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賢者の弱点

ポイント貰えました 嬉しい!

 飛鳥を取り込んで産声を上げるカースキマイラ。私が前に戦った個体とは見た目が全くの別物だけれど、その性質に嫌悪を抱くのは同じだったわ。取り込んだ相手の誇りも尊厳も踏みにじり、ただ暴れるだけの怪物になる。


「アァアアアアアアアッ!!」


 叫び声だけで空気が揺れ、川が波打つ。ピリピリと震える空気と飛び散った水が私の体を打った時、カースキマイラは動き出した。アメンボの見た目に相応しく水の上を滑るように移動して私に迫り、お尻の蛇達が私の方を向きながら一斉に炎や風を吐き出したわ。胴体に掠って傷を付けるけれどカースキマイラの動きは止まらない。痛みを感じないのか、感じていても止まるという本能を持っていないのか。


「……だったら、そんなのただの人形じゃない」


 いえ、きっと飛鳥をカースキマイラに取り込ませたリリィは本当に人形程度に思っているのでしょうね。自分以外は遊んで楽しむ玩具で、それに値しない相手は路傍の石ころ。……気に入らないわ。私は胸の内から燃え上がるような怒りがこみ上げて来るのを感じながらブルースレイヴで炎と風を振り払い、レッドキャリバーで魔包剣を発動させてカースキマイラの腹の下に潜り込む。振り上げた刃は甲殻に覆われたカースキマイラの頭からお尻までを切り裂き、そのまま振り向く。


「シャアッ!!」


 アメンボの部分を真っ二つにしても蛇は生きていて、アメンボから自分を切り離して私に飛び掛かって牙を突き立てようとする。その頭を真横からブルースレイヴを突き出して串刺しにすれば今度こそ息絶えたのか動かなくなったわ。


「……ッ! リリィ・メフィストフェレス! 貴女は私が絶対に倒す!」


 カースキマイラの体がボロボロと崩れ去り、飛鳥の死体が姿を見せる。私がそれを抱き上げて水から出せば光の粒になって消えて行く。浄化されて消える彼女の顔は安堵しているように見えた。


「……行きましょう」


 私はもっと強くなりたい。例え倒さなくちゃならない敵であっても尊厳を踏みにじられる姿を見たくないから。守りたい人達を守れずに終わるのが嫌だから。だから私は強くなるわ、絶対に。その為にも早く試練を終わらせて修行がしたい。


「レリックさんに付き合って貰いましょう。彼も私も強くならなくちゃ駄目だもの」


 ……それに色々と誤解しているって思われているし、ちゃんと分かっているって伝えてあげなくちゃいけないものね。


 私は早く試練を終わらせるべく先を急ぐ。妖精さん達は何事もなかったみたいに私の妨害を続け、漸くゴールに辿り付いた時には肉体的には兎も角、精神的に疲れ切っていたわ。アンノウンが居ないのにこんなに疲れるだなんて、居たらどれだけの疲労が有ったのかと思うと身震いするわ。


「……よし! 嫌な妄想は止めて宝箱を開けましょうか」


 私の目の前には地面が盛り上がった場所に置かれた宝箱。宝石で装飾がされた豪華な物に見えるけれど、漂ってくるのは甘い香り。


「あっ、これって飴玉ね。……これもキャラ付けの為なのかしら?」


 そうだったらわざわざこんな物を用意するだなんて大変だなと思いつつ私は蓋を開く。妖精さん達の用意した宝って聞いているし、少しだけ期待したのだけれど、入っていたのは小さな紙だったわ。長方形の少し硬い紙に穴が開いていて紐が通されている。


「栞?」


 そう。それは間違いなく本の読んだ所を忘れない為に挟む栞。でも、宝って聞いていたのにどうしてこんな物が? 綺麗な栞なら子供が宝物にするかも知れないけれど、表面がツルツルしているだけの白い無地だし、興味を引くデザインでもないわ。


「ねぇ、これって偽の宝箱じゃないのかしら?」


 実はこれも罠の一種だったんじゃと思った私は妖精さん達に質問しようと振り返るけれど、私は何時の間にか妖精郷に戻っていて、目の前には顔色の悪い賢者様が座っていたわ。……えぇっ!?


「け、賢者様っ!? 一体何があったのかしらっ!? もしかしてお病気……」


「シルヴィアシルヴィアシルヴィアシルヴィアシルヴィアシルヴィア……」


「あっ、単純に女神様が恋しいだけね。……病気じゃなくって良かったわ。これはある意味病気だけれど」


 賢者様ったら、未だ一日と少ししか経っていないのに此処まで追い詰められるだなんて。会いに行きたかったらパパッと転移で会いに行けるのに会いに行かないだなんて。


 その理由は大体予想が出来るわ。真面目な方だもの。私達が居ないからって女神様の顔を見に行って、その後でアレやコレやするだなんて真似は出来なかったのね。そんな事をする人に女神様の愛を向けられる価値が無いとか言いそうだし、絶対言うのだろうけれど。


「これって弱点みたいな物ね。まあ、だからといってどうにか出来る人でもないのでしょうけれど」


「そうだよ! マスターはボスの女神としての仕事で少し会えない時間が出来たら急成長妻成分欠乏症になるんだ。でも、マスターは神に比べたら弱いけれど、比べる相手が悪いし、それ以外が相手なら大体無敵なのさ! 因みにそんな病気は存在しない! 僕が適当に言っただけ!」


 あら、レリックさんも試練が終わったのね。一緒に行ったアンノウンは賢者様の膝の上で陽気に踊っていたわ。賢者様も女神様の名前を呼びながらもパンダの頭を撫でているし、多分大丈夫でしょう。


「いや、見た目二十代の男の人がパンダのヌイグルミを撫でながら奥さんの名前を呟くとか大丈夫じゃないけれど……」


 さて、それはいったん忘れましょう。黄色に光る宝石と赤く光る石を持っているけれど宝箱に入っていたのかしら? 私はポケットに仕舞っている栞を思い浮かべ、レリックさんとの差にちょっと悔しくなる。でも、こんな事で拗ねたりはしないわ。だって私もレディだもの。


「レディ? ぶふぅっ!」


「心を読んで弄くるのは止めなさい、アンノウン」


「分かったよ! 口から出任せで了承するし、守る気皆無で良ければ誓おうじゃないか! ……えっと、何をだっけ? 適当に聞き流してたから忘れちゃった!」


「……もう良いわ。アンノウンには期待しないから」


「そうだね。僕は存在するだけで癒されるマスコットポジションが似合うだけで、最強無敵のギャグキャラなだけの万能天才使い魔でしかないもの」


「そんな事よりも教えて欲しいのだけれど……レリックさんってどうして拗ねているのかしら?」


 アンノウンの言葉にツッコミを入れるのを放棄した私が気になるのはレリックさんの様子。どう見ても拗ねて顔を背けているのだけれど、一体何があったら二十間近の男の人が子供の前で拗ねた姿を見せるのかしら?





「そりゃあ僕が好き放題した結果、ゲルちゃんに試練を終えた時間で負けたからだよ」


「器ちっさ!?」

アンノウンのコメント  ちなみに親バカだから娘にも勝てない

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