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救援依頼

 当然も常識も、時代と場所によって違って来る。未だ子供の私には本当の意味なんて理解出来ないけれど、きっと旅路の中で理解して行くのだろう。


「うーん。お風呂って最高だわ。疲れが溶け出すわね」


 例えば私が今一人で入っているお風呂。砂漠の世界のイエロアでは水は貴重だから全身が浸かれる位の量の水を用意して更に温めるなんて本当に贅沢で、清貧を尊ぶチキポクでは年に一度のお祭りの日にだけ入れるのだけれど……。


「君は勇者だからね。特別さ」


「ゆっくり疲れを癒して旅立って下さいね」


 こんな風に儀式の成功を祝して用意してくれた。少しだけ罪悪感が有るけれど、それでもお風呂は気持ち良い。本当は水の節約の為に大勢で入るから浴槽は広くて少し寂しい気もする。あの清女の二人なら別に一緒でも……。


「いや、却下よ。あんなメロンをぶら下げている人達を無理に誘ってまで一緒に入るなんて」


 あの二人の双丘を思い起こしながら自分の断崖絶壁を撫でる。揉む、じゃなくって撫でる。私には揉める程の大きさが無い。


「……別に良いもん。大きくなったら胸も大きくなるから。……お母さんに似なければだけど」


 お父さんが酔っ払った時にした話だけれども、お父さんには母親が同じお姉さんが沢山居て、全員胸が大きかったらしい。そんなのを見て育ったから逆にお母さんの絶壁が魅力的に思えた、数秒後に殴られる事になった言葉だ。


 つまりお父さん側の影響が強く出れば大きくなれるという事。子供の頃から膨らみが有ったとも言っていた気がするけれど、お父さんか私の記憶違いと断定している、根拠は特に無い。


「父方父方父方父方……乳だけに、乳だけに」


 一応私は美の女神のイシュリア様に気に入られたみたいで、こうして祈れば美乳にはして貰えるかも知れない。神様は司る物が同じ方が男女対になっているらしいから男の方の美の神様の祝福も欲しいけれど、多分変な神様だから会いたくないとも思う。


「欲張り過ぎは破滅の種なのが物語では基本よね、うん。……どんな方なのかは賢者様に訊ねれば良いだけだし」


 女神様さえ関わらなければ賢者様の意見は信用出来る。お風呂上がりにアイスを用意してくれるらしいから濃厚な抹茶アイスを食べながら訊いてみようと思った時だった。


「わわっ!?」


 天井に突然出現した魔法陣。その中心から弾き出される様に飛び出した誰かがお風呂の中に落ちて水柱が上がる。背後だったから曇った鏡越しでどんな人かは分からなかったけれど……一つ分かる事がある。


「の…覗きぃいいいいいいいいいっ!」


 さっきの声は間違い無く男の人の物。聞き覚えがある気もするけれど反響していたから分かりにくい。だけど男の人なのは確かなので思わず叫んだら直ぐに武装したお姉さん達が駆け付けて来た。


「勇者様、これをっ!」


 その中の一人がバスローブを渡してくれたので慌てて羽織れば湯船に飛び込んだ残りの人達が男の人を取り囲んで浴槽から引き吊り出して押さえ付ける。


「この変態!」


「勇者様の入浴を覗くなんて不届き者っ!」


「ロリコンペド野郎めっ!」


「幼女体型マニア!」


「貧乳がそんなに好きかっ!」


 ……気のせいかもしれないけれど、罵倒の殆どが私に向かって来ている。よく見ればお姉さん達は皆さん立派な物を持っているのが服の上からでも見て取れた。


「今まで何度こんな事をやって来た! 二度かっ! それとも三度かっ! やり方が悪いから大した回数では無いだろうが、許しはしないぞっ!」


「ま…まってくれ。誤解だっ!」


「五回? 五回も覗きを繰り返して来たのか貴様っ! 来いっ!」


 縛り上げられて連れて行かれる男の人の顔はお姉さん達に殴る蹴るされて腫れ上がっているけれど、落ち着いて漂って来た匂いを嗅げば声と合わせて誰か分かった。お湯に混じった薬草の強い香りや動揺で分からなかったけれど知り合いだ。


「シフドさん?」


「ああ、転移の気配を感じたので様子を探っていましたが彼でしたか。……ご安心を。私は妻以外の入浴シーンに興味は有りませんので」


 声がした方を向けば気遣いなのか目に布を巻いた賢者様が入り口に立っている。その補足は別に要らないし、腹が立ったので少し誤解を招く言い方で女神様に言い付けるのは決定として、今はシフドさんの事を優先しようと思う。



「そ、その声はっ!」


 先程まで変質者扱いで袋叩きにされていたシフドさんは私と賢者様の声に気付いたらしくハッとして顔を上げる。どうやら知り合いらしいと思ったのかお姉さん達の拘束が緩んだ瞬間、彼は床に額を叩き付ける勢いで土下座をしながら叫んだ。


「勇者にこんな事を頼むのは間違っているのは重々承知だ。だけれどもお願いしたい! 私の友を助けてくれ!」


「えぇっ!? あの、一体何が起きたの?」


 彼が姿を消したのは昨日の事で、一緒にオークションに参加しに来た考古学の仲間は居なかった筈。あまりの事態に私が混乱する中、賢者様は彼が出て来た魔法陣が出現した辺りを眺めている。


「……成る程。随分と性根がねじ曲がっているらしい。シフドさん、そのご友人は魔族ですね?」


「……なんだと? おい、賢者様の問いに間違いは無いのか?」


 途端にお姉さん達の空気が変わる。先程までは変質者を連行する程度の何処か軽い空気だったけれど、魔族が友人と聞いた途端に表情が引き締まり、シフドさんに向ける目には敵意が感じられる。


(……そうね。私は何人かに会って敵には違いないけれど色々な人が居るって知ったけど、会って対話しなければ恐ろしい人類共通の敵だもの)


 だから認めるのには勇気が要ったのでしょう。だけれど、シフドさんは身の安全より友情を選択した。下手すれば殺されるかも知れないのに迷いもせずに頷いた。


「間違いは無い。短い間だったが共に冒険をして、私達の間には友情が芽生えた。タンドゥール遺跡の奥まで進み、封印を解いた所で……」


「ちょっと待った。今、タンドゥール遺跡の封印を解いたと言いました?」


 シフドさんが認めた瞬間にお姉さんの一人が拳を振り上げる。その腕を掴んで止めた賢者様は確かめる様に質問を投げ掛けるけれど私には否定して欲しそうに見えた。だけれどシフドさんは頷いて、賢者様は頭を抱えてうずくまってしまった。伝説の賢者の思わぬ姿にお姉さん達はビックリして目が点になっているし、これは放置出来ないわ。


「……何て事だ。師匠に怒られる。これは事態が悪化する前に止めなければ……」


「賢者様、他の人が見てるわ。賢者様らしくして。ほら、立ち上がってシャキッとして……何かするのなら付き合うから」


「感謝します。……では、彼のお願いも有りますし急ぎましょうか。その前に……えい」


 流石に歴代の勇者を導いて来た賢者様の醜態をよりによって前回の聖都で晒す訳には行かないわ。私が賢者様の腕を掴んで立たせれば我に返った賢者様は指を軽く鳴らす。お姉さん達の頭の上で泡が割れて、全員寝ぼけ顔になった。


「記憶操作かしら? 賢者様や勇者が魔族を助けるなんて知られては駄目だもの。……人間と仲良くなれる魔族なら助けたいわ。って、あれ? シフドさんまでボケーッとしているわよ、賢者様!?」


「……いや、魔法陣の痕跡から向こう側を調べたのですが、感じた力からして助けを求められた方の生存率は殆ど有りません。それこそヒロイン複数のラブコメの色仕掛け担当や主人公に片思い中の幼なじみポジションのキャラ並みに。彼もそれは分かっているでしょう」


「訳が分からないわ。賢者様、それも地球に存在する何かなの?」


「まあ、私は遺跡自体に用が有るのですが、彼からすれば友の命が懸かった願いです。……変に恨まれれば面倒ですので。人間、感情の前では理屈が消え去りますから。友との離別とはそれほど悲しい物なのです。……所で別の例は何が良いでしょうか?」


「もう説明は構わないから急ぎましょう。正直言ってどうでも良いわよ?」


 賢者様、少し変な言い方だったけれども私を気遣ってくれているのは分かるわ。でも、それならば分かりやすい言い方が有ると思うけど……。


「期待する方が馬鹿ね……」


 いい加減学習すれば良いのに何をやっているのかと思う。……でも、悪いのは絶対に賢者様よ。




「……所で友達発言が消されたのは良いけれど、覗き疑惑はどうなるのかしら?」


「……辻褄合わせはどうしましょうか?」


 本当にどうやって改竄すべきなのだろう?




「いやー! こうやって転移で移動するのが一番楽なのですけどね。……本当に面倒ですよ。長距離転移が出来ると知られたら何処でも助けに行くのが

当然だと思われますからね」


「……」


「おや? 先程から考え事をしていますが……シフドさんの事ですか?」


 シフドさんからタンドゥール遺跡の封印を解いたという情報を得た賢者様は私と共に一瞬で遺跡の入り口まで転移した。勇だとしても片っ端から救いの手を差し伸べていたら身も心も限界を迎えるからと、普段は数人単位での長距離転移が可能だと隠す為に使わないからか、便利な物を普通に使えた賢者様はご機嫌だった。


 でも、浮かれ過ぎてテンションがおかしくなった様で私の様子には気が付いていたらしい。賢者様の言う通り、私が気にしていたのはシフドさんの事。彼の事でどうしても分からない事があった。


「……賢者様はあの人自身も助けに行っても無駄だって分かっているって言ったでしょう? それに魔族を友達だと呼んだだけで変わったお姉さん達の態度だけれど、あれも分かって居たのよね? ……なのに、どうして……」


「何かを諦める理由は幾千幾万も有ります。人は大体無理な事や危ない事にはその中から自分が納得出来る物を選びますが……諦めない理由は一つだけ。諦めたくない何かが有る、私もそうでしたよ」


「……賢者様も?」


 私一人では分からなかったけれど、賢者様の言葉を聞いたら直ぐに理解する。言われてみれば単純で、私も同じだった。死んだ両親から受け継いだ仕事を投げ出したくなくて、でも幼くて手伝いしかしていなかった私には到底無理な話。村の人達に手伝って貰えて漸くこなしていたけれど、諦めたくなかったのが続けられた理由だと思う。


「ええ、旅の途中で何度もシルヴィアを口説いて、その度に断られましたよ。当時の私は数人の地位有る女性から求婚を受けていましたし、価値観が違い過ぎる神と人よりもそっちの方が幸せになれるとね。……諦めなかった今の私はとても幸せです」


「そうなのね。ええ、見ていたら分かるわ。賢者様と女神様は凄く幸せだって」


 普段は鬱陶しいとさえ思う事もある惚気話だけれども、この時は普通に羨ましいと思ってしまう。未だ私にはそんな相手の候補さえ居ないし、勇者ゲルダではなく只のゲルダとして見てくれる相手が良いとしか思っていないけれど。


 呑気に話をしている私達だけれど周囲は剣呑な雰囲気だった。砂嵐に囲まれて耳障りな轟音が響く中、硬質な物が擦れ合う様な羽音を響かせる石の巨大蜂がお尻の針を突き出して威嚇している。


『『ストーンビー』タンドゥールの防衛に配置された蜂の姿のゴーレム。針は高い貫通力を持つ飛び道具となり、魔力が続く限り装填可能。現在暴走中』


「強さ的にはルルより二段上程度ですね。群れでの連携が加われば更に上です」


 ルル・シャックスは私が初めて戦った魔族だ。賢者様と女神様が弱らせてくれた状態でも苦戦して、本当に怖いと思ったのを覚えている。だから、そのルルよりも二段上の相手、その上に周囲を取り囲んでいると聞いた私は……少しも怖くなかった。


「なら、私が全部倒しても良いかしら? 儀式を乗り越えて得たデュアルセイバーの新能力を試してみたいわ」


「おやおや、随分な自信ですね。慢心は論外ですが、自分の力を把握して余裕を持つのは良い事です。……ですが、私だって時々は戦いたい」


 完全に私達を敵だと認識したのかストーンビーは一斉に針を飛ばして来た。地面を見れば深くまで続く穴が幾つも空いていて貫通力がどれだけ凄いかが分かるけれど、その針は空中で時が止まったかの様に停止した。ストーンビーも同様に羽の動きが止まったまま空中に浮かび、風が吹くと同時に針と共に砂になって崩れて行く。


「どうせならシルヴィアにも見せたかったですね。いえ、その時はもっと派手にしますけれど」


「別の派手でも地味でも女神様にとって重要なのは賢者様がやった事かどうかよ。地味な魔法でも誉めてくれるんじゃないかしら?」


 新しい力を試したかったのに賢者様に取られて少し不満に思った私は適当にコメントをしながらも遺跡が埋まっている地面に視線を向ける。入り口でさえ下級魔族以上の強さだから奥に進めばもっと強いモンスターが待ち受けているのは間違い無い。


「戦うのが好きな訳じゃないけれど、今の私がどれだけ出来るか試してみたいわね。賢者様、早く行きましょう!」


「はいはい、分かっていますよ。……所で明日の夕ご飯はシャーロパスを使いませんか? ヒレも胴体も美味しいんですよ。足はちょっと臭みがキツいですけれど」


「確か胴体は海老みたいな味がするのよね? 賢者様が勇者だった頃の物語で読んだわ。ヒレも最高級のフカヒレだって聞くし、楽しみね。私、海老が大好きなの」


「美味しいですよね、海老。聞いた話じゃ海老や蟹って蜘蛛と同じ節足動物の仲間……うぉっ!?」


 思わず蹴り飛ばした石ころは寸前で避けられて当たらない。怒りに任せた行動だけれど、偶には言わないと駄目ね。


「賢者様、少しはデリカシーを身に付けるべきだわ。多分、賢者様が言っていた頭のネジが外れた神様と同類になっているわよ?」


「何ですってっ!? う…うーむ。それは一大事ですね……」


「……そんなにショックだったのね。本当に他の神様とは極力会わない方が良くなったわ……」


 予想以上に狼狽する賢者様。此処まで慌てふためく姿は珍しく、どれだけ神様の同類になるのが嫌なのかと思ってしまう。あの性根がねじ曲げられ過ぎてメビウスの輪になっているアンノウンに飼い主補正が有るけれど良い子と呼ぶ賢者様からの印象が其処まで底の神様って一体……。



「世の中って知らない方が幸せな事が有るのね」


 心の底からそう思った……。





「それで、遺跡には何処から入るのかしら?」


 勇者の物語では古代遺跡に入るエピソードは殆ど存在しない。神様にとって数百年前の墳墓も数日前に作ったお墓も同じだからわざわざ行かせもせず、入る必要性も無かった。


 だけど私は少しだけ憧れていた。数々のトラップを乗り越えて遺跡を進み、謎を解いて遂に宝を手に入れる。そんな冒険小説が幾つか有って、もっと小さい頃は冒険家になりたいと言って両親を困らせていた。



「じゃあ、今から入り口を作りますね」


「……え?」


 遺跡の探索に胸を躍らせていた私は賢者様の言葉の意味が一瞬分からず、空中に出現した魔法陣で直ぐに理解する。この人、遺跡に大穴を空けて進む気だと。



「短縮出来るなら短縮しましょう。……転移で行くのが一番楽ですが、一応調査も必要ですからね」


 賢者様の溜め息と同時に魔法陣から光の奔流が放たれて地面に斜めの大穴を空ける。通路を貫通しているから横穴や縦穴が所々空いていてモンスターが出て来るけれど、穴の周囲が蠢いて自動的に塞いでしまった。残ったのは最深部へと向かう長い階段。



「ロマンが台無しね……」


 こんな事を呟いた私だけれど、賢者様が悪いのだから仕方が無い筈……。

モンスター図鑑  ①ゴーゴンキンチャク


勇者継承の儀で最後に戦ったモンスター。触手が蛇な陸に住む巨大イソギンチャク。蛇は十数倍の長さまで体を伸ばし、個別に思考が存在する。尚、蛇の部分は蒲焼きが美味い



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