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クルースニク外伝 22

間違い投稿だったので修正

 オイラは村の誰よりも強かった。大人でさえオイラに力で敵わず、皆に頼りにされたもんだ。力を頼りに好き放題? 馬鹿言うな! そんな酷い事、出来る訳が無い。


 だって、オイラの肉体は皆より大きく逞しい。きっと神様がくれたもんだ。なら、それを誰かの為に使うのが当たり前だべ。何せオイラは生まれた時点で沢山の物を貰ったんだ。それを分け与えて助けるのが使命だ……そんな風に思い上がっていたんだ、オイラって馬鹿は。


 ある日、村が滅びた。原因は猛毒を持つモンスターの大量発生。一見すれば砂に紛れる体色を持つだけの蠍で名はデスコ。鉄よりも堅く、ネズミよりも素早い。そんなのが濁流みてぇに押し寄せて村の皆を襲い、おっ母もおっ父も友達も嫌いだった奴も死んだ。残ったのはオイラだけ。立ち向かって自分だけでも助かった訳でねぇ。偶々水を汲みに行っていたから助かったんだ。


 デカい体? 人より強い力? そないな物が何の役に立つんだ。オイラが居ても居なくても何も変わらなかった。無惨な死体が増えただけだ。結局、人の中で強い弱いを比べても、人以上の存在を前にすれば無意味だったんだ。


 それでも諦め切れなかった。この肉体は人を助ける為に有る。オイラは神に選ばれた存在だ。きっと寝物語に聞かされて憧れた英雄になれるって思ってた。思って……いたんだ。


 それが夢で終わる夢だと気が付いたのは旅に出て1ヶ月位経ったある日の事。立ち寄った村に押し寄せるデスコの群れにオイラは怯えながらも立ち向かおうとした。こうなったら一人でも逃げ切る時間を稼ごう。オイラは此処で死ぬ為に生まれて来たんだって。


「まあ、待て。此処は拙者に任せよ。一匹残らず切り刻んでくれようぞ」


 それが間違いだと知ったのは直ぐ後。オイラは神に選ばれた人間じゃ無いって自覚したのもその時。オイラが絶対に敵わないと諦めたデスコの濁流に躊躇無く飛び込み、その殆どを無傷のままで切り刻んで追い払った男の姿を見た日から、オイラは自分が普通の人間だって知ったんだ。


「拙者に付いて来たい? まあ、旅は道連れ、丁度話し相手が欲しかった所だ」


 これがオイラ、コーザスと青上志郎との出会い。それからの旅は志郎の凄さを間近で見せ付けられる日々であり、同時に他に特別な存在と出会わなかった事で自信が戻る旅だったんだべ。志郎が突き抜けた存在、英雄伝の主役なだけで、オイラもその仲間に相応しい存在だろうって。


 だから兎に角力を鍛えた。生半可な技を手に入れるより逞しい肉体を更に鍛え続けて、そんなある日の事だった。


「……むっ。甲虫車が襲われているな」


 それはイエロアでの旅の途中、飼い慣らしたカブトムシみてぇなモンスターに引かせた馬車が襲われるのを助け、改めて志郎は英雄なんだと思ったんだ。助けた高貴な身分の相手とのロマンス、それは決して報われぬ恋だと思ったんだが、どうやらそうでも無いらしい。


 だからオイラは志郎に力を貸す事にした。親友の恋の為、アヴァターラに一緒に参加して……オイラが本当に凡人で脇役だって思い知ったんだ。


 「大会に参加を決めたのだから気持ちは分かるが、ちと張り切り過ぎではないか? 気が持たぬぞ」


「大……丈夫。オイラと志郎なら絶対に優勝出来る。ガンダーラだって突破出来るべ」


 オイラは一緒に冒険する中で多くの人を助ける志郎の姿を見て来た。オイラみたいに自分が特別な人間だからって理由じゃなく、助けたいから力を振るう志郎。だから、絶対に幸せにならなくちゃ駄目だ。特別かどうかは関係無い。どんな力を持っていたとしても、人を大勢助けた志郎に普通の幸せが許されないなんて有り得ないんだから。


 だからオイラはどんな手だって使ってやる。志郎の想い人から受け取った怪しい薬を使い、戦う相手の誇りもオイラの誇りも踏みにじっても。


「この薬を飲めば力が増します。どうかお願いいたしますわ」


 最後に彼女は言った。この薬は負担が大きいが、追い詰められれば更に力を授けてくれると。志郎には絶対に伝えないし飲ませない。オイラを気遣い、戦う相手に無礼だって言うだろうから。でも、オイラは友達の助けになりたいんだ。


 あの日、志郎が居なければ死んでいた、そんな事は関係無い。それを理由にするのは助けてくれた志郎を侮辱し、オイラが危ない真似をする責任を押し付ける事になるから。


 友達の役に立ちたい、無茶だろうがなんだろうが、オイラが体を張る理由はそれだけで十分だべ!


(殺して……くれ)


 ……なのに今、オイラは化け物みたいな姿になって暴れている。身体に走る激痛も、膨れ上がった筋肉に顔が埋もれて息が出来ないのも辛い。意識なんてとっくに手放している筈なのに朧気に残った意識で願うのは自身の死。


 誰か、オイラを殺してくれ。これ以上志郎に迷惑を掛けたくない。愚かな行動で足を引っ張るのも、志郎にオイラの死を背負わせるのも。だから、志郎以外の誰か、オイラを今すぐ殺して……。


 どれだけ叫びたくても声が出ない。胸が張り裂けそうな程に泣きたい気分なのに泣けない事が辛かった。





「さてと、どうするかねぇ」


 何が理由だかは知らないけれど、現在進行形で膨れ上がっているコーザス君は地面に伏した状態で手足を激しく動かしていた。膨れ上がっているのは全身だけれど、どうも胴体の胃の辺りを中心に膨れ上がっているからか下半身じゃ支えきれない位にバランスを崩していたんだ。


「何か変な物を飲み込んだっぽいんだけれど、どうする?」


「吐かせる……とは行かんか」


 そう、志郎君が苦虫を噛み潰した顔をしながら見るのは向け胸筋に埋もれてしまった頭。あれじゃあ腹を攻撃して腹の中の何かを吐き出させるのは無理だ。今は速度が落ちているけれど膨張は続き、胸に穴を開けたら死んじゃうから本末転倒。


「おい、レガリアさん。……助かるんだよな?」


「はっ! ビビってんのかよ。俺は体が……少し小さいが、テメェは肝っ玉が小さいな」


 大質量を持って押し潰そうと巨大な手が迫る。既に人が蚊を潰すみたいに人を潰せる大きさで、迫り来る最中も大きくなり続ける腕にグレイプニルが絡み付いた。腕の周囲を回る際に刃の先端で切れ目を入れ、即座に塞がり始めた肉の隙間に鎖を通す事でキツく締め上げる。


 その質量は膨大だけれど、レリック君は一人で押さえ込んで勢いを殺し、正面からルゴド君が微塵を叩き付ける事で動きが止まる。その瞬間、エルフの豪腕で振り下ろしたら斧が腕を切り落とした。


「こんな時に喧嘩を売るな! 人命に関わるのだぞ」


 レリック君、ルゴド君、ルゴド君の相方でエルフのバシル君は今でも助けられると信じているのか信じたいのか殺すという選択肢は無いらしい。良い子だねぇ。実に良い子達でオジさんちょっと大変だよ。


(これじゃあ殺すって言い出せないよねぇ。……っと、どうやら同時には無理か)


 切り落とされた断面の肉は即座に盛り上がって腕が生えてくるけれど、その間は巨大化が止まり、切り飛ばした部分は黒い塵になって崩れ去る。ああ、成る程ね。


「多分あの筋肉は魔法で構成された物だ。幾ら切り落としてもキリが無いよ」


 さて、オジさんもちょっとは活躍しないとね。コーザス君の影を操り槍に変えて串刺しにする。肉が膨れ上がって槍を潰そうとするけれど、暫くは時間が稼げるね。……にしても面倒な相手だなぁ。


 風が吹いた位の刺激に反応して暴れ続け、更に大きく強くなる。既に生きているのか死んでいるのか分からず、その上に既に王族を巻き込んだ状態だ。その王族に何か関係しているのが居るみたいだし、助けられてもその後で……。


 世の中、本当にままならない。正直に真面目に生きていても悲劇ってのは襲って来るもんだし、悪人が大手を振って幸福に生きている。さて、一応助ける方向で策を考えるか。


「レリック君、何か感じないかい? 変な臭いとかさ」


「薬草みてぇな臭いなら感じてるぜ。ありゃ呪術の類だ。……それこそ生け贄の命を削って発動するタイプのな」


 ……おや、光明が見えて来たっぽいねぇ。闇夜の中に浮かぶ種火程度だが無いよりはマシだ。後は用事で遅れるって言ってた隊長さえ来れば……いや、騒ぎなのに来ないのは妙だ。こりゃあ何か起きたな……。






「……あれ? この道ってさっきも通ったのに。幾ら何でも妙ね……」




アンノウンのコメント  うわぁ、すれ違い凄いな‥…

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