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初陣

「いやー、ゲルダさんが了承して下さって助かりました。お陰でシルヴィアと同じ部屋に泊まれますよ。流石にゲルダさんを一人部屋にするのは憚られますしね。ほら、宿暮らしは慣れていないと大変ですから」


 ゲルダさんが同じ部屋で良いかという問いに何故か照れながらも了承して下さったので私はシルヴィアと同じ部屋に泊まる事が出来ました。住み慣れた屋敷で眺める彼女の姿は魅力的なのですが、違う場所での姿がどの様に魅力的に映るのかが今から楽しみで仕方がありません。


「そ……そうですよね!」


「でも、一人部屋が良いなら何時でも言って下さいね?」


 イーリヤが仲間になるまでは女性二人と旅をしていた身として宿での生活の大変さが身に染みているので子供だけ別の部屋という訳には行きません。私なら用事が有れば魔法で何とかすれば良いだけですからね。しかし、ゲルダさんは何を驚いていたのでしょうか?


 どうも一番良い部屋にはベッドが二つしかないらしくワンランク下の部屋になりましたが此処も中々で、シルヴィアは手で押してベッドの柔らかさを確かめています。


「まあ、これなら文句無いな」


 元々武の女神ですし別に野宿でも平気な彼女ですが、ベッドで眠れるのならそっちの方が良いのは当然です。ゲルダさんは勿論、シルヴィアの為にも出来るだけ宿に泊まりたいですね。


「あの、賢者様。そもそも賢者様の魔法でご馳走や服を出した時みたいに泊まる場所も出せないのですか?」


「出せますよ。出せますけど少し問題が有りまして……」


「問題? 賢者様がですか?」


「言ったでしょう? 神とて全知全能ではないと。人間である私は尚更で、今でも魔法の師匠には未熟者扱いされますよ」


 ゲルダさんの疑問は尤もで、実際に泊まる場所を作り出す程度なら簡単です。でも結構複雑な構築式を要する為か私がイメージする物しか作れず、服のデザインセンスは単調だし料理も同じ味付けだしベッドも私の好みの少し堅い物しか出せないのです。シルヴィアは柔らかい方が好みでして……。


「よし! おい、キリュウ。今夜はどうするのだ? 普通にするか? それとも久々に捕らえられた女騎士プレイでも良いな!」


 あーもー、これだから神は。非常に魅力的ですけどゲルダさんの前ですからね? その時になったら魔法で幻覚でも出せば良いですけど変に意識させるのは問題ですよねぇ。実際、ゲルダさんは真っ赤になっていますし。……通じたんですね。最近の子供は進んでいるのでしょうか。


「女騎士プレイ……」


「いや、流石に今夜は……」


「ん? ああ、確かに問題があるな」


 おや、どうやら納得してくれた様子。私がシルヴィアの影響か人とは感覚がズレて来たのと同じで彼女もまた私の影響を受けています。初めて関係を持った当初は森を散歩中に押し倒されたりしたのですが、今はゲルダさんを意識して諦めてくれました。……ちょっと惜しい気もしますけどね。





「こんなフカフカのベッドでは気分が出ない。イメージプレイをするならば場も適した物にしなければな。……だからまあ、今夜は普通に頼む」


 ……ふぅ。もうゲルダさんはキャパオーバーして目の前で手を振っても反応が有りません。ずっとアワアワ言って固まっていますよ。シルヴィアはシルヴィアで恥ずかしいのか目を逸らしてモジモジしていますし、据え膳食わぬは何とやらですが……。






「あれ? 私、何時の間に……」


 ベッドから起き上がったゲルダさんは頭に手を当てて記憶を呼び覚まそうとしますけど無理な様子。まあ、当然なのですが。


「旅の緊張からでしょう。急にウトウトしたのでシルヴィアがベッドに運びましたけど数分程度ですから安心して下さい」


「あっ……。あの、女神様にとんだご迷惑を……」


「構わん。お前は勇者である前に子供だ。気を使わなくて良いさ」


 優しく微笑むシルヴィアの姿にゲルダさんは安心した様子。これは記憶操作した甲斐がありましたね。気になるお年頃みたいですし、今後も意識させない様にしなければ。




 ……それはそうとして今夜の為にジレークに頼んで城のメイドさんの服を一着用意して貰えば良かったですね。私が作れるのはミニスカでノースリーブのフレンチメイド服ですが長袖ロングスカのヴォクトリアン式も捨てがたい。もっと頑張って魔法の腕を磨けば両方出せるのですけどね。……要努力です。


「さて、今から森に向かいますけど、街の人達を悩ませているモンスターを討伐したら勇者だと大々的に発表しましょう。領主の耳に届く位にね」


「此処の領主様ですか……」


 どうもゲルダさんは領主であるアーファ伯爵に会いたくないらしいですね。まあ、此処に来るまでに話を聞く限りでは良い印象を抱かないでしょう。



 数多の種族が共存するこの世界で人間以外の種族、特に獸人に対して差別的な言動を公の場でも平然と口にすると評判が悪い。それに元々領主になれる立場ではなかったというのも関係しているのでしょう。ですが、会わない訳にはいかないのですよね。



「ゲルダさん。厳しい事を言いますが、勇者として誰かに会うのならば自分の耳と目で判断しなければなりません。思い込みで行動するのは本当に危険ですからね」


「……はい、ごめんなさい」


「宜しい。直ぐに反省出来るのは貴女の美徳です。良い子ですね、本当に」


 少しは反論したり言葉を逃がすかと思いきや、素直に反省したゲルダさんの頭に手を乗せて撫でる。もう癖になっている気がしますね。……ああ、何でこうやってゲルダさんの頭を撫でてしまうのか分かりました。私、妹みたいに可愛がっていた従姉妹が居たのでした。少し活発で食べるのが好きだったあの子はどんな風に成長したのでしょうか?


「……まあ、お祖父さん達がちゃんとした人達でしたし大丈夫でしょう」


「賢者様?」


「おっと、少し故郷を思い出しましてね。では、行きましょうか」


 私はあくまでコピーであり、この世界が私の生きる世界でシルヴィアが私の家族だ。だから寂しいと思う必要は無い。ああ、それでも寂しいと思うのならば……。




「早く子供が欲しいですね。魔法で妊娠しやすくなんて野暮な方法ではなく、二人の愛の結果として生まれて欲しいです」


「なら今夜にでも頑張って……と言いたいが旅が始まったばかりだからな。まあ、数年間は避妊をして終わったら仕込めば良いだけだ」


 でも、お前が望むなら、とシルヴィアは言って下さいますけど、仲間の血を引く子達が生きる世界を守りたいと思います。ですから子供は一旦お預け、旅先の風情を味わいながらシルヴィアの身体を堪能するだけに留めましょう。



「愛していますよ、シルヴィア」


「当然だ。お前を私が、そして私がお前を愛する事はな……だが、何度聞いても幸せで胸が一杯になる。今後も言って欲しい」


「何度でも言いますよ。貴女への愛が続く限り、つまり私という存在が消えない限りは」


 自然と目と目が合い、手と手が触れる。気が付けばシルヴィアの腰に手を回して何度も耳元で愛を囁いていました。ああ、幸せです。私は本当に幸せ者だと思います。





(早速一人部屋にして欲しくなった……)








「この森、少し嫌な臭いがします……」


 から少し離れた場所に存在するサクサンの森。高い木が生い茂り、根っこが所々で地面から飛び出して歩くのが大変そうな道を眺めながら私は鼻を手で塞ぐ。私の苦手な酸っぱい臭いが漂っているわね。よく見れば柑橘類の木が点在しているわ。……嫌だわぁ。


「魔法で臭いを抑えますか? 特定の臭いだけ抑えるのは難しいので嗅覚自体が落ちますが。補聴器が都合良く聞きたい音だけ拾えないのと同じですよ」


「補聴器は分かりませんが遠慮しておきます。嗅覚が働かないと不安になりますから」


 賢者様は気を使ってくれるけど、こんな事までお世話になってたら良くないわ。だって頼り切りになちゃうもの。今は未熟な私でも良いけど、何時までも未熟な私じゃ自分で自分を許せないわ。だから首を横に振って先に進む。それに嗅覚は私の武器、もっと鍛えたいわね。ちょっと道は荒れているけど、村の近くの森で薬草を集めるのを手伝っていたから慣れたものよ。


「……あれ?」


 奥を目指して歩きながら臭いに意識を傾ける。嫌いな柑橘類の他にも土や木、草の香りが漂って来るのだけれど、森の奥から此方に向かって嗅ぎ慣れた臭いに似ているけど変な感じのする臭いが向かって来たの。思わず立ち止まって賢者様達に視線を向けたら既に立ち止まって頷いているし、そういう事よね……。



「頑張るわ!」


 これは私の勇者を正式に継承してから初めての戦い。息を整えデュアルセイバーを構えた時、賢者様から声が掛かった。


「ゲルダさん、継承の儀を受けた事でデュアルセイバーは新たな力を手に入れました。両方の持ち手を上下に引っ張って下さい!」


「……こう? あっ!」


 言われた通りにしてみたら連結部分が消えて鋏が二つに分かれたわ。うん、この状態だとギリギリ武器って言い張れそう。よく見たら鋏でしかないのだけれど……。


 自分の勇者としての武器がどう見ても武器じゃないって思い出して落ち込みそうだけど、服装だって自分らしいからって魔法で強化したツナギ姿にして貰ったのだし今更……うん、そうよね。これ以上気にしない様にしようと前を向けば木の上からガサガサと葉っぱを掻き分ける音がして木の葉の隙間から臭いの主が姿を見せたのだけど……。



「羊?」


「メェー」


 湾曲した角とモコモコの体毛を持つ見慣れた獣の姿と声に思わず気が抜けたのだけど、羊が木の上から現れた時点で普通じゃないわよね。私が困惑する中、羊が飛びかかって来た事で実は羊じゃなかったって理解する。だって蹄のある四本の足の代わりに胴体から蜘蛛の長細い脚が生えていたのだもの。



『『羊蜘蛛(ひつじぐも)』羊に酷似した見た目だが毛は粘着質の糸を全身に絡めた物。麻痺毒の有る角で動きを封じた獲物にくっつけて巣まで持ち帰る』


 モンスターだとは思ってたけど、羊部分が可愛いから余計に気持ちが悪く見えるわね。突き出された角を左手の刃で防ぎ、頭に向かって右手の刃を叩き付けたらグチャグチャに潰れる。……羊なのは見た目だけで頭蓋骨が無かったのね。


 顔に掛かった体液をハンカチで拭い、頭の潰れた羊の見た目の蜘蛛の死骸から目を逸らす。私の勇者としての初陣はちょっと嫌な思い出になっちゃった。服を見れば飛び散った体液が吸い込まれるみたいに消えてるし、頼り切りになりたくないけど顔への返り血を弾く力を追加して貰いたいなぁ……。



 肌に付いた蜘蛛の体液を嗅いだら凄く嫌な臭いがしたし、今すぐお風呂に入って良い匂いの石鹸で念入りに洗いたいって思った時だった。真後ろから獣の臭いがしたのは。でも、臭いはそれだけじゃなくって美味しそうな甘い香りも混じっていたわ。


「これって……お菓子?」


 恐る恐る振り返れば息が掛かる距離に獣の姿があった。赤黒くって背中側とお腹側じゃ全然違う毛質で猫っぽい顔付き。目は青く輝いていて何を考えているのか分からないのだけれど、頭の上の小さなパンダのヌイグルミは可愛いと思う。


「えっと、アンノウン? 街でお留守番してたんじゃ……」


「ガウ!」


 臭いがした瞬間まで絶対に近くにいなかったわよね? どうやって馬小屋を抜け出して来たのかしらとアンノウンを観察したのだけれど、向こうも私を頭の先から爪先まで眺めているのに気が付いたわ。最後に胸の辺りで視線が止まったのも。


「……ヘッ」


「は……鼻で笑ったなー!!」


 この瞬間、乙女心が傷付けられたと怒った私は腕を振り回して殴りかかるのだけれども、顔に前足を突き出されて止められる。肉球はプニプニのモキュモキュで気持ち良かったわ。


 でも、癒されたのど乙女の敵への制裁は別だもの。頑張って前に進もうとするけれど前足に止められて一歩も前に踏み出せない。何でか分からないけれどアンノウンの瞳が私を馬鹿にしているのだけは分かったの。



「……おい、アンノウン。どうして此処に居る? それに菓子の香りがしたらしいが私が森で休憩中に食べようと用意していたのに無くなっていた菓子と関係有るのか?」


「ガ…ガウゥ……」


「チョコタルトとクリームパイの香りよ、女神様」


「ガウ!?」


「無くなった菓子と同じだな、アンノウン。さて、転移やら何やら芸が増えたのは誉めてやりたいが……躾の時間だ」


 助けを求める瞳で見たけれど助けてなんてあーげない。女神様はそのままアンノウンを連れて向こうに行ったけど悲鳴なんて聞こえないわ。私関係ないもの。


「シルヴィア、ほどほどにしてあげて下さいねー。さて、また芸が増えたのだから後でご褒美をあげませんと」


 大声でフォローしてるけど助けには行かないのね、賢者様。まあ、良いのだけど。人の家のペットの躾に関する事だもの。


 所で賢者様ってペットを甘やかす少し駄目な飼い主っぽい……。


「……あら?」


 さっき連れて行かれる時に落としたのか頭に乗っていたパンダの小さなヌイグルミが私の足元に落ちてたのだけど、拾おうとしたら動き出して何かを書いた紙を渡して来たわ。えっと、何かしら……。










キリュウ(マスター)は抱き合ってゆっくりが好きだけど、シルヴィア(ボス)は上に乗って激しく動くのが好きだよ。意味が分かった君はドスケベさん』


「……」


 私は書いた紙をグチャグチャにして読めない様に細かく破った。うん、意味不明な事が書かれていて理解不能ね。全然分からないわ。



「賢者様、女神様を待つ間に簡単な火の魔法を教えてくれませんか?」


「別に良いですが……顔が真っ赤ですよ?」


 ……私はドスケベなんかじゃないわ。本当に失礼なんだから。






「では、この杖を手にして、杖の先が一気に熱くなるイメージで魔力を流し込んで下さい」


「えっと、こうですか?」


 魔力の扱いはモンスターの情報を解析する魔法を習った時に少しだけ覚えたし、デュアルセイバーは能力を込める為の容量が足りないから杖を借りたのだけど、先端がハートになってるピンクの可愛い杖。魔法少女風? って賢者様は言ってたけど……。


「え、えい!」


 イメージするのは一気に燃え上がる杖先。油を染み込ませてた布に火を付ける感じで魔力を流せば成功、私って魔法の才能が有るのかも! 一回目で杖の先が明るくなって、たちまち大きくなっていく。あれ? これってどうやって抑え込んだら良いの!?


「あわわわわあわっ!?」


「これは拙い! 私がどうにかするので押し出すイメージで放って下さい、爆発します!」


 杖の先が煌々と輝いて一メートル位の火球が出たんだけど凄く熱い! って言うか爆発するの!? 慌てて火球を前に飛ばしたら木と木の隙間を通り抜けて遠くで何かにぶつかったのか爆発する。火柱が上がって何匹ものモンスターが宙を舞っていたわ。



「ピヨー!?」


「あっ、豆ヒヨコ」


 勇者継承の儀で苦戦した豆ヒヨコが何匹も空を舞い、少し焦げた匂いを漂わせながら目の前に落ちて来た。お尻の蔦は千切れているし、炒り豆みたいな芳ばしい香りがしたわ。



「えっと、結果オーライ……かな?」


「取り敢えず基礎のコントロールを身に付けるまで攻撃魔法はお預けですね。……それとお目当ての登場みたいです」


 賢者様は燃え広がりそうな炎に向かって雨を降らしながら私を庇うみたいにして前に出てくる。すると地響きがして地面が割れ、叫び声と共に巨大なモンスターが飛び出して来たの。その姿は予想通りで……。





「コケコッコー!!」


 そう、小さな山位の巨大な鶏だったわ。豆ヒヨコと繋がっていたらしい蔦の先がないから私が倒したのがそうなのね。全身を震わせて土を落とし、威嚇するみたいに真っ赤な鶏冠がある頭を激しく動かして木の幹みたいな足を動かしてる。でも、一言言わせて欲しいわ。




「ヒヨコを産むけど鶏冠があるって事は雄なのね。えっと、雌雄同体って奴かしら?」


「まあ、あくまで鳥っぽい植物ですから」





 


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― 新着の感想 ―
[良い点]  神様がかなりのエッチなので笑いました。女騎士プレイって。。。ゲルダが、どんどん耳年増になって行くじゃないですか。他にも同性愛が普通の街の起源が神様たちとは、面白すぎて笑いました。また見に…
[一言] いちいち出てくるモンスターがオリジナリティに溢れてて、吹き出しますね。
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