表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/105

真・新宿ダンジョン攻略配信4

 砂煙が散り、視界が晴れた先にはクレーターが形成されている。

 そこにはさっきまでいたはずの二体の幼体は見る影もない。



<レベルが上昇しました>

<新しいスキルを獲得しました>



〔ファ――――――――wwwwww〕

〔やばすぎwwww〕

〔だからなんでこのモンスターを一撃で倒せるんだよ!〕

〔二体まとめて一撃は草も生えんぞ……〕

〔やっぱ雪姫ちゃんと言えばこれだよなあ!〕

〔遅延ダンゴムシをまとめてワンパンとか気持ち良すぎだろww〕


「本当に一発で倒してどうするのよユキヒメ! 私の見せ場がないじゃない!」


「ええっ!? だって景気よくやっていいって!」


「私ユキヒメが打ち漏らした幼体を鮮やかにぶっ飛ばすつもりだったのに! 見なさいよこの私の強化した拳を!」


「拳を強化してどうするんですか!? 倒し損ねた場合は私の身を守ってくれる予定だったでしょう!」


 なぜかガーベラから食ってかかられる俺。どうやらガーベラは見せ場を虎視眈々と狙っていたらしい。<薄氷のドレス>発動中の俺は耐久が1しかないんだから、ガーベラには離れられたら困るというのに。


〔【アイシクル】じゃなくて【アイスショット】を使ったってことは、最初から二体まとめて叩き潰すつもりだったからか……〕


「そうですね。【アイシクル】は強力ですが、先端がとがっているぶん二体をまとめて倒すのには向かないので」


 コメントを返しつつ周囲を確認。ガーディアンボスではないからか、幼体たちがいた場所にはドロップアイテムはない。今の段階では拾いに行くのも難しいので、逆にありがたいかもしれない。


「ユキヒメ、前を見なさい。いよいよ本番みたいよ」


「……ですね」


『――――……』


 奥に鎮座する巨大な黒い球体がうごめく。上部が割れ、そこから無数の歩脚が見える。


 仰向けにわずかに開いたそれは勢いをつけて前に転がると、丸めていた体を伸ばした。

 ズンッ……と音を立て、女王――ハードホイールバグクイーンが歩脚で地面を踏みしめる。

 目がどこにあるかはわからないが、明らかに敵意がこっちに向いているのがわかる。


『――――――――――ッッ!!』


 丸まってから高速回転し、女王が大迫力の転がり攻撃を仕掛けてくる。


 本当のガーディアンボス戦が始まった。


 ……とはいえ、戦い方は基本的にこれまでと変わらない。転がり攻撃を避け、隙を見て“攻撃無効化”を剥がしつつ攻撃を加えていく。


 キーボスや幼体と異なり、女王は転がり攻撃を壁にぶつけて止めると、その場で勢いよく体を広げて押しつぶそうとしてくる。

 前衛クラスには厄介な戦法だろうが、後衛クラスのコンビである俺とガーベラには大きな問題じゃない。


 元々の生命力がかなり高いことや、女王は種族が単なるハードホイールバグとは別扱いらしく【加虐趣味】の対象にはならないこともあり、一撃で倒すのはさすがに無理だろうが……根気よく戦っていけば勝てるはずだ。


「聖神ラスティアよ、我に力を貸し与えたまえ。彼の者に風のごとき速さを【ラピッドリィ】」


「ありがとうございます、ガーベラ」


「……ええ」


 ガーベラから敏捷強化の付与魔術をかけてもらい、女王の転がり攻撃を避けては反撃を仕掛けていく。


「……」


 ……ところでガーベラがさっきから何か考え込むような表情をしているのが気になる。  

 大丈夫だよな?

 何か変なことを考えたりしてないよな?


〔うおお、こええ……〕

〔でかいぶん女王の転がり攻撃は避けにくいし、威力も高いから見ててスリルあるな……〕

〔でも正直雪姫ちゃんが負ける未来見えないわww〕

〔せやなww〕

〔何ならユニーク装備なしでもよかったか?〕

〔それは舐めプすぎるだろww〕


 安定した戦局にコメント欄にも心なしか余裕が生まれ始める。

 数分ほど戦ったところで――


「うん、やっぱり使っても大丈夫そうね!」


 ガーベラがそんなことを言い出した。


「ガーベラ? 一体何の話ですか?」


「ユキヒメ、ちょっと待ってて!」


「あ、ちょっと!」


 ガーベラが俺の元から離れてハードホイールバグクイーンのもとに向かっていく。


 女王は障壁にぶつかってのしかかりの動きも終えた後で、隙を見せている。ああっ、せっかくの攻撃のチャンスなのに!


『……?』


「いくら相手が最強天才妖精のあたしと火力馬鹿のユキヒメだからって、あんたは不甲斐なさすぎるわ! この粉を使って多少は歯ごたえのある敵になりなさい!」


 ……粉?


 ガーベラはレッグホルスター式マジックポーチに手を突っ込むと、妖精基準では巨大な瓶(テーブルコショウくらいのサイズ感に見える)を取り出した。

 遠目だが、中には不自然なほどキラキラと光る何かが入っているのが見える。


 い、嫌な予感がする! なんだかもすのごく嫌な予感が!


「うりゃああああ!」


 ドバァ!


『……? ……ッッ、……ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


 ガーベラが瓶の中身をぶちまけた結果、女王の体に変化が起こる。


 全身にガラス質の鱗がびっしりと生え鎧のように。

 これまで鳴き声もなかったのに耳障りな不協和音で吠え声を上げ、何より大きな変わった点が――


〔!?!?!?〕

〔え? 何が起こってる? 何が起こってる!?〕

〔なんか……女王光ってね?〕

〔結晶みたいな鱗で反射してるのかあれ? 妙に色とりどりに……〕

〔何したんだガーベラちゃん吐け! これ絶対フェアリーガーデン関連だろ!!〕

〔ゲ ー ミ ン グ ダ ン ゴ ム シ〕


 そう、女王の体が虹のように鮮やかに輝き始めたのだ。


 発光する箇所は毎秒移り変わっているようで、同じ部分でも赤に、青に、緑にと目まぐるしく変色している。見続けていると脳が誤作動を起こしそうだ。


「ただいまユキヒメ! いやー、うまくいったわね!」


「ただいまじゃないですよ! ガーベラ、あなた何をしたんですか!?」


「え? 妖精の鱗粉を使って守護者を強くしただけよ」


「……はい?」


「ほら、人間って許しがたいことに自分を強くするために妖精を狩るでしょ? あれって妖精が高密度の魔力の塊だからなのよ」


 説明しながら自分の羽を指で示すガーベラ。


「で、私たちの中で一番魔力が濃く溜まるのが羽。それが結晶化した鱗粉は、人間には毒になるけど、魔物に与えれば強化させられるのよね。その魔物を倒せば、普段よりたくさんの経験値が手に入るってわけ!」


「ええと」


「わかりにくいかしら? まああれよ。人間的に言えばハイリスクハイリターン? 妖精の秘密道具を使って魔物を強くして、倒した時の報酬を上げるみたいな」


 助けてくださいリーテルシア様。こんな修羅場でいきなり秘密道具とか出されても脳の処理が追いつきません。


リーテルシア〔ガーベラの言っていることは事実です。妖精の鱗粉は魔物を強化しますが、倒した時にはより大きく成長できるようになります〕


 噂をすれば、リーテルシア様がコメント欄に現れる。


リーテルシア〔もともと鱗粉は人間との友好の証として、妖精とユキヒメに危害を加えない条件で人間に提供しようと考えていました。効果の証明のため、多くの人間が見るこの配信で使うようガーベラには言っていたのです〕


 どうやらガーベラが女王に振りかけた妖精の鱗粉は、リーテルシア様がガーベラに持たせたもののようだ。


リーテルシア〔しかしまさかユキヒメに説明せず、よりによってこのタイミングで使うとは……帰還次第、ガーベラには厳しく言っておきます〕


「ち、違うのよお母様! これは配信を盛り上げようとしたわけじゃなくて、ユキヒメを強くするために最適なタイミングを見計らっていただけで! ここまで全然見せ場がなかった腹いせとかそんなことでもなくて! ユキヒメ、あなたならわかってくれるわよね!?」


「事情はわかりましたリーテルシア様。戦いが終わったらガーベラを捕まえて速やかにお返しします」


「ユキヒメ!?」


 演出のために説明を省き、一番リスクの大きいタイミングで使用。これはリーテルシア様にきっちり説教してもらう必要があるだろう。


 というか本当に先に言えよ! この展開を知ってたら<薄氷のドレス>の能力使わなかったのに! どうして被弾=即死の状況で想定にない強敵と戦わなきゃいけないんだよ!


『ギシャアアアアアアア!』


「話は後よ、ユキヒメ! 今は守護者を倒さないと!」


「あなたにそれを言われるとすごく腑に落ちないんですが!?」


 七色に輝くガーディアンボスとの戦闘が始まる。





 同時刻。

 一台の車が白川家の前に停まった。


 黒いミニバンだ。七、八人乗りのその車は窓のすべてがスモーク加工されていて、中の様子はわからない。


「あんまり時間をかけすぎんなよ。トチったら若頭にどやされるくらいじゃすまねえぞ」


 運転席に座る男が後部座席の二人に声をかける。


「言われなくてもわかってる」


「お前こそすぐに出られるように準備しとけよ」


 返事をした二人は明らかに異様ないで立ちだった。全身黒づくめの服に、目出し帽。片方の手にはバールと静音効果のある違法マジックアイテムを、もう片方はガムテープを持っている。


「ガキ一人さらえばいいだけだろ。簡単な仕事だ」


 目出し帽の男の片方がスマホを取り出し、標的の画像を確認する。


 そこには高校生くらいの線の細い少女――白川月音が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 白竜の牙、いつ犯罪を犯すのか 信用? するわけない
[一言] ガーベラはどうせ何言われても直らないよw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ