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クルースニク外伝 ①

応援何時も感謝しています! 新作も執筆中

 気の置けない仲間とは良いものだ。支え合い、一切の遠慮無しに本音をぶつけ合える。家族もまた良いものだろう。出会いが有れば別れも有るが、どうせなら笑って別れたい。涙ではなく、笑顔で見送りたいし見送られたい。



 その点、俺は仲間に恵まれているんだろうな……。



「じゃあレリックの門出を祝って乾ぱーい!」


「乾杯!」


「あっ、因みに此処の払いは全部レリックね」


「ゴチになりまーす!」


 ……う、うん。恵まれてるよ……な? まさか俺が勇者の仲間の一人として世界を救う旅に同行するなんてな。今は送別会、グラスをぶつけ合う音と笑い声が響く宴会会場。隊長の掛け声と共に始まった宴会の席で俺に一枚の封筒が差し出される。それを渡して来た隊長の顔だが、仕事の時にしか見ない真剣なものだ。この人、基本はヘラヘラしているからな。


「まあ、宴会が終わったら読んで。まあ、レリックは酔い潰れて眠ってしまうだろうから明日になるだろうけれどさ」


 この中に何が書かれているか、俺には分かる。だから皆は自分達が居る場所ではこれを読んで欲しくないんだろうな。ったく……。


「……」


 無言で封を切って中身を取り出す。一晩貸し切りで飲み放題食べ放題の料金の請求書が入っていやがった。……矢っ張りな!



「アホか、テメェらぁああああああああああああああっ!」


 何で送り出される俺が奢るんだよっ!? 俺の送別会っつんならお前達が払えっての! ……あー、糞。実は寂しいとか思ってたけれど、抜けられて良かったかも知れねえ。クルースニクに所属したままだとツッコミが追い付かねぇからな、基本俺以外はボケだから!


「はーい。レリックがマンネリ化したツッコミを入れた所で食べ始めましょう。支払いはレリックじゃなくて、酔い潰れた奴達ね。でっ、飲むペースは自分で調整する事! 残った皆に手間掛けた罰ゲームだから」


 最初っからそうして下さいよ、隊長。ったく、アンタのノリについて行くのは大変なんっすからよお。取り敢えずアルコール度数が低い酒をチビチビ飲みながら甘い物でも食べるか。先に潰れた奴等の奢り? はっ! 飲めって強引に勧めてくるアルハラ共さえ居ないんだったら俺は大丈夫だっての。馬鹿みたいにガブガブ飲む連中に負ける筈が無いだろう。


 俺は勝利を確信して笑い、懐の財布を確かめる。勇者ってのは幾つもの国から資金の支援を受けてるってから金には困ら無いんだろうが、自分の金位は確保しねぇとな。……男には色々必要なんだよ。


 旅の出発は彼奴が休暇から戻って来る数日後。流石に旅の途中で女を買うのは難しいだろうから、有り金叩いてでも存分に楽しむとするか。確か良さそうな店が路地裏に……。


「じゃあ、余興の時間にしましょうか。先ずはレリックによる抱腹絶倒大爆笑間違い無しの一発ギャグ千連発!」


「いえー!」


「誰がやるかよ、アホかテメェらぁあああああああああっ!」


「まあ、レリックってツッコミ担当だからね、クルースニクの」


「……そりゃボケる奴しか居ねえからだよ」


 なんつーか、疲れた。此奴ら、宴会の前から随分飲んでるだろ、絶対。……まあ、こりゃ俺は金出さずに済むな。最初からそれが普通なんだがよ……。




「……っと思っていたんだがな」


 ふと目覚めれば朝日が眩しく、懐は寂しい。俺を含めて酔い潰れた数人が会場に転がっていて、親指を立てた隊長とレガリアさんのイラストと共に『ゴチッ!』と書かれた紙が置いてあったのでグチャグチャに丸めて放り投げる。いや、どれだけ酒に弱いんだよ、俺はっ!? ……お袋は強かったんだがな。


「……」


 家族の事を思い出しながら頭に手を置けば切り落とされた耳の傷跡に指先が触れる。ケツの方を触れば尻尾があった跡もだ。苛立ち紛れに酒を瓶を引っ掴んで一気に飲み干そうとするが馬鹿馬鹿しいので止めた。……忘れろ。もう俺はあの家とは縁を切った。名前だって捨てただろうが。


「……俺はレリックだ。十六夜(いざよい)はとっくの昔に死んだ」


 そう、俺は既に過去と決別した筈だ。幸福だった思い出も捨て去った。死んだ人間は蘇らねえ。何も思わない。だから、俺が何時までも過去を引きずって、皆が連中を怨んでいるって思っていたら、何時まで経っても終わらないんだ。


 ……なのに。あの言葉を忘れる事が出来ない。



「もう直ぐ産まれるわ。そうしたら……」


 あの約束は果たせないと思っていたのに……。


「……ままならないもんだ」


 天井を仰ぎ見て呟く。未だ眠っている愛すべき馬鹿共との出会いが勝手に蘇って来た……。




 これは未だ俺がクルースニクの一員になる前、レガリアさんと一緒に旅をしていた頃の話だ。俺とレガリアさんは傭兵紛いの仕事をしていて、モンスター退治やら盗賊の捕縛だの用心棒をやっていたんだ。


 ……恥ずかしいから絶対に言ったりはしねぇが、死に掛けた俺を助けてくれて生活の世話までしてくれたレガリアさんには感謝しているし、実は親みたいに思っている。


 そのレガリアさんなんだが、今俺の目の前で仕事の交渉をしているんだ。この人は相手に遜ったり横暴な態度を取る事はしねぇし、俺の態度を注意する時もやんわりとだ。頭に血が昇らせても損なだけって言ってな。


 いや、別にそれは良いんだ。全然構わねぇんだがよ……。


「……」


「モッキュ! モキュモキュモキュ~ウ?」


「モッキュ! モキュー!」


 今、俺の前でレガリアさんが翼の生えたモグラと流暢に会話をしている。三十代半ばのオッサンがヌイグルミみてぇな姿のモグラと話をする姿は正直言って不審者だ。しかも話すのは向こうの言葉でだ。俺は目の前の現実から目を逸らしたかった……。


 ったく、一体何だってこんな事になったんだっけか?



 そうそう、この日はグリエーンの僻地に行ってたんだっけ。レガリアさんの知り合いだっつう偏屈なドワーフの爺さんの顔を見に居ったら近所に住み着いたウザいのを倒せって言われたんだ。


「ブウモォオオオオオオオオオ!!


 地響きを轟かせて暴走するバーサーカゥの群れ。何かの切っ掛けでブチ切れりゃ群れ全体に怒りが移って手当たり次第に暴れる面倒なモンスターだ。


「らぁっ!!」


 目の前で動く俺を怒りのぶつけ先に選んだバーサーカゥ共が向かって来る中、俺は掛け声と共に腕を振り上げる。魔力を通して鎖を伸ばしていたグレイプニルの切っ先は真上に向かって飛び上がり、先頭を走っていた一頭の腹を貫き背まで貫通する。


 だが、その程度じゃバーサーカゥは止まらねぇ。一度暴れ始めたら周囲から怒りのぶつけ先が無くなるか完全に死ぬまで暴れ続けるからな。正にバーサカーだとレガリアさんは笑っていたが、実際に村にでも入り込んだらやべぇ事になる。


「抗うなよ……死ね」


 背中を貫いた切っ先はそれだけじゃ止まらねえ。周囲の仲間の横っ腹を貫き、雁字搦めに巻き付いて行った。その数、合計五匹。これでも動き続けるんだから大したもんだが動きは鈍っている。互いが邪魔で思う様に動けないんだ。それでも全く走れねぇ訳でも無いし、暴走すれば仲間すら気にせず爆走する連中だ。


 だから、確実にぶっ殺す。五匹のバーサーカゥを雁字搦めにしたグレイプニルはしっかりと固定されていて、俺が全力で引いても抜けはしない。代わりにバーサーカゥ共が宙に舞った。


「ヴモッ!?」


 高く持ち上がった五匹もの巨牛。その重量は凄まじく、こうやって持ち上げるのは骨が折れる。だが、一度持ち上げれば話は変わる。突進の威力を決めるその巨体と体重はバーサーカゥの武器だが、今だけは俺の武器だ。仲間を気にせず走り続けるバーサーカゥ達の真ん中目掛け、勢いを付けて破壊力を増したバーサーカゥを叩き込んだ。


「ブゥモォオオオオオオオオオオッ!?」


 おっ、流石にこれは効果が有ったのか何匹も今ので死んだし、生きているのも転がっている。直ぐに起き上がって更に怒り狂うんだろうが……テメェらにその直ぐ(・・)は永遠に来ねぇ。今此処で死ぬからだ。




「永久の闇、消して覚めぬ悪夢よ。今此処で姿を見せろ……影獣(シャドービースト)!」


 今まさに動き出そうとし、怒りで筋肉を膨張させていたバーサーカゥ達の影が動き出し、猛獣の姿になってバーサーカゥ達に食らい付く。足を封じ、急所に牙を突き立ててバーサーカゥ達が絶命する時まで獰猛な姿を晒していた。


「……ふぃ~。お仕事終わったねぇ。もう夜明けだし、オジさんはベッドが恋しいよ。じゃあ、報告は宜しく~」


「いや、待てよ。交渉事は……」


 俺の苦手分野だからレガリアさんに任せようと思ったんだが、向けられた背中を見て言葉を失う。




「……モキュ」


 翼の生えたモグラがレガリアさんの背中にしがみついていた。



「いや、何でだよっ!?」








 

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