大熊猫と黒子の事件簿 ~六美童 密室っぽい殺人事件~ ⑦
黒子の世界を新作にした場合 タイトルは長文で
伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る
かな?
評価900突破ぁ! 感謝です 嬉しくて挿し絵発注しちゃった
英雄とは何か? その問いの答えを僕は常に考え続ける。
怪物を倒す者? 確かにそれは一例だろう。でも、一例であって全てでではない。何故怪物を倒し、その結果に何をもたらすのか。それが重要だ。
では不可能を可能とする者? ああ、まさしく英雄だ。但し、何の為に、そして誰の為に、どの様な不可能を覆すか。それが大きく関わる。
「ワーバラ・リリム」
「ドレシー・リリム」
「ミチャル・リリム」
「エイト・リリム」
「ファンナ・リリム」
「アンナ・リリム」
「ケイト・リリム」
「ミシェル・リリム」
「ドロシー・リリム」
「そして私が全てのリリムを率いる役目を偉大なるお母様に任せられたリリムの長女、バーバラ・リリムです」
次々に名乗りを上げ、僕と同じく臨戦態勢となる彼女達。この時、僕が浮かべた感想は一つ。
名前がややこしい! 一度聞いただけじゃ覚えきれないからネームプレートでも付けて下さい!
初対面の相手な上に一度に十人もに名乗られても覚えるのは大変なのに、似た名前だなんて。魔族は人の負の念から誕生するのに長女とかお母様とか全員リリムだとか重要そうな情報が入って来るけれど、僕は彼女達の名前のややこしさの方がインパクトが強くて頭から抜け去っていた。
「……本当に貴方には私達の魅了が通じていないのですね」
姉妹を代表してか長女を名乗った……えっと、バーバラ? が僕に対して面白くなさそうな表情を向けていた。成る程、確かに美女揃いだ。服装だって扇状的で下手すれば裸よりも色気がある。それに街の人達の熱狂的を通り越して狂信的なまでの態度を見れば相手の心を射止める能力を持っているんだろう。
「先手は譲ってあげるわ。まあ、姉妹がどう出るかは保証しないけれど」
でも、それが何だって言うんだ。挑発的な笑みを浮かべるバーバラに対し、僕は込み上げて来る怒りを必死に押さえ込みながら踏み込むタイミングを見計らう。先手を譲ると言いはしたけれど、徐々に僕を包囲する陣形を取り始めた相手の誘いに乗る程馬鹿じゃないよ。
「……それにしても貴方も運が無いわね。私達に魅了されていれば幸福なまま死ねたのに。もっとも最後には覆して絶望の中死んで貰う予定だったけれど。私達の魅力が理解不能だなんて頭がどうにかなっているのかしら?」
「有り得るわね」
「そうだ、そうだー! 男だったら私達姉妹の美貌に骨抜きになるんだもん」
「お母様の娘だもの。当然よね」
「……つまりは私達とお母様への侮辱よね。許せない」
どうも彼女達は美しさに絶対の自信を持ち、だから通じない僕が不愉快らしい。最初はふざけた感じだったのが怒りを滲ませ始めた。……彼女達が魅力的? まあ、美女揃いだし、魅力は有るんじゃないかな?
でも、そんな事が敵対しない理由になんてならない。ナイフの柄を握る手の力を強め、もう片方の手に魔力を集中しながら体重を前に傾ける。先手必勝や後の先、兎に角僕の戦い方に必要なのは速度と観察眼だ。相手の動きを見計らい、絶好のタイミングを狙う。
「……腹立たしいと言えば、タラマもそうだったわね。私達の魅了による洗脳が体質か何かで通じなかったのだもの」
「でも、周囲には効いていたから笑いを堪えるのが大変だったわよね」
「そうそう。周りからすれば実の兄弟を知らない連中だの騒いでるし、頭が変になったとか噂されてたじゃない」
「だから犯人の疑いを持たせるのは楽だったけれどね」
「!?」
……そうか。タラマさんの呟きや態度の理由が全部分かった。昨日まで両親と自分だけが家族だったのに、ある日唐突に昨日まで居なかった父親のめかけでと自分が知らない腹違いの兄が現れる。自分が幾ら否定しても周りは自分が変だと良い、何かの企みかと今まで耐えて来たんだ。誰にも相談が出来ないで、たった一人で……。
「あら、震えているわね。怖いのかしら」
「まあ、これだけの数の魔族に囲まれて絶体絶命だもの」
聞こえるのは嘲笑。僕を楽に殺せる事を前提にして嗤っている。ああ、駄目だ。このまま感情に流されたらいけない。僕は込み上げる物を必死に留める。こんな時、どうすれば良いんだろう。思い出せ、あの特訓の日々を! 確かアドバイスを貰った事が……。
「ふむ。クリーナーをフローリングで使う時は先にモップなどで埃を取っておく事だ。舞った埃が床に落ちては意味が無いだろう?」
確かに役に立つアドバイスでしたが、今は役に立たないです、鳥トンさん!
「クリーナーの排気口から出る臭いが気になるなら粉末の入浴剤を吸わせなさい」
役に立ったアドバイスですが、クリーナーの話は今は良いです、グレー兎さん! 駄目だ。あの二人からは何度も戦闘に関するアドバイスを貰っているのに、雑用係へのアドバイスの方が浮かんでしまう。こうしている間にも僕の中ではどす黒い憤怒が沸き上がっているのに……。
「やれやれ、グレちゃんもトンちゃんも禄な回想をされないなんて情け無いなぁ。所詮は大熊猫に比べれば動物園の脇役。ふふふふふ! 動物園の顔の大熊猫のアドバイスを与えよう!」
いや、居たじゃないか。こんな時には頼りになる方が。何故か回想のアンノウン様が今の僕に話し掛けて来ているけれど気にしはしない。
「まあ、ギャグキャラの言動を一々気にしていたら疲れるし大変だからね。身が持たないよ、君みたいな根が真面目な子はさ」
……回想が続けざまに話し掛けて来ても気にしない。それと既に胃が持ちません! キリキリ痛み出した胃を押さえる僕の姿を好機と判断したのか四方八方からバーバラ達の魔法が放たれる。火の玉が降り注ぎ、氷の矢が放たれ、風の刃が迫り、大地が隆起し、電流が迸る。死者が穏やかに眠る場所である墓地への敬意も配慮も感じさせない猛攻。僕はそれら全てをナイフ一本で弾き、いなし、防ぎ切る。隆起した大地を上から踏みつけて止め、散らばった石ころを蹴り抜けば正面のリリム達にぶつかって一瞬怯んだ。
後ろ向きに跳び、僕の背後のリリム達をも飛び越えた僕の視界には十人全員が収まる。既に準備は整った。後は煮えたぎる怒りを抑え込むだけだ。
「何もさせるなっ!」
そう。相手が何かをしようとしたなら何もさせないのが正解だ。バーバラの号令と共にリリム達は敢えて一塊になり、魔力を同時に高めて火の魔法を束ねる。現れたのは巨大な炎の矢。流石にこの黒子衣装でも正面から食らえば只では済まず、空中では身動きが取れない。踏み込みも出来なければ弾くのも防ぐのも難しいだろう。勝利を確信した笑みが僕に向けられるのが見えた。
「これで消し飛びなさい!」
さあ! アドバイスをお願いします、アンノウン様!」
「牛肉は牛乳に漬ければ臭みが減るし、カレーにコーヒーを入れたらコクが増すよ。それとプリンに醤油でウニの味!」
「……ラースボルトォオオオオオオオオオオオオッ!!」
どす黒い雷は僕に迫る炎の矢を消し去り、墓地の地面も木々も墓石さえも薙ぎ倒し吹き飛ばしながら進み、リリム達をも飲み込んだ。土煙が上がって視界が閉ざされる中、僕は着地する。制御を完全手放した渾身の一撃によって途轍もない疲労感が僕を襲う。でも、これだけは叫びたい。
「プリンに醤油かけるな! プリンはプリンのままで食べろっ! それとどちらかと言えばみたらし団子だと思う!」
誰にでも絶対許せない事が有る。僕にとってプリンに醤油かける事が正しくそれだったんだ……。
……あれ? 何か変だ。土煙が晴れる中、光の粒子になって消えるリリム達の姿に僕は違和感を憶えていた。まさか……。
アンノウンのコメント 僕は酢豚のパイナップルと、更に絶対に許せないのは……
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