クルースニク外伝 25
性格の悪さが滲み出る術から脱出して早々に相対する巨大な異形。私がぶっ飛ばした時に負わせたダメージを回復させつつ膨張しているし、一気にぶっ殺すしかないわね。
「よっし! 二人と、残りの見知らぬ三人、彼奴の動きをちょっと止めて! 私が一気に殺すから!」
「いや、殺したら不味いかなぁ。彼、呪いであんな姿になってるだけだしさ。ほら、隊長の持ってるホリアーなら呪いの解除が出きるでしょ? パパッとやっちゃってよ」
……え? そうなんだ。なんか変な草みたいな臭いがするなぁって思ってたけれど、実は植物系のモンスターだったとかじゃなくて呪いかぁ。うん、だったら私のっていうかホリアーの出番ね。
「……隊長殿、今は便宜的にそう呼ばせて貰おう。隊長殿、拙者の友人を、コーザスを救ってくれ!」
「了解!」
何処の誰かは知らないけれど、そんな風に頼まれて断っちゃ女が廃るってものよ! ホリアーを鞘から抜き、コーザスって名前の彼に駆け出した時、向こうも巨大化を続けながら私に迫る。胴体部分を上下に動かし、手足を滅茶苦茶に振り回して私を叩き潰そうとするんだけれど、どうも拘束したけれど途中で外され掛けたらしいグレイプニルの鎖に引っ張られて一瞬動きが止まったわ。鎖の先にはレリックと見知らぬ二人。続いて巨大な影の腕がコーザスの体を左右から掴む。
「行け、隊長!!」
「頼んだよぉ」
「行っちまえ!」
「行ってくれ!」
「任せた!」
皆の私に期待する声を受け、私は懲コーザスに向かって跳躍した。動きを封じられて暴れるも動けず頭だけが私を見れば、口が開かれ舌が伸びて来た。青紫色で先端が幾重にも分かれた気色が悪い形状の舌。だけど、それは飛んで来た斬撃によって切り落とされて私に届かない。
「ここまでお膳立てされて、失敗しましたとは言えないわね!」
背中に感じる太陽の光、ホリアーの純白の刃がそれを反射してコーザスの頭に当たった瞬間、膨張が止まり、逆に収縮して行く。生皮を剥いだみたいな体色も肌色へと戻り、異常な巨体の異形が居た場所には普通の巨体を持つ青年が突っ伏していた。……全裸で。
これこそが神が造りし聖なる短剣ホリアーの力(一応行っておくけど全裸は別)。あらゆる不浄を断ち、刃を介した光は邪悪なる呪いを祓う。……まあ、私以外に適合者が居なかったし、所詮伝説は伝説だって言われてたんだけどね。私が冗談で鞘を抜いたら鋼の色だった刃が光り輝いたのだもの、ビックリしちゃった。
「……ねぇ。もう良いかしら?」
それは兎も角、私は倒れたコーザスに背中を向けている。だって全裸なのだもの。私、キスすらした事ないのよ。賢者様も遊び相手にはなってくれても、唇へのキスはシルヴィア様だけだって拒否するから頬にだけしてたし。それも子供の間だけ。
そんな私が男のアレを見るのは恥ずかしいし、流石に全裸で放置するのは問題だからってレガリア達に任せていたら、今頃になってガチャガチャ音を立てながら兵士達がやって来たわ。前衛が分厚く巨大な盾を構え、後衛の魔法使いや攻城兵器で攻撃するって布陣みたいね。
「……遅かったか」
「前後少しだったんだけどね。私だって遅れて来た身だから偉そうには言えないけれど、全部終わったし、説明はちゃんとするわ、レリックが」
「俺っすか!? いや、俺より隊長の方が良いでしょっ!?」
「だって私も遅れて来たもの。でも確かにチンピラなレリックには荷が勝ち過ぎるわね、レガリア」
「そうだねぇ。ちょっと無理だと思うよ、オジさんもさ」
「二人揃って酷ぇなっ!?」
さて、これで剣呑な雰囲気が何処かに消し飛んだ。と別の言い方をすればシリアス台無し。ラムの友達でそれなりの家出身の私は兎も角、吸血鬼のレガリアや出自を話せないレリックじゃどうなるか分からないもの。
他の三人と呪われていた人? いや、全く知らない人達だから一切判断が出来ないわよ。
「……取り敢えず皆様揃ってお越し下さい。そこで寝ている彼ですが……」
「呪いで暴走していたらしくて、既に呪いは解いたわ。私がね」
「そうですか」
当然だけど一人が代表して話をするから他は自由って訳には行かないわ。だからこそ事前に空気を塗り替えておいたのだけれど、王族すら巻き込んだ事件の当事者の扱いがどうなるかよね。さーて、一応フォローはしたけれど後は流れを見るしかないわ。アヴァターラがこんな事になっちゃったし、ガンダーラ自体も延期かも知れないわね。
コーザスは担架で運ばれ、私は少し無理を言ってレガリアとレリックと一緒に事情を話し、他の三人はどうやって聴取を受けているのかは知らない。志郎って人は何故かサラ姫の口添えが有ったらしいけど、どうも臭いわよね。レガリアの言葉も気になるし……。
って言うか、ご飯暫く食べられそうにないんだけれど……。
「お腹減った……」
今にもみっともない鳴き声を上げて空腹を訴えそうな腹を押さえて呟く。案の定、聴取は長引き、始終不機嫌だった私を担当した騎士は後で考えれば可哀想だったわ。
「……ふぅん。あの第一王女が助命を申し出たのね」
そんなこんなが有った後、私は王城の大浴場で汗を流していた。臭い唾液も全部取れたし、温かい湯に浸かって漸く一段落って感じね。当たり前だけど私が城の大浴場を使えているのは実家が関係しているだろうし、家出娘としては頭が下がる想いだ。まあ、得られる利益は得ときましょうって感じで遠慮無く使わせて貰っているのだけれど、ラムも一緒。
いやぁ、まさか数年振りの再会の後に直ぐ一緒にお風呂に入るとは思わなかったわ。猫の彫刻の口から溢れ出すお湯が湯船を満たし、肩まで浸かると全身が温まって疲れが溶け出して行く。折角の再会だし、他に話す事も有りそうだけれど、話しているのは事件の顛末。コーザスの行く末について。
まあ、王政の今後に関わる儀式の最中に王族貴族を巻き込んで大暴れ、会場の神殿も半壊。呪われた被害者だから無罪放免、とは行かない。……まあ、そうなるでしょ。でも、コーザスを罰して終わりって訳にも行かないのが面倒なのよね。
「それで、アヴァターラってどうなるの? 一回戦で台無しになった上に、レリック達の戦いを見た後じゃねぇ」
「本来だったら日を改めてってなるんだろうけどさ、姉様達を後押しする派閥がそれぞれを抱き込みたがってるんだ。サラ姉様は志郎を引き入れたがってるって言うか随分と熱を上げている感じだしさ」
「そうよね。……実は影で恋仲だったとか、片思いだとか有り得るんじゃないの?」
「あははは! サラ姉様が? 腹黒いけど浅はかなサラ姉様だよ? 権威第一主義な所が有るあの人が貴族ですらないらしい彼に恋?」
「あんた、仮にも実の姉でしょうに……」
私も有り得ないとは思うんだけれど、まさか大笑いされるとは思わなかったわよ。さて、友人と一緒にのんびりしていられるのも今だけでしょうし、政治とかの話は此処までにしておきましょうか。どうも面倒な事に巻き込まれるぞって私の直感が告げているのよね。
「アンタさえ居なかったらバックレるんだけどね」
「まあ、君ならそうだろうね。でも、友情を裏切れないのが君だろ?」
「まあ、我ながら面倒な性分だと思うわよ」
溜め息を吐き、湯の浮力に体を預けながら天井を仰ぎ見る。所でレリックはイーチャさんに何処かに連れて行かれてたけれど、何処でナニをヤってるのやら……。
「……ねぇ、ラムは結婚しないの? 王女ならそんな話が舞い込むと思うけど。清廉な美姫様なら特に……ぷっ!」
「笑うなよぉ! 僕だってイーチャの指示じゃなければ変な演技なんかしないんだからね。何だよ、あのお嬢様言葉は。淑女とか僕とは正反対なのにさ。まあ、縁談は色々有るけどさ、ガンダーラを突破した時のご褒美で好きな相手と、って事も可能だから父上も控えてるんだ」
「王族って本当に面倒ね。私は絶対に賢者様以外とは結婚しないわよ!」
「じゃあ、一生結婚出来ないね、君」
友人との何気ない会話。互いに遠慮が不要な相手とのそれは本当に楽しくて、時を忘れる気分だったわ。……でも、時計の針は進み続ける。神に祈っても止まりはしない。ドロドロした政治の闇が私達の前に現れるのはほんの少し後の事。
そして、それには一つの恋物語が深く関わっていた……。
(しかしアビャクって名前のピエロか。確か先日座員が行方不明の子供を除いて皆殺しになったサーカス団が有ったけど……普通の人間だから無関係か。その子もアビャクって名前でピエロだったけどさ)
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