争う者達と嗤う者
私は子供だわ。背伸びして子供扱いに怒ったりはしないし、逆に子供だからってやるべき事を投げ出したりもする気は無いの。私の使命は子供だからと投げ出して良い物じゃないし、勇者だからって子供である事を放棄するなんて事はしなくて良いって賢者様達が言ってくれているわ。
「でも、これはちょっとどうなのかしら……」
今日、私は勇者としてグリエーンの神殿を訪れている。基本的に誇り高い戦士の気質が多い(例外が居るけれど)獣人が多いグリエーンだから野次馬の類は少ない。ジロジロ見られるのは恥ずかしいから助かったわね。その代わり、私達が進む道の左右では神官らしき人達が仰々しく祈りを捧げていたの。儀式の成功を祈り、世界が救われるようにって。
そんな中を私は進む。ティアさんに背負われながら。……いや、どうして?
「あ、あの、ティアさん? どうかしたのかしら?」
それはティアさんと再会した後の事。最後に私に抱き付いた姿勢のまま歩くティアさんに戸惑う私が声を掛ければ彼女は賢者様の方を指で指し示したの。
「父、何か変。この位置が観察しやすい。あと、新しい仲間が増えたから。ゲルダは私の妹みたいな子。それを教えてる」
少し拗ねた声で今度はレリックさんを指し示したのだけれど、要するに嫉妬って事なのかしら? 私を随分と気に入ってくれていたし、確かお姉ちゃんと呼べって言われた事も有ったわね。
「くっだらねぇ。ゲルダが歩き辛ぇだろうが」
「……むぅ」
レリックさんはレリックさんで妙に不機嫌だし、それでもってティアさんに顔を見られたくないのか顔を背けたままだし、一体どうしたのかしらね? 何かあったのは確かだけれど……。
レリックさんの言葉にティアさんは頬を膨らまして不満を示す。此処はフォローを入れるべきね。
「レリックさんも私を何度も肩車しているし似たような物よ」
「なら、ティアは背負ってあげる」
……うん。私のフォローは完全に裏目だったわ。ティアさんは上機嫌になったけれどレリックさんは更に不機嫌だし、私は恥ずかしいし。って言うか、レリックさんは何に嫉妬しているの? 妹分を取られそうで慌てているとか、寂しがりや的な理由なの? 本当に分かりにくい人ね、レリックさんって……。
生まれ育った小さな村の限られた人間関係じゃ分からなかったけど、人付き合いって大変だわ。色々とと真新しい発見が有るのは嬉しいけれど、対処法が分からないから本当に苦労……いえ、そもそも私がどうしてこうもなやんでいるのかしら? 私! 十一才の子供なのだけど!?
「……もう!」
「ゲルダ?」
私はティアさんの背中から飛び降り、不思議そうにしている横を通り過ぎる。私を背負った事でギスギスするとか沢山よ。だったら私が降りれば良いんだわ。人前だと凄く恥ずかしいし!
「おっ! 何ならまた肩車してやろうか?」
「……肩車ならティアがしてあげる」
「結構よ!」
二人は私を取り合うけれど、伸ばされた手をひらりと躱してアンノウンの背中に飛び乗った。
「……僕を巻き込まないで欲しいんだけれど?」
「何時も私を巻き込んで悪戯をしているじゃないの。この位はしなさい」
「はいはい。ゲルちゃんはマスコットの扱いが荒いよね。……じゃあ、飛ばそうか! 前屈みになってしっかり掴まって!」
「分かったわ!」
私は言われるがままに前屈みになったのだけれど、よく考えたら別に急ぐ理由は無いはずよね? あれ? もしかして何かやらかすんじゃと体を起こそうとした時、パンダが私の背中に飛び乗り、アンノウンの尻尾が私のお尻に触れる。
「やーい! フられてやんのー! お尻ペンぺーン!」
「せめて自分のお尻でやりなさい!」
結局この後は普通の速度で神殿まで向かったわ。……アンノウンのせいで余計に恥ずかしくなったじゃない。本当に悪い子ね。……でも、アンノウンが挑発したから二人のヘイトがアンノウンに向かったし、これで良かったのかも知れないわね。
「……もしかして狙ってやった?」
「何の事だい? 僕は常にやりたい事だけやるだけさ!」
「……ふーん」
まあ、そういう事にしておきましょうか。今はレリックさんと一緒に受ける儀式を……儀式? 思い起こすのは今まで受けた儀式の内容。その際、聖女や清女は裸だったりする訳で……ティアさんが清女の代理って事はつまり。レリックさんが賢者様に殺されないかしら?
「け、賢者様。儀式の事なのだけれど……」
「大丈夫ですよ。私にちゃんと考えがありますから。……多少の介入は許される筈ですよね」
……うん。だったら大丈夫ね。賢者様が黒いオーラを放っている気がするけれど私の気のせいよ。目にした事に気が付かない事も大人への第一歩よね!
「こうしてゲルちゃんも汚い大人になって行くんだね」
黙ってなさい、アンノウン!
「……ヒャ!」
町で一番高い建物の屋根の上に立って全体を見渡す。この前ネルガル君が暴れたばっかりなのに少しも活気が衰えた様子も無いし、ここから見れば蟻がウジャウジャ居るみたいだよ。僕って蟻が大好きなんだ。
いや、正確には蟻を殺すのが大好き、だね。先生にも言葉はちゃんと使えって言われているし、反省しなくちゃ。ああ、それにしても大きくなりたいなあ。普通に幸せな日常を送っている所に巨大な足が振り下ろされて目の前で大好きな人が潰される。そうなったらどんな顔をするんだろう? 泣くのかな? 怒るのかな? ネルガル君みたいに壊れちゃうのかな? そうと決まれば早速やろう。思い立ったら即行動! それが僕の長所だね!
息を思いっきり吸い込めば体が膨らんで行く。その空気を足に集めれば即席の巨人の足の完成だ。このまま大勢を踏み潰して即席の足跡を残すのも素敵だよね。おっと、忘れちゃ駄目だった。口をモゴモゴ動かし、握った両手を広げれば舌の上と指の間に皆の目玉。家族ってのは本当に素敵だ。悲しい事も楽しい事も共有する物だっからね!
「……ヒャヒャ!」
思い返せば昔から虫を殺すのが好きだった。最初はお菓子の欠片で引き寄せた蟻を踏み潰し、その内水に入れたり、蝶を蜘蛛の巣に引っ付けたり、思い返すだけで笑いが出て来るよ。生きた魚を猫にあげたり、小さな生き物の目玉を潰したり火を付けたり、お姉ちゃんに見付かったら叱られたけど、スリルが有ったんだよね。
でも今じゃお姉ちゃんもお父さんもお母さんも僕がやっている事を見ているのに何も言わない。僕のやってる事を許してくれて、舌の上や指の間から眺めてくれる。僕としては応援が欲しいけど、お口が無いから無理だよね。残念残念。じゃあ、踏み潰そうか。
「……ヒャヒャヒャ!」
えい! っとばかりに屋根から飛び降り、大勢目掛けて急降下。うーん、聞こえてくる悲鳴が最高だ。でも、世の中には酷い人が居るんだ。地上から放たれた岩の槍が僕の足を貫いて、開いた穴から空気が抜けちゃう。空気を入れて口を結ぶ前に手放した風船みたいに僕の体は足を萎ませながら宙を舞い、最後は頭から地面に突き刺さった。手足をバタバタさせて一家団欒の楽しみを奪った奴を見たんだけれど、立っていたのはビックリだよね、ウサギさんだ!
「……ヒャヒャヒャヒャ!」
「…随分とふざけた方法ですね。殺意は感じてもやる気は見られない」
あっ、ウサギさんの中は女の人だ。でもキグルミが喋っちゃ駄目だよね。神様に捧げる踊りの時も黙っているのがルールなのに。急に僕の足を攻撃したりとか、酷いオバさんだ! うんうん、そうだね。お姉ちゃんも言っていたっけ。悪い人には立ち向かいなさいって。よーし、頑張るぞ!
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
口の中に手を突っ込んで、取り出したのは巨大なクラッカー。紐を引っ張れば大砲みたいな音と共に武器を持ったネズミの兵隊の登場さ。一匹一匹が下級魔族に匹敵するネズミ兵達はウサギのオバさんに向かって行って、突き出した手から出てきた火の玉で焼かれちゃった。そのまま火の玉は僕に向かって来るけれど、次に出したのは僕と同じ大きさのシャボン玉。火の玉を包み込み、空の彼方に持って行った。
「……貴女、まるで子供ですね。戦い方が子供の悪ふざけの様です。魔族は確かに誕生して数年ですが、それでも精神が成熟しているでしょう」
成熟? 成熟って何だろ? 卵は半熟が最高だよね。しかし大人は卑怯だな。難しい言葉で僕達子供を混乱させるんだからさ!
「まるで子供って、僕は実際子供だよ? 今年で七歳になーるんだ!」
「なっ!?」
あれれ? 僕が先生のお陰で大きい体を持っているからって驚き過ぎだよ。サーカスにはもっと大きい人が居たのにさ。このオバさん、さては世間知らずだな!
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! それじゃあそれじゃあ自己紹介! 僕はアビャク! 魔人アビャク!人でも魔族でもない七歳児さ!」
アンノウンのコメント 分かってないなあ。精神的ダメージの方が面白いのに




