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それぞれの場所で

新章突入 応援待っています


現在954000文字

 港から遠く離れた絶海の孤島。複雑な海流や渦潮に囲まれてはいるが島の周囲は穏やかで、渡り鳥にとっては休息地として丁度良いのか運ばれた種によって果実も数多く成っている。


 万が一の偶然か、余程腕の良い船乗りが多少の運に助けられながら意図して向かえば辿り着けない事もないが、脱出は無理だと言わざるを得ない。それ程に複雑な海流にこの島の名はミシサ島。伝説によればとある女神の力によって外界と遮断されたとされるこの島にて強い風が吹き荒れていた。


「十日ぶりの肉……逃がさんで御座る!」


 樹齢数百年を越えても徒弟足りぬであろう巨木を垂直に駆け上がっているのは魔族を裏切り者として追放された楽土丸だ。だが、その服装は何時もの着流しではなく、どうやらモンスターの毛皮を剥いで作った簡易的な物。


 刀ではなく木の枝握り見定めるは枝に止まった怪鳥の姿。翼が四枚有る時点で普通の鳥ではないのだが、風に乗って高速で駆け上がっても距離が中々縮まらず、それでも姿がハッキリと捉えられる。その意味は漸く接近し、最後の跳躍によって横に並んだ事で示された。


「デカい!」


 十歳前後の少年である楽土丸は決して小柄ではない。だが、目の前の鳥と比べれば人の範疇での大小など意味が無いだろう。彼をミミズとした場合、鳥は鶏。一口で飲み込める相手の接近など一切意に介した様子の無い怪鳥は腹が一杯なのか彼を食べようとはしない。ただ、鬱陶しいとは思ったのか軽く羽ばたいた。


 古い家ならば倒壊させてしまう程の暴風。向かう先の楽土丸は空中に居て何一つ抵抗が出来ずに吹き飛ばされると思われた。だが、そうはならない。広範囲に広がった風は楽土丸の手に握られた木の枝に収束し、刃の表面で渦巻く。そのまま一閃。納刀の音と共に怪鳥の頭と胴体が切り離されて地上へと落下して行った。それを見届けてホッと一息つく楽土丸だが、手元の感触に溜め息も出る。握り締めていた枝は先程の力に耐えきれず折れてしまっていた。


「……ちゃんとした武器が欲しいで御座るな。服も着流しの方が良い。……いやいやっ! 武士は喰わねど高楊枝! 拙者、正確には武士では御座らんが……」


 自己を鼓舞するも最後には悲観的な言葉が出て来る楽土丸。どうやら精神的に少し疲労している様子だ。風の球体に身を包んで緩やかに下降しながら島全体と周辺を見回せば、見えて来るのは島の穏やかな海遥か沖では島周辺が幻なのかと思う程に荒れていた。島の全体像がどうかと言えば中心に洞窟が存在し、彼が居る場所の反対側には集落らしい幾つもの建物が目に入る。ほぼ全てを森に覆われた島の姿に再び出て来る溜め息。


「何故この様な事になってしまったのか。あの者達には申し訳が無いな……」


 地上に落下した衝撃でグチャグチャの肉塊になった鳥の死骸と流れ出した血が降り注いで形成された血の海の臭いに眉を顰めながら三度目の溜め息を吐く楽土丸であった……。



 少し落ち込んだ様子で鼬の尻尾も耳も力無く垂れてしまう中、肩を落として踏み出せば、少し窪みが出来ていたのか血溜まりに足が沈む。正に踏んだり蹴ったりの状態だ。


「……早く連中の所に鳥の一部を持って行って物資の交換を済ませたら水浴びでもしよう。カイさえ島の外に出られれば希望は有る。……希望と言えば」


 楽土丸は頭に浮かんだ少女がそっちに居る気がして東を見る。それまでの落ち込みが嘘のように表情には元気が戻り、鼻歌交じりに鳥の死骸を持ち上げた。


「さて! 拙者も頑張っているぞ、ゲルダ! お主も当然頑張っているので御座ろう!」


 再び東に顔を向け、其方に居るであろう少女に言葉を向ける。思い出すのは事故によって胸を触ってしまった時の事。思わず責任を取るという形で求婚してしまったが、今となっては気恥ずかしくとも後悔は無い。再び会う事が有れば再び求婚をするであろう。この世界に飛ばされて、彼の感覚では数ヶ月が経った気もするし、実際は1ヶ月程度の気もする。


「さて、久々の肉であるし、皆も喜ぶだろう。此処は交渉によって調味料を多めに貰わないとな」


 自分の帰りを待っている者達の顔を思い浮かべば足が少し速くなる。元は偶然見掛けただけの者達。誘拐されて強制的に働かされていた場所から逃げ出し、幻に惑わされた先で襲われているのを見かねて助けただけで、後は安全な場所に送って別れる筈だった。


 だが、その為の船旅の結果、たどり着いたのがこの島だ。今では共同生活を送る仲間達。故に彼等の為に力を振るう事には迷い無し。それこそが仁義だと語る楽土丸は短い期間で信頼を得ていた。彼が本来ならば人の敵である魔族だと知っていても、伝え聞いた話による敵意よりも共に過ごして感じた物を大切なのだろう。




 一方その頃、島の遙か彼方の小島にて建設中だった砦が揺れ、内部から轟音が響く。それを固唾を飲んで見守っているのは粗末な服装の老若男女。皆、疲労の限界の筈なのに座る者も寝転がる者も一人も居らず、手を合わせて内部で戦う者達の勝利を願う。


 皆、この地に連れて来られた者達だ。共に働かされていた仲間は何人も殺された。逃げ出そうとした者も然り。周囲に放たれた名剣ポチによって一人残らず命を奪われたのだ。


 名の通り、遠くから一見すれば犬の姿をしている。鳴き声だって普通の犬だ。だが、近寄れば異形に気付くだろう。その姿が金属の光沢を持つ巨大な折り紙のようだと。但し、その体を構築するのは紙ではなく薄く伸ばされた切れ味鋭い刃。性格は温厚で人懐っこい。近付く者が居れば尻尾を振ってじゃれつくだろう。名剣の名に相応しく粗末な金属の鎧ならば容易に切り裂く刃の体で。


 この地に滞在する魔族は一人。擦れ違えば大抵の男は思わず振り返る程の可憐な見た目の少女だが、それでも魔族は魔族。当初は侮り数で押せば勝てると思った者達が居たが、多くの者の命を授業料に無駄だと心に刻みつけられている。


 魔族は英雄になり得ぬ者達が集えども到底敵わぬ相手。既に抗う意志も潰え、ポチによって逃亡すら不可能な彼等に残されたのは神に祈る事。そして今、残骸となった名剣ポチが積まれた外にて祈りを捧げる。但し、助けの懇願ではなく、助けられた事への感謝の祈り。


「……終わった。これで帰れるぞ」


 一段と激しく揺れた砦を目にした誰かが呟く。間を置かず聞こえて来たのは壁を幾枚も貫通しながら何かが飛んで来る音。その何かは門を破り姿を現す。攫われて来た者達を恐怖で支配していた魔族、ニュマ・リリムがボロボロの状態で垂直に飛んで来たのだ。


 そのまま彼女が向かったのは名剣ポチの残骸の山。人々を恐怖で支配する為に放っていたモンスターの鋭利な肉体がニュマの体に突き刺さり、動きを止めた所に降り注ぐ。思わず多くの者が目を逸らす中、見るも無惨な姿になった彼女は光の粒子になって消え去った。


「や……やった!」


 思わずこぼれた誰かの呟き。それに籠もった喜びは直ぐ様伝播し歓声が上がる。そしてその完成は崩れ始めた砦の中から慌てて出て来た二人の姿を見るなり更に大きくなるのであった。



「……ったく、派手にやり過ぎだろ。胸を馬鹿にされた程度でキレんなよ」


「あら、レリックさんだって得たばっかりの力で調子に乗った挙げ句に重要そうな柱を幾つも壊したじゃない」


 ムスッとした表情で互いに横目を向け、数秒の沈黙。最初に口を開いたのはレリックだ。


「んじゃ、二人の責任な」


「まあ、そうね。活躍も失敗も二人のって事にしましょう」


 ムスッとした表情から一変して笑みを浮かべた二人は歓声を浴びながら拳を軽くぶつけ合う。



 尚、この島は楽土丸が居る島から遙か北西に存在していた。

アンノウンのコメント  直感全然だね、君ぃ

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