少し、寂しいんです
俺は年がらにもなく、ウキウキ気分で家路につく。降って湧いた長期休暇、これでしばらくアミィと一日中一緒にいられるぞ。
どうせなら、いつもはできないようなことをしたいよな。俺は休みを使って何をしようか考えながら、夕暮れ時の街中を歩く。
多分、今の俺は傍目から見たらちょっと変な人に見えるんだろうな。それでもいいんだ、俺のなかの優先順位はアミィが一番、それ以外は全て後回しだ。
…………
「ただいま! アミィ!」
「お帰りなさいませ、ご主人様……?」
俺を迎えてくれたアミィは、何だか少し驚いているみたいだ。アミィ俺の方を見つめて、呆けたような表情で固まっている。
「どうしたんだ? アミィ。俺の顔に何かついてるか?」
「いえ、ご主人様、何だかとても嬉しそうなお顔をしていたので、何かよいことでもあったのかなと思いまして」
やっぱり、顔に出ていたか。しょうがない、嬉しいものは嬉しいんだ。俺はアミィの肩に手を置きながら、しばらく休みがとれたことを伝えた。
「喜べ、アミィ! 色々あって会社から長期の休みがもらえたんだ! これでしばらく一日中一緒にいられるぞ!」
「そ、そうなのですね……」
俺の言葉を聞いたアミィの表情は、思っていたより嬉しそうじゃなかった。おかしいな、俺はアミィも大手を振って喜んでくれると思っていたのに。
「どうした、アミィ。俺と一緒にいられるのは嬉しくないか?」
俺の顔を見たアミィは、手をブンブンと目の前で振りながら慌てて返事をする。
「いえ! そんなことないですよ、ご主人様! 私、ご主人様と一緒にいられるの、すごく嬉しいですよ! ただ……」
「ただ?」
アミィは少しうつむいて、指をいじりながらポツリとつぶやく。
「私、少し、寂しいんです。だって、お休みってことは、私はお弁当を作らなくてもよいということですよね? 私、毎日ご主人様の喜ぶ顔を想像しながらお弁当を作るのがとても楽しくって。ご主人様、私の下手くそなお弁当を毎日、キレイに食べてくださるので、それで……」
「アミィ……」
俺はアミィのあまりのいじらしさに、少し泣いてしまいそうになった。とてもいとおしい、やっぱり俺はアミィが誰よりも大好きだ。
「アミィ、そんな顔しないでくれ。大丈夫、俺はアミィのためなら何だってしてあげるから。世の中にはまだまだ楽しいことはたくさんあるさ。だから、アミィと俺で、今しかできないことをしよう。な? アミィ」
俺の言葉で、アミィの表情にいつもの笑顔が戻る。うん、やっぱり、アミィには笑顔が一番似合う。
「そうですよね! 私、ご主人様と一緒に楽しく思い出を作りたいです! お気遣いありがとうございます! ご主人様!」
「そうだ! その意気だ、アミィ! それじゃあ、アミィは何がしたい?」
「私は、ご主人様と一緒なら何でも嬉しいのですが……申し訳ありませんが、ご主人様が決めてくれませんか?」
そうだな、いざ具体的に何をしようか考えると難しいもんだ。
部屋でダラダラ過ごすのはちょっと避けたいし、何より代わり映えがない。
そうなると、アミィと一緒にどこかに出掛けるのがいいんだけど。
どこがいいかな、どうせなら時間を使って遠出をしたいもんだ。
俺が考えを巡らせていると、俺の頭のなかにふと誰かの言葉が浮かぶ。確か、つい最近のことだ、というか、それは今日の話だ。
『お前もたまにはぁ、温泉にでも行ってぇ、骨を休めるのもいいんじゃあないかぁ?』
そうだ! 課長だ! 課長が何か言っていた! 俺の頭のなかに電流が走った。これだ! これしかない!
「そうだ! アミィ! 一緒に温泉に行こう! さすがにアミィは温泉に行ったことは無いよな?」
「は、はい、ありません。温泉って、おっきいお風呂のことですよね?」
「あぁ! 温泉だけじゃなくて、美味しい料理も食べられるし、キレイな景色だって見られるぞ!」
今の時期ならちょうど紅葉がキレイだろうから、おあつらえ向きだ。しかも、旅行の日程は平日。恐らく旅館だって一杯ってことはないだろう。
「そうだ! 温泉に行く電車中で、アミィの作った弁当を食べればいいじゃないか! これならアミィだって文句なしだ!」
「そうですね! 温泉、私も行ってみたいです! 私、張り切ってお弁当作りますよ!」
よし! 決まりだ! まさか課長に助けられるとは。これは、会社のみんなへのお土産を弾まないといけないな。
「さて、それじゃあ早速、旅館の予約をしないとな!」
俺はイソイソとパソコンを立ち上げ、旅行会社のサイトを表示させる。やっぱり、行ける範囲の温泉街の旅館は空いているみたいだ。
どうせなら、ちょっと無理していい旅館に泊まりたいもんだ。俺とアミィは、サイトを見ながら泊まり先の旅館を選ぶ。
「アミィ、ここなんてどうかな? 温泉から紅葉も見られるみたいだし、料理だって旨そうだぞ!」
「キレイですね……写真じゃなかったら、もっとキレイなんでしょうね」
アミィはうっとりしながら、紅葉が写ったディスプレイを見つめる。アミィの反応は上々だ。よし! ちょっとお高いけどここに決まりだ!
「それじゃあ、早速予約しようか……よし、これで大丈夫、いや~ 楽しみだな! アミィ!」
「はい! 私、今から楽しみで眠れませんよ!」
「おいおい、アミィはもともと眠らないだろ?」
「そうでした! 充電中は似たようなものなので、忘れてましたよ!」
アミィは小さな舌をペロリと出しながら微笑んでいる。本当に、最近はアミィも人間らしい冗談を言うようになったもんだ。
アミィとの温泉旅行、正真正銘の二人きりの遠出。俺のテンションは、今からもう既に上がりっぱなしになっていた。
ここまで読んで頂き有り難うございます!
もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!





