ツンデレの変態疑惑 ~パンダ風狼を添えて~
「儀式はこの下で行う……筈」
ティアさんに導かれて入った神殿の最奥、重厚な石の扉によって閉ざされたその場所は日の光が差し込む石畳の広い空間だったわ。壁は一面蔦に覆われ、床には丸い大穴。穴の周囲には手摺りが無い螺旋階段が下の方まで続いていて、三階建ての建物位の深さがあったの。
それにしても筈って……。
「ティアさんは代理の時に詳しい説明は受けなかったのかしら?」
「受けた。でも来たのは初めて。儀式の衣装は此処に用意してある」
ティアさんが言う通りに部屋の隅には三つのカゴがあって、その中には透けて見えちゃいそうな位に薄い衣装。レリックさんのはズボンだけで私とティアさんのはワンピースタイプの衣装だけれど袖も無いし足も丸出し。え? これをレリックさんの前で着るの? ちょっと抵抗を感じる中、急に笑い声が響いたわ。
「ぎゃははははっ! 何だよ、その間抜けなキグルミはよっ!」
「……キグルミ?」
「いや、どう見たってキグルミだろ? しかも間抜け面の魚のキグルミじゃねぇか」
この儀式の監修にイシュリア様が関与しているんじゃないかって位に露出度が高くって恥ずかしいし衣装が魚のキグルミ? 私もティアさんも首を捻るけれど、レリックさんも私達の反応に不思議そうにしていて冗談だって雰囲気じゃない。なら、どうしたのだろうって、普通に考えて賢者様の仕業ね。目を向ければ笑顔で親指を立てているし、娘の露出が高い格好を男に見せたくない親心って所かしら?
ティアさん、下は短パンで上は鞣し革を巻いているだけって露出度が高い格好が普通なのに、本人が好きでしている格好は規制しないけど、他の場合はする辺りが親馬鹿よね。
「では私とシルヴィアは退出しますので。ほら、彼方に着替える部屋がありますよ。ティアの着替えを覗いたらもぎ取って犬に食わせる」
「何処をっ!?」
普段通りの優しい口調だったけど最後の一言は今まで聞いた事の無いドスの利いた声だったので私は直ぐに忘れる事にした。言われた本人は股間を押さえて青ざめていたけど、本当に覗く気だったのかしらね。
そうして賢者様達が出て行った後で私達も更衣室に向かおうとしたのだけれど、不意にティアさんが口を開いたわ。
「レリック、覗きたかった? ……ゲルダの着替えを」
私も何度かロリコンの疑惑は向けたけれど、普通に考えてレリックさんが覗くとしたらティアさんなのに、そのティアさんは私を抱きしめて庇いながら僅かに警戒が含まれる視線を向ける。この人、相変わらず無防備って言うべきか自覚が無いのねって言うべきか。父親である賢者様強すぎて他の男の人に興味が向かないのは分かってるけど、もう少し自分が美人だって思うべきだわ。
レリックさんも流石に可哀想ね。こんなにもハッキリとロリコン扱いされちゃね。ほら、少し焦って……焦って? そう。レリックさんは向けられた言葉に明らかな焦りの色を見せて、私の中で疑念が募る。ま、まさか……。いえ、流石に誤解……よね?
「の、覗きだなんてしてねぇよ! あれは事故だ、事故! ……あっ」
咄嗟に口を手で塞いで口笛を吹くけれど全部無駄。ええっ!? 事故!? 事故って何!?
「……レリックさんの変態」
「がはっ!?」
ちょっとだけ涙目になって呟くとレリックさんには随分と堪えたみたい。でも、いい気味よ。……所で何時の間に事故とはいえ覗かれたのかしら? 全く覚えが無いのだけれど。
「……ゲルダ、行こう」
「ええ、行きましょう」
こうして儀式の前にレリックさんへの不信感や評価のマイナスを得ながらも私達は着替え終わって集合した。幾ら向こうにはキグルミに見えていても男の人の前でこんな格好は恥ずかしいと思ったけれど不思議と照れは無い。不思議な話ね。相手は覗きを黙っていた人なのに警戒感が無いだなんて。
ティアさんは羞恥心が一切無いってばかりに平然としていているけど、レリックさんを少し警戒しているのは変わらない。こんな空気で長い螺旋階段を下るのは気が滅入りそうだわ。
「じゃあ下に行く。ゲルダ、掴まって」
「え? うん、分かった……え?」
言われるがままに差し出された手を掴んだら引き寄せられて持ち上げられて、ティアさんはそのまま穴に向かって迷わずジャンプ。当然だけれど真下に向かって落下が始まった。
「テ、ティアさんっ!?」
「大丈夫、平気。レリックは階段を進んで」
慌てる私に対して落ち着いたティアさんはレリックさんに指示を飛ばす余裕すら見せ、空中で一回転すると華麗に着地する。確かにあの空気で三人揃って進むのは憂鬱だったけど、まさか三階相当の高さから飛び降りるとは思わなかったわ。
「ティアさん、せめて飛び降りるなら飛び降りるって先に言って欲しかったわ」
「……ん。分かった、次からは先に言う」
贅沢を言えば飛び降りる事自体を無しにして欲しいのよ。私だってこの高さ程度なら無事に飛び降りる自身が有るけれど怖い物は怖いもの。上を見ればレリックさんが律儀に螺旋階段を進んでいるのが見えたわ。
「……それにしても一体何時、私を覗いちゃったのかしら?」
多分事故だって言うのは本当でしょうし、変態呼ばわりした事で怒りも収まっている。だから後に残ったのは純粋な疑問。流石に着替えやお風呂を覗かれたら気が付くと思うのだけれど……。
そしてレリックさんの到着後に私達は先に進む。通路は一本道で、行き着いた先の部屋は緑に輝く水晶が壁一面に埋め込まれた所だった。正に神秘的光景なのだけど、私とレリックさんが目を奪われている間にティアさんは部屋の中央に蓄えられた水の中に入って行った。
「二人共、来て。儀式を始める」
「儀式か……」
私も最初の儀式の時に緊張したけれど、私よりも場数を踏んでいるレリックさんも同じく緊張していたわ。……仕方無いわね。私はレリックさんの手を取って引っ張る。
「ほら、行きましょう。大丈夫。そんな変な事は起きないわ」
「お、おう……」
ふふふ。私って基本的に手を引いて貰ってばっかりだから偶にはこんなのも悪くないわ。レリックさんの手を引きながら水の中の階段を降りて進む。……あれ? 此処に来て重大な問題が発生した。私、足が着かない。
「……しゃーねぇな。ほれ、俺に掴まってろ」
見かねたレリックさんの背に乗って水の中央まで進む。やれやれ、助かったわ。別に泳げない事はないけれど得意でもないし、こうして誰かに掴まった方が安心するわ。只、ティアさんが少し拗ねた様子なのが気になるわね。自分が掴まらせたかったのね。
「ゲルダ、終わったら散歩行こう。新しい所、色々発見した」
「あら、それは素敵ね。じゃあ、お願い出来るかしら」
「悪くねぇな。俺も一緒に……」
「お前は駄目」
私よりずっと背が高いティアさんやレリックさんの首まで水に浸かる深さまで来た時、ティアさんが両腕を前に突き出した。
「二人共、手を握って目を瞑る。それで試練が開始」
レリックさんの背中に乗ったまま片手を伸ばし、レリックさんも片手を伸ばして手を繋ぐ。視界を眩しい光が埋め尽くした。
「……思い出した。ティアの水浴び覗いた奴だ」
最後にティアさんの言葉が聞こえ、光が消えれば私とレリックさんは見知らぬ遺跡の様な場所に居たわ。通路の真ん中に立っているから進む方向にちょっと困りそう。服は何時ものに戻っているのは安心ね。幾ら別の格好に見えていても恥ずかしいものね。
「あれ? 何かしら、これ?」
手に違和感があって見てみれば二人の腕が鎖で繋がれている。私はそそくさとレリックさんの背中から飛び降りたわ。そして鎖が許す範囲でレリックさんから距離を取った。
「……おい、どうして離れてやがる?」
「身の危険を感じて……」
「だからあれは事故だっての! 俺も最近まで記憶がぶっ飛んでたんだが、偶々水浴びしている所に出ちまったからケジメとして一撃入れさせて、気絶から覚めたらキグルミ姿で縛られてたしよ。……てか、キグルミってアンノウンの仕業なんじゃねぇかっ!?」
「まあ、そんな所だって何となく思っていたわ。からかっただけよ」
何となくだけれどレリックさんは少し位からかっても構わない気がするのよね。反応が面白いし、アンノウンが悪戯する気持ちが何となく分かるわね。……あれ?
「てか、その場合、俺はあの女の水浴び姿を見ちまった事を知られてるんだよな……」
「あの、レリックさん。そのアンノウンだけれど、神殿の中で何時の間にか消えていたわよね?」
「消えていたよな……」
絶対何か企んでいる。それが二人の共通認識。何をするのかと思うと力が抜ける気が……。
「おいっ!?」
私の体から本当に力が抜けて前のめりに倒れ込む。慌てたレリックさん。が咄嗟に支えてくれなかったら転んでいたわ。……からかったのをちょっとだけ後悔する私だった。
「大丈夫か? 変な物を拾い食いしたんじゃないだろうな……」
「いや、女の子に対してそれはどうなのかしら?」
「「!?」」
突如聞こえた女の人の声。振り向いた先に立っていたのは緑色の髪をしたお姉さん。……あれ? 確かこの人は……ブリエルに来た時に戦った魔族!
「あっ、いや、違うわね。だって胸の大きさが全然違うもの」
「初対面なのに失礼ねっ!?」
あの魔族とお姉さんの違い。それは驚異的な胸囲の有無だったわ……。
「……何の用なのさ、ミリアス。マスターとボスの目を盗んで抜け出すの大変だったんだよ?」
「うん。ちょっと君に頼みがあってさ。……殺して欲しい子供が居るんだ」
アンノウンのコメント ……不愉快




