鍛錬
皆さんに読んでいただいているのを数字として見ていますが大変嬉しく励みになります。
無計画に書いてるので読んでて戸惑うこともあるかと思いますが、よろしくお付き合いしていただけると幸いです。
正面から飛びかかるウルフを右の回し蹴りで蹴り飛ばし、反動で左手を一閃させ後方の一匹を斬り裂く。
蹴り足を戻しすぐさま跳躍し次を突き刺す。身体を反転させる勢いで引き抜き、飛びかかるウルフを斬り捨てる。
同時に三方向から飛びかかって来たので自ら右側のウルフに飛びかかり横斬りに一閃し、そのまま反転。二匹でもつれ合っている所を一方は突き刺し、もう一方は踏みつけて寸剄で止めを刺す。
森での戦闘を繰り返して今日で三日目。もちろんゲーム内時間でだ。
外気功もかなり使えるようになり、体の何処であれ練気さえ十分にして触れれば經力を打ち込むができるスキル《寸經》も覚えた。
ステータスも
ユル 人
称号 製造マスター
状態
装備 直刀「無名」、直刀「無名」、デイルのコート、デイルのパンツ、デイルのシャツ、アルトの腕輪
Str 135
Vit 89
Agi 326
Dex 248
Int 84
Min 86
Atk 399
Def 201
Matk 81
Mdef 102
と、かなり成長していた。
このゲームはステータスが上がれば強くなるが、身体を動かすのは自分の裁量がメインなのでなれないとステータスが上がっても感覚が付いていかなければ雑魚と同じである。
そしてある程度まで上がるとそれ以降は新しくアビリティを身に付けなければ成長しない。
ユルは街で色々と試し、取れる限りのアビリティを取っていたのと、成長できるだけさせたい、と戦闘時以外でもアビリティを常時発動していたことで初期としては格段に成長したのだ。魔法以外は常に反復行動し、身体能力の上昇に伴う反応速度も上がっていった。
森でもアビリティ《縮地》《ダッシュ》《反射神経》《夜目》《武術》《強弓》《遠射》《連射》等かなりの量も増えていた。戦闘に関係のないとこでは、《サバイバル》《調理》、そして《自慰》まで覚えた。
リアルでここ数日ほど処理しておらず、セックスは相手がいないから無理だけどオナニー位ならと試しにしてみたら修得してしまった。ちなみに効果は『性欲の上昇、抑制力の上昇』という隠れステータス? (意味あんの?)の上昇だった。
身体も反応も十分に成長したし、そろそろ次のことをしよう。そしてそろそろ落ちて寝たい。流石に徹夜はキツイ。
俺はこのゲームを買うためにバイトをし、ゲームをするためにバイトをやめた。そして夏休み中。リアルの時間を気にせずにずっと潜っていたのだが流石にキツイ。ご飯はこっちで食べてれば空腹感はないので気にならないが、リアルの俺はきっと栄養不足だろう。そろそろ落ちて寝よう。街にもどるのも億劫なので樹の上に登る。
最近分かったことだが樹の上だとアクティブモンスターにタゲを取られないのだ。ただ、木の上で行動するモンスターがいた場合はその限りじゃないはずだけど。
「っくぁあ~……眠。さて、ログアウ、ん?」
いくつもの気がかなりの速度で移動している。今まで森にいたけどこんな気配はなかった。何事かと思い気配のする方を凝視していると、見えた。
木の合間からだが見えたそれは、走る一人の人影とそれを囲んでいる二十匹前後のウルフだった。
その影は走っていたが、前方に数匹のウルフが回り込んでいたのに気づき足を止めた。
その周囲のウルフも足を止め、円を描いて包囲していた。じわじわ縮む包囲網に火柱が立つ。どうやらあの人影は魔法をメインに使うらしい。よく見ると杖を持っている。炎に照らされた姿はどうやら女性らしい。
いくらか火柱が上がり、ウルフ達の動きが鈍ったが確実に放置網は縮んでいた。
彼女は杖を構え接近戦に移るようだった。どうしようか、と悩んだがまだ敵は十数匹はいる。もし見捨てて死んだとしたら後味が悪い。いらんお節介かもしれないが、と思いながら弓を構えた。
「火柱」
立て続けに放った魔法で魔力が底をつきかけていた。
「くっ……来なさい!」
魔法職に憧れて魔法メインで戦ってきたから杖術はそんな得意じゃないけど、そんなこと言ってられない。負けて死に戻りなんてごめんだわ。
「てやあぁ!」
近づいて杖の先でウルフの頭を渾身の力で突く。上手く額に決まったらしく、「ギャン」と吠えると脳震盪でも起こしたのか倒れて動かなくなった。
休む間もなく横手から飛びかかって来たので突き出した杖をそのまま力任せに振り抜いた。ガツと手応えがあったが跳ね飛ばしただけで、距離を置いて様子を伺っている。ダメージがある内にと思い飛びかかったが躱され、逆に飛びかかられた。
「きゃぁ」
反射的に避けたがバランスを崩し、後ろに倒れてしまった。
「ギャ」
倒れてすぐにウルフの悲鳴が上がり、声のほうを見ると、先ほど飛び掛ってきたウルフの頭を矢が突き抜けていた。
すぐさま他のウルフ達も警戒したが、続けざまに三頭が同じ運命をたどった。
その隙に立ちあがり、周りを警戒するといつの間にか一人の女性がそばにいた。
「悪いけどこっちで終わらせるよ」
「え?」
そう言うと彼女の姿が霞んだ。
「ガァ!」「ギュ」
声がしたほうを見ると彼女がいつの間にか二振りの刀でウルフの首を落としていた。
それからはあっと言う間だった。彼女の髪が月で反射するのか、はたまた彼女の刀の煌きか。銀光の煌きの先には彼女がいて、銀光により死が振りまかれていた。
「……綺麗」
私は銀光の筋を目で追い、彼女の舞踏を眺めていた。
いつの間にか戦闘は終わり、動くものは私と彼女の二人だけだった。
「あの! ありがとうございます。私」
「ああ、いいから。迷惑かとも思ったけど。悪いけど俺もう眠いんだ。じゃ」
それだけ言うと彼女はひらりと飛び上がり樹の枝の上でログアウトしてしまった。
「……また会えるかな」




