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異世界だろうと、ここをキャンプ地とする!  作者: 木村色吹 @yolu


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15/21

15話:初日の出

 至の手を取り立ち上がらせたガンディアは、至の車まで行くと、いきなり窓を叩き始めた。


「スルニス、起きろぉ…時間だぞっ! 起きろっ!」


 どこぞの酔っ払いの如く、激しい絡み方だ。

 後ろに回り、ファスナーを開けて再び叫んだとき、ガンディがくの字に吹っ飛んだ。

 言葉の通り、魔貫光殺砲を食らったかの如く、鳩尾から綺麗に両腕両足を前へと伸ばし、後方へと飛び去った。

 アクション映画ばりに幹に全身を打ちつけると、ずるりと地面へ落ちていく。

 あまりのことに声すら出せない。

 一体何が起こったのだ? と、恐る恐る車中を至が覗くと、半身を起き上がらせたスルニスが右腕を突き出し、力なく地面に落ちているガンディアを憎しみを込めて睨んでいる。


 ぎらりと光る目と合った。


 ───()られる!!!!


 さらに体を強張らせたとき、スルニスの目が大きく開いた。


「あ、……い、イタル様……」


 言いながら顔を覆い、恥ずかしがるスルニスだが、どこに突っ込めばいいのだろう。

 寝起きを見られたことに恥じているのか、この惨事を恥じているのか、何をどう思っているのだろう。


 無表情の至の背後から、ずるりと動く影がある。

 思わず横へと飛び退いたが、そこには弱りながらも匍匐前進で進むガンディアの姿があった。

 片手には回復薬を持ち、それをちびちび飲みながら進んでいる。

 なんとか車までたどり着くと、ひょっこりと顔をだし、スルニスの寝袋姿を見て、奇声をあげた。


「なんだこれは! スルニス、蓑虫のようだな! いや、芋虫か! 芋虫だな!!」


「……うるさい」


 悪魔の唸り声だ。

 ガンディアは大人しく顔を引っ込めたが、スルニスが起き寝袋から出たのをいいことに、彼もその中に入ろうと腕を伸ばす。


「厨二、靴脱げよ」


 至の声のとおりに靴を脱ぎ、中に入るが、


「……ヒューマン、これは子供用か……?」


 肩から上が出ている状況だ。

 彼の予想では、スルニスと同じく蓑虫または芋虫になれるはずだったのに、これでは羽化の途中のようだ。

 面白みがない。

 無表情のまま固まるガンディアに、至はため息交じりに言った。


「大人用だ。お前がでかすぎんだよ」


「そうか。もう少し大きいのを今度持ってきてくれ」


 真顔で言うガンディアに返事をせぬまま、至は寝袋から引きずり出すと、


「朝日見に行くんだろ?」


「はっ! そうだった」


 傷が癒えたガンディアは目をこするスルニスも連れ、歩き出した。

 夜が明けていない森は、静かで暗い。

 青い色が辺りに立ち込め、光が差し込み始めたところから白く滲むが、まだまだ朝には程遠い印象だ。

 時折聞こえる野鳥の声に至は肩を震わせる。


「イタル様、ここの鳥は人は食べませんから、ご安心を」


「じゃ、人を食うやつもいるの……?」


「ウルフがそうだが、ここにはいない」


 ガンディアが鼻歌交じりに先導して行く。

 ぬかるんだ土の感触、朝露の香り、鳥のおしゃべり、淀んだ夜の空気、それらに至は触れながら足を進める。

 こんなに新鮮な空気は久しぶりな気がするし、なにより初めてかもしれない。

 これほど朝を迎える森のなかはたくさんの香りがするのだと、至は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。


 すぐに森を抜け、広がったのは草原だ。

 くるぶし程度の草が茂り、見渡す限り、空とその地面しかない。

 そこは、切り出された崖であり、見下ろすと山並みが見える。


「こんなに高いところに来たのか? 全然そんな感じしなかったが」


「元の場所が高いんだ。ここは絶景の朝日が見える。

 父と私のお気に入りだ」


 そう言って再び至の手を取り、歩き出した。

 連れて行かれた先には、大きな岩がある。ガンディアに助けられながら岩のてっぺんまで登ると、そこは真っ平らな空間だった。

 その上に3人並んで腰を下ろす。

 ひんやりとした岩の感触がお尻から伝わり、まだここが夜なのだと伝えている気がした。

 あたりを見渡すとその場所は一段と高く、まるで空に浮いているかのような感覚がする。

 眼下に広がる山並みは、まだ眠っているのか白いベールがかかり、奥までは見渡せない。

 次第に明るさが広がるなか、空の切れ間から明かりが漏れ始めた。


 白だと思っていた朝日だが、赤い。

 これは至の世界と同じ色だ。

 差し込まれた赤は地面を這いながら彼らの元へと伸びてくる。

 ゆっくりと手を伸ばすように陽が高くなるごとに伸びる赤は、色が薄まることはなく、むしろ濃くなっている。

 火の結晶よりも濃い赤は、ペンキのように不透明な色である。

 だが、のっぺりとした赤は地面に溶けて、それは言い表しがたい美しさがある。

 赤い蝋細工のように森や草、岩、山々がかたどられていく。


 雲海をたどるように細く太く伸ばされる赤は、3人の元へとゆったりと漂いながら届いた。

 至の体も真っ赤に染まっている。

 呼吸ができなくなりそうな赤だ。手も顔も赤い。

 日差しの柔らかさがじんわりと肌に届き、薄い膜でも体に張り付いている気がする。


「おお! 厨二も真っ赤だなっ!」


 至は2人を見やり、笑いながら言うが、そこには真っ赤な美しい蝋人形が座っているように見える。

 きっと2人にも至の姿が美しくない蝋人形に見えているはずだ。


「どうだヒューマン、美しいだろ?」


「ああ、こっちの世界じゃありえない朝日だ」


「イタル様と一緒に見れて、わたくし、幸せです」


 そっと至の肩にスルニスが頬を寄せた。至はそれに薄く微笑みながら、感動のため息をつく。

 圧倒的な美しさだ。


「昔聞いたことがある。

 そちらの世界では初めての朝日を『初日の出』と言うんだろ?

 ヒューマン、お前にとってはこれは初日の出だろ。

 願掛けをしたらどうだ?」


 至は幻想的な朝日を浴びながら、確かに初日の出だと口の中で呟いた。


「……では、行きます」


 至は大きく息を吸い、朝日に叫んだ。


「ガンディアとスルニスと、またキャンプできますよぉーにっ!!!!!!」


 綺麗な姿勢で直立し、手を合わせると、一礼する。

 なぜかガンディアとスルニスも立ち上がり、至と同じようにお辞儀をした。


「いつでもご一緒いたします、イタル様」


「私も待っているぞ、ヒューマン。

 ちなみに私のことは、チュウニと呼んでくれ」


「……よっぽど気に入ってんだな」


 赤い陽はゆるやかに色を白へと変化させ、辺りを目覚めさせていく。

 波のように白く染まった木々の間から、鳥のさえずり、風のざわめきが湧き上がっていく。


「さ、朝が来たぞ。朝食にするぞっ」


 ガンディアが再び歩き出した先は、せせらぎが聞こえる場所だった。

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