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ツンデレとパンダ ③

「うふふふふ。お兄さん、こっちに来て」


「あはははは! 触っても良いのよ?」


 優雅で可憐な妖精達は思い思いの衣装で着飾り俺を誘惑してくる。所詮は人形サイズと侮る奴も居るだろうが、それを持ってしても妖精達の容姿は整っていた。只単純にドレスで着飾るんじゃなくて自分の魅力を引き出す服装ってのを理解し、相手の欲を掻き立てるなんざ並の精神じゃ耐えられねぇだろうな。俺も女好きだし、誘惑に心引かれていただろうよ。


 だが、俺がその誘惑に乗る訳が無ぇ。さっき気を引き締めたが、それは無関係だ。ちぃっとばっか気を弛ませていても俺が誘惑を受けない理由。それは……。


「ガキンチョばっかじゃねぇかよ……」


 そう。俺を誘惑して来ているのは全員餓鬼だ。只でさえちっこい妖精の中から十歳位の小娘共が集まって俺を誘惑してやがる。いや、どうして餓鬼ばっかりって、俺がロリコンだって情報が入ってるからだな、畜生がっ!


 大体、妖精ってのは実際は悪戯好きでも何でもない真面目な性格だってのに、更に餓鬼に誘惑役を任せやがって。触って良いって言ってるが、どう見ても手に触れるだけで限界って感じで顔が真っ赤な上にプルプル震えてやがる。無理させるなよ、子供だろっ!?


「……おい。俺はロリコンじゃねぇからな。間違った情報だからな」


「え? だって賢者様の使い魔からの情報だし……」


「間違った情報だ。……だから無理すんな」


 俺の言葉に妖精達はホッと安心した様子だ。まあ、箱入り娘が娼婦の真似事を仕事でもやるってのは酷だろ。ったく、試練にしても少しは与える側の負担を考えろってんだ。


「おい、アンノウン。ティターニアってのはどうして試練を突破しなきゃ駄目なんだ?」


「そりゃあ妖精が精霊に変わる時に溢れた力を吸収して作られるからね。ゲルちゃんのデュアルカリバーを作ったのはマスターだけれど、無から作ったんじゃなくてティターニアを材料にしたんだ」


「……勇者の武器みてぇな物の材料なら納得だが、せめて試練の内容を考えろよ。誰だよ、考えた奴は」


「イシュリア」


 理解はしたが納得は行かない。そんな気持ちで呟けば出て来た名前は思いもしなかった女神の名前……いや、ゲルダから聞かされたやらかしを考えたら納得しか無理だ。寧ろ他に似たのが居るなら信仰心を失いそうだぜ。あの女神様、俺を初対面で誘惑したからな。


 ……事故でも初対面の相手を押し倒したり、会ったその日にイーチャを抱いた俺が言えた義理でもないんだが。……あっ、ヤベぇ。


「……なあ、ヴェロン……お前達の女王って浮気に関して……」


「相手を殺して自分も死にますね」


「……マジか」


「それと貴方を生まれた時から結ばれている運命の相手と思っているので、出会う前の事も判定に……あれ? もしかして……」


「マジかぁ……」


 まさかとは思ってたが、ヴェロンってかなり不味い女だったんだな。俺の脳裏に浮かぶのは今まで一夜だけの関係だったり、偶に会った時に関係持ったりしてる女の顔。特に最近ではイーチャとも関係持ったしな。まあ、誤魔化せば何とかなるか? なったら良いなぁ……。


「全部賢者様に丸投げするか。世界救った後のフォローもしてくれるって話だしな……うん?」


 妖精郷から出て行けば女王の彼奴は流石に追って来ないだろうし、そんな希望的観測に縋って俺は先に進む事にした。何となくだが魔法で監視されたり下手すれば付いて来そうな気がするんだよな。ちょいと寒気を感じながら足を踏み出した俺だが、漂って来た臭いに思わず足を止める。鼻の中を刺すような刺激臭。


「……おい。この先にも誘惑役の仲間は居るか?」


「え? それは勿論。ちゃんと幼くて可愛らしい子ばっかり揃えて……」


「だから俺はロリコンじゃねぇっての! おい、アンノウン! 此処は任せた!」


 頭に乗っているパンダをひっ掴み、妖精に投げつけるなり走り出す。風を操る札の力で自分の周囲に風の渦を展開しながら進めば向こう側から漂う臭いは俺に届かないが、徐々に濃くなる毒の霧が彼奴の居場所を嫌でも知らせやがった。


「……糞が」


 思い出すのは自分自身の無様な姿。全力を出したのに倒せず、助けを求める餓鬼一人すら救えなかった。あの村での戦いの後、俺達は奴の居城を探したが手掛かりすら掴めずに村は毒に包まれて滅びた。俺が無力だったからだ。


 奥歯を噛みしめ、拳を握り締めて駆け抜ける。所々に倒れている妖精達の姿を見付け、片っ端から札で治療して風の結界に避難させた。一人助ける度に札のストックは消費され、毒霧が最も濃密になっている場所に辿り着いた時には残り一枚。


「……まあ、行けるだろ」


 そろそろ俺を守る風の結界も効果が切れる頃。精々五分って所だな。首に手を当てて鳴らしながら進めば濃霧の中でも目立つ巨体が見えやがった。


「ふはははは! 我が輩の所によくぞ辿り着いた! ギャード・タラスク! 参上!」


 耳を塞ぎたくなる程の大声と共に筋肉を誇示するポーズを取る巨漢。俺の事を憶えてねぇのか一切反応する様子が無い。俺なんざ記憶する価値も無いって事か、此奴が馬鹿なだけか……。



「……むぅ。何処かで見た気がする顔だが、まさか貴様は我が輩と同じ魔族か?」


「間違い無く馬鹿の方だっ!?」


 何かマジで疲れて来た。腕組みをしながら首を捻る姿はマジっぽいし、こんな奴に俺は色々と……。


「もう良い。さっさと死ね」


「なぬっ!? 幾ら同胞でも死ねと言うのは無礼が過ぎるだろ! おっと、屁が!」


「無礼なのはテメェの方だろうがっ!」


 この馬鹿、未だ俺を魔族だって思っているのかよ。何で分からねぇんだ? 馬鹿だからだよな、分かったぜ。俺に向かって指を突き付けながらギャードは怒り、そして屁をこく。周囲の温度が一気に上がったし、汗が噴き出して来やがった。毒霧も一気に濃くなったな。こりゃ風で防ぐのも限界か。


「……一分。それが限界だな」


「むむっ!? まさか貴様は人間……」


 今頃になって気が付いたギャードの腕にグレイプニルの鎖が絡み付き、肩に刃が深く突き刺さる。一度目の時は先端が僅かに刺さっただけだったよな。ギャードはそれ程までに堅かった。だが、今は違う。俺はそのままギャードを引き寄せ、同時に懐に潜り込んで腹に一撃叩き込む。


「がっ!?」


 ギャードの体がくの字に折れ曲がり、顎に一撃。巨体が浮いた所に連打。そのまま鎖を伸ばして振り抜き、頭から床に叩き付けた所に頭に蹴りを入れた。



「……じゃあな」


 札を握りしめ、ギャードの口に拳を叩き込む。歯をへし折り、無理矢理口の中に拳を入れた瞬間、札に魔力を流して発動。ギャードを内部から焼き尽くした。黒こげのボロ炭になったギャードの口から拳を引き抜けばそこから崩壊が始まり、やがて光の粒子になって消えて行く。


「……二年前は手も足も出なかったってのによ。でも、全然心は晴れねぇよ」


 今頃倒しても意味が無ぇ。俺って奴は本当に役に立たねぇ。強くなりてぇ。もっと強くなって、目の前の奴位は助けられる程度にはな……。



「……さっさと終わらせて帰るか」


 今こうして居ても何の意味も無い。俺は晴れてきた毒霧の中に見えて来た宝箱に歩み寄り、蓋を開く。さっさと帰って強くなる為の修行をする為にな。





 宝箱の蓋の裏には一枚の紙が貼られていた。『貴方が欲望に負けた回数は三十五回。もっと自制心を持ちましょう』、ってな。



「……いや、俺じゃないからな? 勝手に引っ付いて来たアンノウンの奴だからな?」


アンノウンのコメント  イエス! 僕の仕業でーす

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