驚愕! アンノウンの同類発見!?
ニカサラで起きたピエロとウサギのキグルミの戦いだが、既に勝負が着いていた。
「わー!? 何これ、何これ! 出ーれーなーいー!」
戦闘の余波で被害を受けた町の一角にてアビャクは何とか立っていられる程度の球体の中に閉じこめられていた。ガラス玉を思わせる透明の球体の内部から抜け出そうと両腕で叩くも、腕が痛むばかりで僅かな傷すら入る様子すらない。
「よーし! こうなったら奥の手だー!」
ならばと自爆覚悟で取り出したのはドクロマークが描かれた導火線月の丸い爆弾。既に点火されており、アビャクは目を瞑って耳を塞ぐ。そして爆弾が爆発。球体の外には爆音による被害すら出ず、全身が真っ黒でアフロになったアビャクは煙を吐き出すと身震い。すっかり綺麗な状態に戻った彼にグレー兎はキグルミの内部で呆れた様な目を向けていた。
「無茶苦茶ですね、貴方は。子供が思いつくままに戦っている、そんな印象です」
「アヒャヒャヒャ! それが先生が僕にくれた力さ! 思いつくままに道具を生み出し、体だって自由自在なーんだ!」
「……成る程。先生とやらがその体を与えたのですね」
「そーだよ。ネルガル君は未だ貰ってないけど、僕にはさっさとくれたんだ。えっへん! あたっ!?」
まるで子供が自慢するかの様に……いや、実際に子供のアビャクは胸を反らし、後ろの壁に頭をぶつける。頭を押さえながら涙目になっている姿は滑稽な道化であり、ペラペラと喋る情報への不信感が募りそうだが、グレー兎にはそれが本当であるとの確信があった。
「……あのパンダ擬きを知らなければ疑うだけだったでしょうが」
悪意の発露方法は違えど他人に迷惑を振りまいて楽しむという性格の知り合いたくない知り合いが居るからこその直感。比較の為に普段の所行を思い出しただけで胃がキリキリ痛むグレー兎だが、心の中で毒づきながらアビャクに片手を向ける。中に入っている球体が浮かび上がった事でバランスを崩していた。
「安心なさい。決して命は奪いません。ペットの躾が出来ていない駄目な飼い主ですが、貴方から情報を得つつ元の体に戻す位はやって下さる人を知っていますので」
この時、キグルミの中で彼女は微笑んでいて、声も優しい物であった。例えるならば子供を見守る大人の暖かい笑顔。その体に影が差し、空を見上げれば風と共に巨大な亀の甲羅が落ちて来た。
「……新手ですか」
鬱陶しいと感じているのを隠そうともしない声色で呟きながら飛び退いた彼女の目の前で巨大な甲羅によって地面が砕かれ、地面に触れた風が周囲に広がって行く。飛び散る石の欠片を手で振り払うグレー兎の前で甲羅がモジモゾと動き、ポンっと軽い音と共に煙が発生して甲羅が消える。変わりに立っていたのはメイド服の美風。ゲルダとレリックの前に現れたアナスタシアと瓜二つな(胸囲は除く)魔族の少女だ。
「避けられちゃった」
「何やってんだよ。そのまま落ちずに追えば良いだろ!」
残念そうに呟いた美風に気の強そうな少女の声が掛かる。見上げれば山伏の服装と葉団扇を手にした飛鳥が地面に降り立ってアビャクが入った球体を軽く叩いているが、浮かべる顔は完全に相手を馬鹿にしたものだ。
「間抜けな奴だな、おい! こんな程度じゃお前を改造した奴もたかが知れるってもんだ! クズの部下はクズって事だな」
「だ、駄目だよ飛鳥ちゃん。ウェイロン君の事を悪く言ったら……」
「本当の事だろ。お前は彼奴に甘過ぎるんだよ。あれか? 何度か抱かれたからって夫婦気取りか?」
「夫婦……ウェイロン君と夫婦……」
「その気になってんじゃねぇよ! 魔族の誇りは何処に行ったんだ!」
既に二人はアビャクの事もグレー兎の事も忘れて会話に花を咲かしている。正確にはマイペースな美風に飛鳥が振り回されているのだが。ただ、本当に二人の仲が良いのは分かる。大声で文句を言っている飛鳥も美風の事を心配しての発言だろう。彼女からすれば受け入れられない駄目男に友人が惚れ込んで甲斐甲斐しく世話を焼いているのだから不満も貯まる。美風は美風で恋は盲目とはよく言った物で聞き入れる様子は見られない。
「取り敢えず敵という認識で構いませんね?」
「……あえ?」
だが、敵の前で繰り広げるにはあまりにも呑気が過ぎる内容だ。聞き分けのない友人に怒る飛鳥に対し、妄想に浸る美風。彼女の頭は惚れた相手との幸せな日々で一杯で、それだけで胸が膨らみそうだ。実際、その胸は内側から膨らみ、手が突き出される。美風の背中から胸まで貫いたグレー兎の手には血管と繋がって脈打つ心臓が握られ、握ったまま内部に戻した手には魔法陣が浮かび上がる。唖然としながらも動こうとした飛鳥の目前で美風は内部から炎に包まれた。
「先ずは一人」
貫かれて開いた風穴や口や鼻からも紅蓮の炎が噴き出して美風の四肢から力が失われる。グレー兎は炭化した心臓を握って砕くと無造作に腕を振って美風の体を放り捨てる。既にその目には美風の事など映っておらず、飛鳥だけを注視していた。
「テメェ、一体何もんだ!」
「グレー兎、とでも名乗っておきましょう。この様な格好で本名は名乗りたくありませんので。貴女のお名前は? 覚えませんがお聞きはしましょう」
「ああ、そうかい! 境鳥 飛鳥様だっ! 覚えずに死ね、糞ウサギ!」
「成る程。飛鳥様さんですね。覚えないでおきましょう」
背中に鳥の翼を広げた飛鳥が飛び上がり、上空から葉団扇を振るえば木の葉や石ころを巻き込みながら突風が起きる。木の葉は鉄の刃如く周囲の物を切り裂き突き刺さり、石ころは自らよりも頑丈な物にめり込んだ。人など簡単に吹き飛ばされる程の暴風の中をこの二つが舞い、壊した物を巻き込んで更に脅威となって行く。まさに災害、か弱き人の身では立ち向かえない恐怖だ。
「……」
だが、しかし、グレー兎はその様な嵐の中でも微塵も慌てず立ち尽くし、指を鳴らす真似をする。ただ、如何せんキグルミだから指など当然鳴りはしない。ただ、鳴ると同時に起きる筈だった事は問題無く起きる。彼女の周囲に複数の竜巻が発生し、飛鳥の嵐が巻き込んだ物も、嵐自体すら飲み込んで消え去る。竜巻が消えた時、周囲にはそよ風すら吹いていなかった。
圧巻の立ち姿に飛鳥は唖然と立ち尽くす。まさしく圧倒であり、次の一手で終止符が打たれても不思議ではない。だが、圧勝の瞬間よりも前に背後から美風が襲い掛かった。心臓を炭化させた上で砕いた相手が一切の傷無しの状態で軽快に動く事に流石のグレー兎が一瞬だけ驚愕で硬直する中、後頭部に飛び蹴りが叩き込まれ、その反動で後ろに飛んだ美風は着地と同時に前方に滑り込み、足払いの水面蹴り。確かに命中した強烈な一撃。だが、それでも不動。グレー兎は微動だにしない。
「幻だった……訳では有りませんね」
手に残った背中から胸までを貫いた感触。そして地面を汚す血飛沫。何よりも服も焼き尽くされ全裸の美風の姿がそれを否だと伝えてくれる。間違い無く致命傷を負わせ、命を一度絶った筈。それが再び五体満足の状態で平然と動いている事にグレー兎は逆に俄然納得が行ったと言わんばかりだ。
「死んだ魔族は浄化される筈。その時点で生存を疑うべきでしたが、……復活でしょうか? 回数が決まっているのか、特定条件でのみ殺せる。その場合、死因が限定されているのでしょうかね」
「ええっ!? そ、そんな事無いからっ!?」
口では否定するもの態度がそれを肯定している。グレー兎はならば殺す方法は何かと考察する中、何処からか風に乗って風船が飛んで来た。三人の周囲を囲む色取り取りの風船。その全てにはピエロが描かれている。咄嗟にアビャクが閉じ込められている球体を見るグレー兎だが、中には確かにアビャクが入ったままだ。何が可笑しいのか腹を抱えて笑っている。
「アヒャヒャヒャ! アヒャヒャ! アヒャ……」
その笑い声が徐々に途切れ、ゼンマイが切れた絡繰り人形の様に動きが止まり、首が飛んだ。ビヨンビヨンと胴体と頭を繋ぐバネが揺れ動く。
「アヒャヒャヒャ! アヒャヒャヒャ! アヒャヒャヒャヒャヒャ! ざーんねん、ハッズレー!」
建物の上から突如響くアビャクの笑い声。それに合わせる様に風船に描かれたピエロ達も笑い、風船が膨らんでいく。
「お、おいっ!? アビャク、テメェまさかっ!?」
「もしかしなくても私達ごとー!?」
その言葉を聞き、グレー兎は溜め息を吐くしか出来ない。確信があったが、これで確定したのだ。アビャクはアンノウンと同類であると。
「それでは皆さん、さよオナラ、プゥ!」
風船は数十倍に膨れ上がり、一気に破裂する。耳をつんざく程の大音量と煙が周囲に広がった。
アンノウンのコメント 失敬な! 僕だったら別のことをやるよ!




