02
翌日は、赤の騎士団の半数とともに、廃城ダウンの西側へ向かった。
外壁には虫や蛇のモンスターが張りついているのは相変わらずだが、草原地帯には、見上げるほど大きな岩があちらこちらに転がっている。ハル達が近づくと、岩から手足が生え、頭部のくぼみに赤い光が浮かんだ。
「あれがロックゴーレムだ」
「核はどこかな」
「さあ、そこまでは資料にのっていない。怪しいのは、あの目玉みたいな光だが……。そんなに分かりやすいだろうか」
「とりあえず射抜いてみるね」
ハルは弓に変化したユヅルを構え、こちらにのしのしと近づいてくるロックゴーレムの赤い光に照準を合わせる。そうすると、ハルには矢の飛ぶ軌道が見える。
「ここだ!」
バシュッと光の矢が飛び出し、赤い光に衝突する。
「おおっ、命中じゃ!」
後方で、職人の男達が声を上げた。
ロックゴーレムはズウンと地鳴りを上げて、地面に倒れる。その後、動く様子がなく、ただの岩石になり果てたように見えた。
「……まさかあそこが弱点? 分かりやすすぎない?」
「とりあえず核を回収してみないことにはな」
ハルとユリアスは顔を見合わせ、どちらともなく、慎重に歩きだす。
「殿下、私が……」
「フェルは警戒していろ。危険なら戻るから、支援してくれ」
「承知しました」
フェルは大人しく引き下がり、騎士達に構えの合図を出す。
「ハル、動きそうなら攻撃を頼む。俺が確認する」
「分かった」
こういう時、ユリアスは率先して危険なほうを選ぶ。言い出すと聞かないので、ハルは言われた通り、ユリアスの安全を守るために、ロックゴーレムの様子を注視した。
「ん? ああ、核が割れている。ハル、これだ」
ユリアスが拾い集めた金色に輝く破片は、元は丸い玉だったのがひと目で分かるものだった。ハルはほっと息をつく。
「ロックゴーレムを倒すのって、簡単なんだね」
「まあ、お前の弓の腕が良いというのもあるんだろうが……。こいつが腕で顔を守っていたら、仕留めづらそうだ」
「またまた~、昨日みたいに、雷で破壊すればいいでしょ」
「それもそうだな」
ユリアスは念を入れて、ロックゴーレムの体を、杖の先でつつく。うんともすんとも言わないので、ようやく納得を見せた。
二人で騎士団のもとまで戻り、状況を説明する。フェルは問題が一つ解決したことで、皆の表情が明るいものになった。
「頭を狙えばいいだけなら、簡単ですね。石材はこれで確保できそうです」
「この辺は、具合の良いことに泥や砂が多い。奇岩地帯から石灰石を少量拝借すれば、セメントの材料も充分にまかなえそうですな」
どうやらもっとも年配に見える五十代ほどの男が、職人達のリーダーのようで、代表して意見を口にする。
「足りないものがあれば、相談しろ」
ユリアスが指示を出す傍らで、ハルは動きだすロックゴーレムという不思議な光景を、フォトの魔法で撮影する。カクカクと動くロックゴーレム達は、遠くから見ると人形みたいでかわいい……気がした。
「ねえねえ、イイネが二十三個もついたみたい。神様達にはかわいいって評判だよ。ちょっと分かるかも」
ハルは笑みを浮かべて、ロックゴーレムを示す。ユリアスだけでなく、フェル達も不可解そうに首を傾げた。
「あれがかわいいのか……?」
「そ、そんなこともあるかもしれませんね」
あからさまに、フェルは気遣いの言葉を口にした。女性達も謎めいた顔をしている。そんな中、職人達には数名が同意をあらわす。
「分かりますぞ、ハル様! あのボテッとしたフォルムに、丸い目。なんともいえないかわいさがあります!」
「親方、後で泥人形を作ってみようぜ。ここの土産物に良いかもしれない」
城の修復もまだだというのに、彼らはわいわいと地元の名産品案を出して盛り上がる。
ユリアスはやっぱり首をひねっている。
「分からん……」
「ええー、かわいいと思うけどなあ」
ハルは口をとがらせたが、自分が職人達と似た感覚を持っていることに、ちょっと戦慄した。




