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ツンデレとパンダ ②

「ああ、糞が! さっきのウナギの次はこれかよっ! なんでキメェのに連続して襲われるんだ!」


「モッキュゥウウウウ!」


 ヌルヌルしてて気色が悪い鳥の翼を持つ大口ウナギをぶっ倒したと思ったら、次に出て来たのはゲルダが好みそうなヌイグルミみてぇなモグラだ。但し胸から上だけな。胸から下はウネウネ蠢くイカの触手だもんでモグラの部分が可愛らしいだけに余計に不気味だ。今も小動物が甘える時みてえな声を上げながら大量の墨を吐いて来てやがる。真上に吐き出したドロドロの墨は見るからに粘り気が有るし触ったらウゼェ事になりそうだ。


「こんなのに連続して襲われる理由? そりゃあレリッ君がそういうポジションだからじゃない? ほら、ゲルちゃんは勇者だから戦う相手は選ぶべきだし、マスターやボスは相手を圧倒するしさ。色物の相手は君じゃないと」


「何の話をしてんだよ、テメェはっ!? てか、手伝え。ビームなりなんなり撃てば良いだろうが!」


「いや、これって君の試練だし、僕は好き勝手に動いて邪魔をする程度しか出来ないって」


「邪魔してるって自覚有ったのかよっ!」


 既にウゼェ事しかしやがらねぇアンノウンに怒鳴りながらも俺はモグラだかイカだが分からねぇモンスターを観察する。さっきから墨を吐いてるし、イカ寄りか? なら地上に出て来るんじゃねぇよ! ……にしても変な野郎だ。ゲルダなら解析で詳しい事が分かったんだろうが、俺はそういうのレガリアさんに任せてたからな。別行動中も似た事が可能な奴が仲間に数人居たし。


「イカモグラ……いや、モグラーゲンって所か?」


 確かデカいイカのモンスターでクラーケンってのがいたからな。レガリアさんが一回倒して食ったら吐き気がする不味さだったって言ってたよ。……研究用に持ち帰ったのに娘が間違って料理しちまったから全部食ったんだってな。結局、自分の分も食った事で娘が拗ねたり、不味いって言えないから機嫌取るのに苦労したとか。


 そんな事を思い出しながら適当に名付けたんだが、結構当たってんじゃねぇのか?


「いや、僕が解析したらクラーケン・アースドラゴだってさ」


「あの見た目で随分と派手な名前だな、おいぃ!? てか、前々から思ってたんだが、学者が見つけて名付けもしてないモンスターの名前って誰が決めてんだ?」


「神! 因みに目の前のは死神のディスハだよ。突然変異とかで新種が生まれたら暇な神が適当に決めるのさ」


「……聞かなきゃ良かったぜ。っと、そろそろウゼェッ!」


 上から落ちてくる墨を躱わし、俺はクラーケン・アースドラゴに近付き、胸に爪の一撃を入れて切り裂……けてねぇっ!? さっきのウナギみてぇに粘膜に覆われてる訳じゃねぇ。寧ろ俺が攻撃した部分はモフモフの毛が生えている。だが、その下が柔らかい過ぎるんだ。切り裂こうとしたのに爪が当たった勢いで体が後ろにグネグネ動いただけで毛が幾らか散っただけ。


「モキュ!」


「ちぃ!」


 賺さず叩き付けて来る触手をバックステップで避けた俺だが、器用な事に触手を蠢かせてクラーケン・アースドラゴの巨大が迫る。もう少し距離を開けようとするが、足の裏が何かにくっついて動かねぇ。


「墨っ!? 俺とした事がミスったぜ……」


 どうやら背後で地面に落ちて飛び散ったのを踏んじまったらしい。落ちた場所だけ頭に入れて飛び散るのを忘れていた俺の凡ミスだ。その上、どうやら最初目で見た時よりも粘着性が上がってやがるな。


「レリッ君ったらドジだなぁ」


「否定はしねぇよ。今の俺は大間抜けだ!」


 足の裏が引っ付いた? なら無理矢理引き剥がすか、それとも靴を脱いじまった方が早い。俺はくっついた方の靴を脱いで飛び上がるんだが、クラーケン・アースドラゴは俺の居た場所の目前で突然動きを止めた。まさか誘われたっ!? 


「間抜けな見た目の癖に随分と頭が働く……うん?」


 そのまま空中の俺に何かしてくると思ったんだが、クラーケン・アースドラゴはプルプルと震えると水で満たされた穴へと飛び込む。巨体には余りにも小さい穴だが、あの柔軟さだからな。……いや、それよりもだ。


「もしかして地上では息が出来ないのか? イカだから?」


「クラーケン・アースドラゴはエラ呼吸だよ。鳴けるけれど肺呼吸は出来ないから短時間しか地上で動けないんだ。モグラの部分で水の中で横穴を掘って巣にするんだってさ。所でレリッ君、クラーケン・アースドラゴの頭脳が何だって? ねぇねぇ、彼奴の頭が何だって?」


「聞くなっ!」


「……まあ、僕もあれは気持ち悪いから精々レリッ君の夢の中に出す位で関わりたくないし、これ以上は止めておくよ」


「いや、夢の中に出すのも止めろ」


 相変わらず隙あらば弄くりに来る奴だな、アンノウンは。こんなのと半年以上旅をしているゲルダは大した奴だぜ。あと、マジで賢者様は躾をちゃんとして下さいってんだよ。ペットをのびのび育てるにも限度ってモンが有るでしょうよ。


「モーキュー!」


 俺に彼奴の言葉を翻訳する力が有れば復活とかでも叫んでいるのが伝わって来そうな勢いで頭を出すクラーケン・アースドラゴ。うん、そこまでにしとけ。マジで胸から下は出すなや。


「所でレリッ君ってさ、さっきからどうして手加減してるのさ? ゲルちゃんよりもさっさとクリアして威厳を保ちたいって考えてたのにさ。既に威厳は皆無を通り越して負債だけれど」


「……」


 ああ、認めてやるぜ。確かにアンノウン、テメェの言う通りだ。……いや、威厳は別で。それは認めねぇ。認めたくねぇ。兎も角、俺は自分に制限を課してこの試練に望んだ。理由は自己嫌悪だ。母さんに妹を守れる立派な兄貴になるって約束しときながら失望される事を連発してる不甲斐ない俺が許せなかったんだ。だから制限を掛けた上でゲルダよりも先に試練を突破する。それが俺が決めた事だ。


「まあ、レリッ君が『本気を出してないのに勇者より強い俺凄い!』ってのをやって悦に浸りたいなら別に良いけど、僕という制限が有るのに随分と余裕だね」


「……ちっ!」


 アンノウンの言葉に思わず舌打ちが零れる。随分とふざけた評価だな、おい! そんな無駄な遣り取りの間にもクラーケン・アースドラゴは俺に迫り、四方から包み込むようにして触手を伸ばして来る。その上、広範囲に広がる吐き方で前方に向かって墨を吐き出しながらだ。


「……ああ、本当にふざけてやがるな」


 そっと懐に手を入れ、一枚の札を取り出して投げる。それが墨に触れる瞬間、炎が吹き出してクラーケン・アースドラゴの胴体も触手も墨さえも一気に燃やし尽くす。断末魔の叫びすら上げる暇も無く、墨は一瞬で蒸発、体も墨になって崩れ落ちた。



「俺は何をふざけてやがったんだ。あの約束を守ろうってのに手加減して遊んでる場合かよっ!」


 ……ああ、糞! 自分で自分に腹が立つ。まさかアンノウンに礼を言わなくちゃならねぇ時が来るなんてな。


「お礼なら言葉よりもお菓子が嬉しいな」


「……行くぞ」


 だから心を読むんじゃねぇよ。ああ、畜生。こんなのに礼を言わなくちゃなって思った自分に腹が立つぜ。



「因みに試練は此処から本番だし、レリッ君の心を折りに来るよ、僕が原因で。……ガンバ!」


 ……俺には予知能力は無いが、アンノウンに心底感謝する日が絶対に来ないって事だけは絶対に分かるな。此奴、どうにかして洞窟に置き去りにしたいんだが、どうすれば良い?


「無理じゃないかな? 転移が使えるとか以前にギャグキャラだし、君もギャグ担当だもん。あと、読んでいるのはどちらかと言うと心よりも地の文だよ?」


「だから何の話をしてるんだよ!?」


 ……この時点でドッと疲れたな。頼むからこれ以上変な奴は出て来るなよ……。








「……むぅ。気が付けば見知らぬ洞窟内部。目の前には宝箱だが一行に開く気配は無し。よし! 取り敢えず日課の屁をこいておくか!

アンノウンのコメント 止めろ止めろって言われて止める僕じゃないさ!

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