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38.【アナザーサイト】土手内 珠理奈の場合

 ジュリの名前は土手内どてない 珠理奈ジュリナ摩利亞那マリアナ高校に通う一年生なんだ!

 トレードマークはツインテールにしたこのヘアスタイル。今日もめいっぱいおしゃれして、マリアナのファッションリーダーになれるよういーっぱい努力してるんだよ。


 そんなジュリにはとーっても尊敬する先輩がいます。その人がいるから、ジュリはこの高校を選んだようなものかな?

 その先輩は、すごく綺麗で、美人で、優しくて、気立てが良くて、ジュリのことをとっても可愛がってくれます。

 ジュリみたいな人造の……偽物じゃありません。本物です。



 ジュリが尊敬してやまないひと。

 その人のことをジュリは、尊敬の念も込めて……。


  『礼音れのん様』と呼んでいます。




 ジュリは小さな頃から目立ちたがり屋で、周りからチヤホヤされることが大好きだった。学校でもそこそこチヤホヤされてたんだけど、やっぱり本物のアイドルになれるほどのルックスは持ち合わせてなかったかな。

 そこそこだけど、つきぬけて目立つほどの存在じゃない。そんなジュリが見つけた、新しい居場所がありました。ジュリみたいな子でも輝ける世界。そう、″インターネット″です!


 新たに見つけた新世界……ネットの世界で、ジュリはアイドルの真似事みたいなことをしてました。いわゆるネットアイドルってやつです。

 最初のころは、ジュリみたいな若い子がネットをしてるってだけでチヤホヤされました。……それで勘違いしちゃったんでしょうね、えへっ。調子に乗って顔を露出して、思いっきり叩かれちゃったんです。ジュリ、大失敗です。

 その結果待ち構えていたのは、誹謗中傷の嵐……″炎上″でした。


 ブサイク、調子に乗るな、消えろブス。そんな酷い言葉をたーくさん投げかけられて、ジュリは本当に落ち込んだんだ。このまま死んでしまおう、そう思うくらい落ち込んだんだ。


 そんなジュリに手を差し伸べてくれたのが、レノン様だったんです。

 レノン様とは炎上前からのネット友で、近くに住んでいることを知って、ジュリからお願いしてフォローしてもらってました。とはいえ、リアルの付き合いはそのころは無かったんだけどね。

 だけどレノン様は、炎上騒ぎのときにすぐにリアルで会いに来てくれて、ジュリを慰めてくれました。そして、落ち込んでなかなか這い上がれないジュリのことをいっぱい優しくしてくれて、たくさん連絡もしてくれました。そんなレノン様に、ジュリはたくさんの弱音を吐きました。


「ジュリ、ブサイクなのかな? 消えた方がいいのかな?」

「なに言ってるにゃん⁉︎ ジュリは可愛いにゃん。誰がなんと言おうと、レノはジュリのことを可愛いと思ってるにゃん!」

「でもジュリ、誰からも必要とされてないみたいだし……」

「それを言うならばレノだって一緒にゃん。でも大丈夫、レノだけはジュリのそばにずっといるにゃん♪」


 そう言って、ジュリを優しく抱きしめてくれました。ジュリ、本当に嬉しかったんだぁ。


 このときから、レノン様はジュリの〝神様〝になったんだ。その後ジュリは、レノン様のお勧めもあってネットから引退したんです。




 こうして礼音れのん様は、ネットアイドルもどきのことをして炎上騒ぎを起こした中学校三年生のジュリを救い出してくれました。レノン様は、あの真っ暗で、なにも見えないような絶望の世界に突然現れて、閃光のように手を差し伸べてくれたの。

 そのおかげで、ジュリは炎上騒ぎのトラウマを払拭できたと思ってる。今思うと、炎上というほどのものではなかったかもしれない。それでも、レノン様がジュリを救い出してくれたことだけは確かなんだ。



 それからは時々、リアルでレノン様に会うようになったんだ。レノン様はジュリに、可愛くなる方法をたくさん教えてくれたの。そして……同時にたくさんの秘密も教えてくれた。


 とっても優秀な姉がいること。

 そのお姉さんにコンプレックスを持っていること。

 お姉さんが優秀すぎて、自分の居場所が無かったこと。

 だからインターネットの世界に自分の居場所を求めたこと。

 それがわすが半年前のことだということ。


 ……あまりにもジュリに似てて、思わず泣きそうになっちゃった。特にネットにしか居場所がないっていうのが、ジュリと同じだった。

 どうやらレノン様もそう思ってくれてたみたいで、だからこそジュリに声をかけたのだと言ってくれました。


 そしてレノン様はこうも言いました。


「だからレノは、世界を変えようと思ってるにゃん。つまり……『革命』にゃん!」

「革命……ですか?」

「そうにゃん! 『革命』を起こして、レノやジュリみたいな子たちが過ごしやすい世界を作りたいと思ってるにゃん!」

「レノン様、それはすごいですねっ!」

「そうにゃん! だから、ジュリにはレノの側にいて、その力になって欲しいにゃん」


 そう言われて、ジュリは狂喜乱舞したんだ。だってジュリ、必要とされたんですよ? しかも尊敬するレノン様に、ですよ? これが喜ばずにいられますか!


 レノン様の手助けをするためにも、まず……ジュリはいっぱい勉強した。もともとジュリは頭は良かったから、レノン様の期待通りにマリアナ高校に受かることができたんだ。首席だったのは神様がくれたご褒美かな? レノン様はものすごく喜んでくれたんだよ。



 こうして無事マリアナ高校に入学したジュリに、レノン様は今後の話をしてくれた。

 今自分は革命を起こす前段階として、手始めに生徒会長になろうとしていること。だけど天王寺てんのうじ 額賀がくかとキングダムカルテットっていう強力なライバルがいて、彼らに勝つために仲間を集めているんだってこと。そして生徒会長になったあかつきには、その仲間たちと生徒会を支配して、この学校に革命を起こすんだって言ってた。

 続けて紹介されたのが、レノン様の仲間たちだった。それが、新聞部の我仁がに部長や……同級生の恵里巣えりす 啓介けいすけだったの。


 恵里巣えりすは不思議な男の子だった。入学したころはまるで目立たない奴だったのに、気がつくと一年生の間でも有数の有名人になってた。なんなの、あいつ。気持ち悪いんだけど。

 ……そんなこともあって、正直ジュリは恵里巣えりすのことがニガテだった。だってあいつ、なんか底が知れない・・・・・・感じなんだもん。それでもレノン様が仲間だと言うから、無理やり受け入れることにしたんだ。たしかに、あいつの持つ影響力はすごいからね。




 そしてレノン様は、生徒会長選に勝つためにはさらに味方に引き入れたい存在がいると言った。それが……二年生の日野宮あかるだったんだ。


 日野宮あかる。彼女がこのマリアナ高校でも特出した存在なのは、一年生のジュリでもよく知ってる。

 例の『日野宮あかる無双事件』で一躍有名になった人。びっくりするくらいスタイルが良くて、アイドルをやってるレーナちゃんに匹敵するくらいのルックスを持った美少女。同級生にもファンが多くて、『女王ザ・クイーンあかる』とか『乙女の守護者アフロディーテあかる』なんて呼んでた。


 とはいえ、さすがのレノン様もどうやって日野宮あかるを味方に引き込むか手をこまねいてたみたい。なにせ彼女の周りにはキングダムカルテットの一人、うしお 伊織いおりがチョロチョロしてたから。


 そんなときだったの。

 ジュリが、絶好のチャンスを手に入れたのは。



 それはある日のこと、ジュリが電車に乗ってたら、どこかのクソオヤジがこともあろうかジュリにチカンしてきたんだ!

 なんだこのクソゴミは! 引退とはいえ一時期ネット界を席巻してたジュリに穢らわしい手で触れてくるなんて、言語道断だわ。絶対許さない。どうやってこのクソゴミを社会的に抹殺してやろうか。


 そんなことを考えてたときに、運命の神様はジュリに微笑んでくれたんだ。

 なんと、チカンされてたジュリを庇ってくれた人がいたのだ。しかもそれが……なんとなんと、例の″日野宮あかる″だったの! ジュリはほんっと驚いたね! あんまりにも驚きすぎてドモッちゃったくらいだもん。


 ジュリの前に颯爽と現れて、チカンの魔の手から救い出してくれた日野宮あかるは、びっくりするくらいの美少女だった。レノン様くらい……もしかしたらそれ以上の整った顔立ちに、初めて間近で見たジュリは、思わずドキッとしてしまったんだ。

 そのあとも日野宮あかるはずっとジュリを励ましてくれたりした。どうやらチカンされて落ち込んでると勘違いしてたみたい。へー、見かけだけじゃなくて、性格も案外いい人なのかな?


 ぶっちゃけホントはどうやってこのクソオヤジを社会的に抹殺しようか考えてただけだから勘違いも甚だしいんだけど、そんなことはどうでもいいくらいいまの状況は好都合だった。なにせジュリは、ついに……レノン様が攻めあぐねていた″日野宮あかる″へのクリティカルパスを手に入れたのだから。

 あまりに興奮しすぎて身震いしちゃったんだけど、それすらも日野宮あかるは勘違いしてくれたみたいだった。しめしめ、上手くいった。



 あとでレノン様にこの出来事を報告したら、ものっすごく褒められたんだぁ。


「ジュリ、偉いにゃん! さすがはレノのジュリにゃん!」


 レノン様にそう言われて、ジュリはあのチカンのクソオヤジに感謝したくらいだった。社会的抹殺は勘弁してあげよう。でも次またしたら……ふふふ。

 するとその話を横で聞いていた恵里巣えりすが穏やかな口調で口を挟んできた。


礼音れのんさん、これは千載一遇のチャンスですね。おかげでとても良い手を思いつきました」

「エリスたん、それはなんなのにゃん?」

「土手内さんは一年生の首席、すなわち風紀委員ですよね? 風紀委員には必ず指導役である導き手メンターがあてがわれます。普通であれば前年の風紀委員……天王寺額賀がなるのですが、生徒会規則によると、メンターを選ぶ権利は指導される側、つまり土手内さんにあるんです」

「……ふんふん、それで?」

「実はこれまでは、天王寺額賀をメンターに指名して、土手内さんによる色仕掛けをすることを考えてました。ですが、正直上手くいくと思えなかった」

「なによそれ、恵里巣。ジュリに魅力がないっていうの?」


 恵里巣えりす 啓介けいすけ。こいつはまるで参謀みたいなツラしてレノン様に話してくる。それがすっごいムカつくんだけど、レノン様の手前、ガマンしてた。ただ、さすがに今の言い方にはイラッとしてつい言い返しちゃったんだけどね。


「そうじゃないよ、土手内さん。天王寺額賀はほら……現・生徒会長にゾッコンだからさ」

「あぁ……そう。わかってるわよ、そんなの」

「ジュリ。レノはジュリのことが大切だから、あなたにそんなことさせないにゃん」

「レノン様……」


 天王寺額賀が現・生徒会長を心酔してるってのは有名な話だ。わかってはいるけど……なんかムカついた。でもレノン様に嬉しい言葉を貰ったから、ここは矛を収めよう。レノン様に感謝しなさいよ、恵里巣。


「でも、今回の土手内さんの話のおかげでより良い案を思いつきました。天王寺額賀の評判を落とすという作戦から変更して、新たなターゲットを日野宮あかるに定めるんです」

「……それはどういうことにゃん?」

「つまり、土手内さんに日野宮あかるをメンターに指名してもらうんです。その際、もしそれで天王寺サイドが断ってきたりしたら、そこを突いて評判を落とせば良いですし、うまいこと日野宮あかるがメンターになったら、こちらのサイドに引き込むんです」

「ほっほー! にゃるほど! さすがエリスきゅん、良いアイディアにゃん!」


 ……すごく悔しいけど、恵里巣えりすの提示してきた案はすごく良いもののように思えた。さすがは入学してほんの短期間で名を上げて、一年生の人気者になっただけのことはあるわ。



 こうして恵里巣の案を採用することになったので、ジュリは天王寺額賀にメンターとして日野宮あかるを指名することを伝えた。話を聞いた天王寺額賀は、ひどく驚いた顔をしてジュリに尋ねてきた。


「……一応聞くが、なぜ日野宮あかるを指名するんだ?」

「実は先日、電車でチカンされてるところを日野宮先輩に助けてもらったんです。それで……日野宮先輩のことをすごく尊敬してまして、もし教わるなら先輩がいいなって思ったんです。それにチカンにあって以来、男性が少し怖くて……今の生徒会の二年生には男性しかいないのですよね?」

「あぁ、なるほどね。分かった、検討させてもらう」


 若干顔をしかめながらも、天王寺額賀はジュリの希望を持ち帰ってくれた。ふふふ、ちょろいもんだわ。

 しかもそのあとしばらくして、計画どおりに日野宮あかるがジュリのメンターを引き受けた旨の連絡をもらったのです。



 さぁ、これで舞台は整った。ジュリの使命は、日野宮あかるを味方に引き込むことです。

 敬愛するレノン様のためにも、ぜったいに日野宮あかるを味方に引き込んで見せるわ!


 ……ただ、なんでだろう。日野宮あかるの顔を思い浮かべたとき、少しだけ胸がドキッとしたんだ。


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