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「……聞いてますか俺の話」


 完全に聞いていなかった。元気に現実逃避をしていたセレスである。シークはジトリと睨み付けており、それだけなら恐怖で身が竦む所だ。

 悲しいかな、話の中身があまりにも残念すぎるので恐怖心を抱くことは一切起きないが。


「あのですね聖女サマ」

「はい」

「いつまで経っても俺の事を名前で呼ばない聖女サマ」

「はい……」

「それと同じく、俺に貴女を名前で呼ばせてくれない聖女サマ」

「……はぁい」

「いいですよ、それはいいです。俺の名前を呼ぶのも、貴女が俺に名前で呼ばれるのも、とにかく恥ずかしくてたまらないからっていう、俺の理性と忍耐を試してるとしか思えないくらい可愛らしい理由なので、まあ耐えますよ俺は」


 ぐ、とセレスは唇を噛み締める。そうでなければ恥ずかしすぎて叫びそうだからだ。


「そのせいで俺が、貴女を今でも聖女サマとしか呼んでいないとか、俺が、貴女に俺の名前を呼ばせないんだとかそんな噂が社交界に流れたりもしていますが、それも構わないです」

「いやそこは構いましょうよ! あの、そのことについてはわたしもちゃんと説明はしています!」


 ただただ、恥ずかしい――本当に、そんなくだらなさすぎる理由でセレスはいまだにシークを名前で呼ぶ事ができずに「あなた」と呼んでいる。そしてシークに自分の名前を呼ばれるのも恥ずかしくて、これまでと同じ様に「聖女サマ」と呼んでもらうようにしている。


 どちらも悪いのはセレスだ。これに関してシークが悪く言われるのはセレスの本意では無いので、お茶会や夜会の場などでセレスはそういった誤解を解くのに必死だ。結果的に自分の恥ずかしすぎる感情を暴露しているわけだが、シークが勘違いされたままでいるよりはマシであるし、いくら聖女とはいえ元は平民、孤児であるセレスにいくらかの負の感情を抱いていた相手も途端に態度を軟化させてくれる。微笑ましい物を見るように、いや実際微笑ましいのだろうが、ここぞとばかりにセレスの話を聞いてくれるし、なんなら自分達のこれまでの恋愛話をしてくれる。思わぬ所から、セレスは貴族の令嬢や夫人らと交流を深める事に成功しているのだ。


「貴女が悪く言われるくらいなら、俺の悪評が勝手に広がる方がマシですよ」

「だから……! わたしに甘すぎなんですってば!!」

「貴女を甘やかしたくてたまらないのでそこはもう諦めてください。ドロドロに甘やかして俺に依存させて、俺がいないと生きられない様にしたいですよね」

「真顔で落ち着いた声で空恐ろしいこと言わないでもらえますか?」

「半分は冗談です」

「え、ってことは残り半分は本気なんです? 半分も、本気があるんですか!?」

「そんなわけで俺は基本的に貴女が何をしようと、貴女に何をされようと構わないんですが」

「話流した!」

「とはいえ、俺の目の前で、俺以外の男の名前を笑顔で呼んだり呼ばれたり、あげく愛称で呼んだりしてるのを見ると流石に我慢ならないんですよ!!」

「うああああああ……ご、ごめんな、さい」


 色々と言いたい事はセレスにもある。シークの繋がりで声を掛けてくる貴族の男性相手に礼を欠くわけにはいかないし、それは彼と同じ騎士団に所属している騎士達にも同じ事だ。笑顔で話をしているのはそういう人として最低限に礼儀であるし、名前を呼ぶのも、呼ばれるのも同じ理由。それに、シーク以外の人物から名前を呼ばれようと、特にセレスは感じる物が無い。彼だけなのだ、名前を呼ぶ、呼ばれるだけでこんなにもセレスをおかしくさせるのは。


 などと言い訳はいくらでもできるが、どうしたって悪いのはセレスである。素直に謝るほか道は無く、セレスは心の底から謝罪を口にする。いっそこれは彼の前で膝を着き、神に懺悔するのと同じ様にした方がいいのかもしれないと、そんな事まで考えてしまう。


「最初に言いましたけど、これは俺の心が狭いだけの話なので貴女は悪くないんです」


 シークは口元を手で覆い隠し、俯き加減でそう呟く。最近になってようやく気が付いたが、これは彼が照れた時の癖だ。


「え?」


 セレスの口からポロリと疑問の声が漏れる。ずっとセレスが悪いわけでは無いと言っているが、では何故こんな話をするのか。そして、何故に急に照れ出すのか。そんな二種類の疑問が混ざったセレスの声に、シークは完全に俯いてしまった。


「……くだらない……ただの嫉妬です、すみません……」


 嫉妬、とは? とセレスは一瞬考えるが、その意味を理解した途端ボフンと音が出るのではないかと言うほどに全身を真っ赤に染めて固まる。

 名前を呼んでもらえない、呼ばせてもらえない、という子供の喧嘩だとしても幼稚すぎる理由で、常日頃余裕綽々の態度を崩さないシークが嫉妬して、あげくそれが恥ずかしくて動揺している。ひあ、とセレスは溜まらず悲鳴を漏らした。


 恥ずかしい、けれど嬉しい……でもやっぱり恥ずかしすぎて死にそう――


 嫉妬だなんて人間の感情の中でも醜悪な部類であるだろうに、まさかそれを嬉しいと思う日が来ようとは。あと、自分より体格も社会的立場も立派な男性相手に、可愛いという感情を抱くとは夢にも思わず。

 貴女が可愛すぎてたまらないんです、とはシークが頻繁にセレスに向ける言葉であるが、なるほどこれが、とセレスは初めてシークの可愛らしさにやられてしまい、ズルズルとソファに倒れ伏した。






本編で常に余裕面貫いていたので、あれは必死に対面取り繕っていたのと、今はきちんと関係が築けたのでダダ漏れしっぱなしという騎士様と、それにファー!!!!!!と振り回されつつもやっぱり振り回している聖女サマという二人でした。



ブクマや評価ほんとうにありがとうございます!!引き続き応援していただけるよう頑張りますー!


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