルフギャング:「えっ?」

 剣客木村:「えっ?」

 あめみぃ:「えっ?」

 侘助わびすけ:「えっ?」

 ランスロット:「えっ?」

 我謝髑髏がしゃどくろ:「えっ?」


 なぜか「えっ?」って単語で埋め尽くされる画面上のチャット。おいおい、なんでみんなそんなに驚いてるわけ?


 あめみぃ:『アンちゃん、あなたネカマじゃなかったの⁉︎』


 驚いた様子のあめみぃさんからわざわざ1:1チャットまで飛んでくる。おいおい、あんたも俺のことネカマだと疑ってたのかよ! でも、こんなにも近しい仲間からネカマと疑われて、かつ受け入れられていたのかと思うと、なんというか……嬉しいのか悲しいのか、複雑な気分になる。まぁ元々ネカマなんだけどさ。

 と、とりあえず返事するか。カコカコカコ。


 アンドロメダ:「私がなんだろうと、この際関係ないでしょ? あの子が危険な目に遭わないように、私が参加して出来る限りのフォローはするよ」

 あめみぃ:「……アンちゃん、あんたいい子ねぇ。でも大丈夫?」

 アンドロメダ:『大丈夫だよ。私に任せといて』

 あめみぃ:『うーん……でもさすがに心配だから、あたしも行くようにするわ』


 あれま、あめみぃまで参戦するとか言いだしちゃったよ! マジかよ、すげぇなこれ。実際あめみぃはこっちの返事を待たずに「だったらあたしも参加するわ!」とチャットで宣言してしまう。

 すると今度は侘助わびすけが「おお、面白そうでござる! だったら拙者も参加するでござるよ!」などと言い始めて、そしたらギルマスの我謝髑髏がしゃどくろさんが「よーし! ここまで話がでかくなったんだったら、もう思い切って我らがギルド【のほほん村】の公式オフ会にしちまおう!」と宣言してしまったのだ。

 こうして、あれよあれよと言う間にオフ会の段取りが凄まじい勢いで進んでいった。


 そんな中、ランスロットだけは最後まで態度を保留していた。しかし、自分アンドロメダの参加が決定打となったのか、最終的には「姫を守るためなら……致し方あるまい」と言って参加を決断した。


 こうして、第一回の『ギルド【のほほん村】オフ会』が正式に決定してしまったのだった。



 うわー、なんかいつのまにかえらいおっきな話になっちまったよ。

 ……でもまぁいい、どうせ参加するからには、女の子でいる間にアカルちゃんのフルパワーをみかりんにぶつけて、二度と変な気を起こさないようにしてやるぜっ!

 あとついでに、アンドロメダのネカマ疑惑も払拭できるしな。まぁネカマなんだけどさ。


 うおー、なんか燃えてきたーっ!

 オフ会、かかってこいやーっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ