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望まぬ会合

「どうもトラブルが多いな。……いや、そもそもの話、休暇だったら魔族が既に居ない世界に行けば良かったのではないか?」


 それはナターシャさんが帰った後、スライムっぽい謎の生物を賢者様達が調べている時、ソリュロ様から根本的な解決策が出されたの。うん、ちょっと考えれば分かる話だったけれど、トラブル続きで休暇を楽しめないなら、トラブルが起きなさそうな場所に行けば良かったのよ。


「じゃあ、お茶を飲み終わったらグリエーンかオレジナに行きましょう」


「グリエーンは森ばっかだからオレジナが良いな。さて、確か観光ガイドに……」


 私じゃ解析魔法は使えないし、賢者様でさえ何か勝手が違うって言いながら苦戦している相手じゃ使えても役に立たないし、使命は一旦忘れて遊ぶのが一番ね。私は甘い物を食べに行きたいけれど、何か良い店は有るかしら? 折角旅に出たのにエイシャル王国以外の国に行かないまま次の世界に旅だったのだもの。考えてみれば勿体ないわ。


「……あれ?」


 ふと町の方に目を向けると巨大な足みたいなモンスターが上空に現れていた。でも、私がビックリして立ち上がってから物の数秒で消え去ったし、一体何だったのかしら? 何か嫌な予感がするわ。


「……式神の類、それも随分と胸糞が悪い。さて、ゲルダ。新たなトラブルだ。巻き込まれる前に出掛けるぞ。……ケーキが半分残っているから少しだけ待て」


 私の嗅覚でも距離があるから臭いは感じないけれど、ソリュロ様が随分不機嫌な顔をしたし、多分臭かったわ。直ぐにケーキの残りで上機嫌になったソリュロ様だけれど、詳しくは話そうとしないなら知らない方が良いのよね。


「んふふ~」


 ソリュロ様の食べ方だけれど、私とは随分と違うわね。私はケーキを大きめの一口にして、口の中全体に甘い味が広がるのが好きなのだけれど、ソリュロ様は小さいのをフォークの先に乗せてチビチビ食べるのが好きみたい。ショートケーキの上のイチゴだって、クリームと一緒にカットされたイチゴがスポンジの間に入っているのに最後まで残して幸せそうに食べる姿は年相応の女の子にしか見えないわ。


「次はモンブランにするか。確か栗が名産のパルナップ国が収穫期だった筈だ」


「あっ! 聞いた事あります! 一度だけシロップ漬けを食べた事が有るけれど、凄く美味しかったです」


「ほほぅ。そうか、それならば決まりだな」


 こうやって甘い物とかレジャーを楽しむ姿を見ているとソリュロ様って勿体無い事をしていると思えるわ。だって、普段は人が自分の正体を知れば怖がるからって神の世界から出て来ないそうだけれど、六つもある人間の世界にはこうも楽しい事や美味しい物が溢れている。なら、楽しまないと損よ。


「じゃあソリュロ様。早速出掛ける前に服を見に行きましょう。私、ブリエルの服に興味が有るんです」


 旅の醍醐味は、何と言ってもその土地の文化に触れる事。独自の伝承や解釈を行った物語や料理、そして服。私の普段着は一応防具の役割を持っているし、旅の資金は税金から出ているから普段は新しい服を買う事に抵抗があったけれど、折角の休暇だもの、お洒落を楽しまなくちゃ損よ。……まあ、お洒落に消極的だったのは服屋が村に無い田舎物で、お洒落とか良く分からないからだけれど。


「ソリュロ様、色々教えて下さいね。私、服とか詳しくないので」


 だから変な格好や時代遅れのファッションを選んで笑われたらと思うと怖かったけれど、一緒に休暇を楽しむソリュロ様が居るなら百人力よ。


「お、おおぅっ!? この私に任せておけ」


 ……あれぇ? 言葉は頼もしいけれど顔は引き吊っているし、人選を間違えたかしら? うん、普通に店員さんに選んで貰いましょうか、そうしましょう。


 ちょっと不安は残るけれど、旅行の為のお洒落着を買いに行くだなんて楽しみで仕方が無かった。勇者になる前は羊飼いの仕事が忙しいし、町に行っても本を書うか偶に贅沢としてお芝居を観る位。町で見かける同年代の女の子が親と一緒に服を選んでいる姿が羨ましくなかったと言えば嘘になるでしょうね。勇者になってからは使命感に追われて綺麗に着飾るだなんて発想は浮かばなかったし。


 でも、今の私はお洒落の為の服を買いに行く女の子。そんな普通の子供として、今だけは使命を忘れましょう。




「……む? 随分なお大尽が居るみたいだな」


「えぇっ!? 大臣様が来ているのですか!?」


 折角だからと町一番と評判のお店に来たのだけれど、店員さん達が大慌てで働いていたわ。私と同じ位の女の子が着るドレスや装飾品を次々に包装して、新しく来た私達を接客する余裕すら無いみたい。カウンターを見れば山の様に積まれた金塊。あれなら店全部を買えるかも知れないし、大臣様が買いに来ているってのも納得ね。


「いや、違うぞ? 金を湯水の様に使う者をお大尽と呼ぶのだ。しかし、あの様子では何処ぞの金持ちの娘が商品を買い占めているらしいな。……私の好みの服は一切手付かずなのは少し腹が立つ」


「ソリュロ様、冷静になって!?」


 確かにソリュロ様が着ている優しい色合いの甘い感じの服、確か甘ロリファッション系だけ棚に残っているけれど、それで怒るのはどうかと思うわ、私。


「それにしても、あれだけ買ってどうやって持ち帰るのかしら? 店の前には馬車なんて無かったのに」


「まあ、この規模の店ならば配達も請け負うだろうし、稀少だが転移魔法が使える者が居ないでもない。大抵が研究者だし、スポンサーの娘の我が儘に付き合う位はするだろうさ。……だと良かったのだがな」


 大勢の人を引き連れて二階からゴスロリファッションの女の子が降りて来るのが見えた時、ソリュロ様の雰囲気が変わったわ。棚や人が邪魔で顔見えなかったけれど、完全に一階に降りれば私にも彼女の姿がハッキリ見える。勇者としてでなく、普通の女の子として過ごしている今だけは絶対会いたくなかった彼女は、私の意思とは真逆に嬉しそうな顔で手さえ振りながら寄って来た。


「やあ! こんな所で出会えるだなんて運命だね、ゲルダ! 君に会いたかったよ、ずっとね」


「……私は貴女の顔だなんて見たくもないわ。いえ、その顔に拳を叩き込みたくはあるわね」


 恍惚の表情を浮かべながら頬に手を当てる仕草をする彼女は随分と高価そうなドレスを着て、室内なのに日傘を手にしている。対する私は如何にも田舎者って感じのツナギ姿で麦わら帽子。純粋な好意さえ感じさせる彼女に対し、私は嫌悪感を隠せない。



「賢者様に痛い目に遭わされた筈なのに随分と元気じゃない。ねぇ、リリィ・メフィストフェレス?」


 勇者としての使命を忘れて訪れた筈の店で、勇者の宿敵である最上級魔族と出会すだなんて、運命を司る神様は間違い無く頭のネジが外れているわね。


 私が敵意を隠そうとしない中、尋常で無い雰囲気に戸惑う店員さん達だけれど、私が何か言う前に皆揃って姿が消える。一体何処に行ったのかは分からないけれど、どうして消えたのかは分かる。ソリュロ様が巻き込まれる前に避難させたに決まっているわ。


「君も服を買いに来たのかい? うんうん、女の子だしお洒落は必要だ。そうだ! 折角だから私に任せてみないかい? コーディネートには自身が有ってね。……今は敵対する気も力も無いんだ。そう睨まないでくれ」


「ふざけないで!」


 どう考えても私を馬鹿にしているとしか思えないフレドリーな態度に今までの怒りさえ再燃し、私はこの場で戦いを始めようとさえするけれど、それを制するかの様に私の前にソリュロ様の腕が差し出される。思わず止まった私だけれど、どうして邪魔をするのか分からなかった。


「……まあ、落ち着け。此処で此奴を倒しても意味が無い。本物ですらなく、既に死んでいるから浄化されさえしない。遊ぶ体力の無駄だ。……だろう?」


 怒っている私と違い、ソリュロ様は冷静で、呆れてさえいる表情をリリィに向けている。本物じゃないってのは何となく分かったけれど、死んでいるってどういう事かしら? 私のそんな疑問を表情から察したのか、言い当てられた事が嬉しいかの様な表情のリリィは数度拍手をして、全身を見せつけるみたいに一回転してみせた。


「あはははは! 流石は魔法と神罰の女神ソリュロだね。いや、神ならこの程度見抜けるか。ああ、その通り! 本物の私は賢者から受けた傷が酷くてね。心臓まで達する程の大火傷で片腕が炭化さえしているんだ! でも、退屈でね。出歩ける状態じゃないけれど、買い物には行けない。だから私じゃない私に行かせる事にしたんだ!」


 何を言っているか私には分からない。でも、今まで見て来た物が禄でもない事だと告げている。腹を抱えて笑っている姿さえも不気味で薄気味悪い。思わず後退りしそうになるけれど、それよりも先にリリィの顔面を崩れ落ちた。


「ありゃりゃ、もう終わりかぁ。役に立たないね、下級ってさ」


 顔面の左半分がボロボロと崩れて中身が見えているのに平気な声でリリィは笑い、腹に当てた腕さえも肘からが崩れて地面に落ちるけれど、落下の衝撃で砕けた腕は色白な少女の腕でなくて色黒な大人の男の腕。転がった目玉の色も別だった。これは一体何が起きているの?


「おや? 今まで色々見て来たと思ったけれど、これで驚くだなんてビックリ! あはははは! 驚かせてゴメンよ? なぁに、簡単さ。此処に居る私は、私の好みの物を買って来させる為に、適当なのに人格と見た目を転写したのさ。まあ、ちょっと手荒い方法だったから体が耐えられていないけれど、気にしない気にしない」


「貴女は……何処まで仲間を……」


「仲間? えっと、私は仲間は大切にしているぜ?」


 私の言葉にリリィは本心から疑問と不服って感じで首を傾げる。頭の重さに耐えられなくて首に罅が入り、慌てた様子では無いけれど手で支える。


「あっ! もしかして下級とか中級を私の仲間と思っているのかい!? おいおい、冗談だろう? 人間だって種族や世界の違い、そして身分差……私達だって変わらないのさ」


 魔族と人間は同じ、私も思った事なのに、リリィの口から語られると途端に悍ましい言葉に感じる。見た目は可憐な少女なのに、受け入れ難い化け物にしか見えない。


「……相手をするな、ゲルダ」


「いいえ、それは駄目です」


 そう、ソリュロ様は私をリリィから遠ざけ様としてくれるけれど、逃げる訳には行かない。勇者としてだけでなく、彼女の所行に怒りを覚えたゲルダとして。


「……貴女、一体何が目的なの?」


 私が問い掛ける間もリリィの体は崩壊を続け、両腕を失い、右足が崩れて前のめりに倒れる。倒れた際に胴体が二つに割れて、口の辺り以外は殆ど崩れて、口だけは小さな唇を動かして喋っていた。



「楽しみたいだけさ。だって、君を殺して人間を絶滅しない様に管理していれば神は関与せず魔族は安泰……実に都合の良い絵空事さ。私はそんな楽観論に縋らない。どうあっても魔族は今回も封印される。だから好き放題に生きて! 蹂躙して! 華々しく散っ……」


「五月蝿い」


 崩れながらも言葉を続けるリリィの口はソリュロ様に踏み潰され、残った肉片は床に染み込んだみたいに消え去る。私が不快だったのと同じく、ソリュロ様も不愉快そうな顔をしていた。


「ちっ! あの小娘、荷物だけは転移させて……ん? んんっ? ぷっ、ぷははははは!」


 何を笑っているのかは分からないけれど、多分何か愉快な事が有ったと分かる。だって床には巨大なパンダの顔が描かれていたもの。



 ……自分なら兎も角、敵が被害者だったら愉快ね。







「うへぇ……。全部何かのキグルミになってるや。ビリワック、全部片づけておいて」


「……この何か分からない物のキグルミをですか? いや、命令ならしますが、この触っただけでどうにかなりそうなこれを……」

そろそろ何か反応が欲しい  モチベーションが上がるのですよ


ちょびっと、軽くで良いので  落ち込んだ時は誉められたい



アンノウンのコメント  これが気付かれずキグルミにするシークレットパンダビームさ

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