明日から、会社には来なくていいぞ
午後の気だるくなってくる時間帯、俺は黙々と労働に勤しむ。流れる数字に細かい文字、何だか目がショボショボしてきた。
進君とジュリさんを空港で引き取ってから数日が経った。あれ以来、進君とジュリさんは前にも増して一緒にいる時間が増えたらしい。
また機会があったら、今度はもっと大人数でどこかに行きたいもんだ。でも、それ以上に、俺はもっとアミィと二人きりでどこかに遊びに行きたいと思っていた。
最近は、コンサートやら水族館やらで、アミィと二人きりでどこかに行く機会がとれないでいた。
アミィと服を買いに行ったときも、結局はジュリさんに捕まる形でうやむやになってしまったしな。
そんなことを考えながら、俺は目の前のディスプレイを睨み付けながら、キーボードを叩く。
そして、定時を迎えて、俺はアミィの元へさっさと帰るよう、帰り支度を始めた。すると、背後から鋭く、かつ重厚な声がかかる。
「響ぃ、定時後で済まんがぁ、少しいいかぁ、話がある」
「は、はい、何でしょうか、課長」
「ここでは何だぁ、会議室まで付いてこい」
俺は課長に言われるまま、課長の後について会議室へと入っていく。俺と課長は机越しに向かい合って座る。
今までこんなことなかったもんだから緊張が走る。そして、課長の口が開き、衝撃的な発言を俺に投げ掛ける。
「響、お前、明日から、会社には来なくていいぞ」
いきなりの課長からの宣告に、俺の頭は混乱を極めた。まさか、クビ? いや、そんな、いきなり過ぎるだろ。
第一、クビにするにしてもまずは昌也からだろ、これには絶対の自信がある。
「ど、どういうことですか!? 課長! 俺、何かまずいことでもしましたか!? 説明してください! 課長!」
そんな狼狽する俺を見て、課長はダンディな笑みを浮かべて答える。
「勘違いするなぁ、響、そういうことじゃあない。お前、自分がどれだけ有給休暇を消化していないか解っていないようだな」
有給休暇? あぁ、そういえば。直近で有給休暇をとったのは、アミィを何とかするために、調べものをして以来だったな。
というか、よくよく考えたら、それより前に有給休暇をとったのはいつかも思い出せない。
更に言うなら、アミィがあんなになるまで有給休暇という選択肢が頭から消えていた。
「会社としてもぉ、定期的にぃ有給休暇を消化して貰わんと困るのだ。お前だけだぞぉ、今時、真面目ったらしく律儀に労働に勤しんでいるのはぁ。そんな精神を美徳とする時代はとうに終わったぁ、お前がやっていることはぁ、むしろ会社としては迷惑でしかない」
せっかく頑張って働いているのに、ここまで言われるとは思わなかった。でも、課長が言わんとすることも解らないでもない。
「よって、響、お前に強制的にぃ次の週明けまでぇの有給休暇の消化を命じる! 拒否権はないぞぉ、もし逆らったらぁ、解るよ……な?」
解っていますとも、もちろん、熱い鉄拳のフルコースだ。しかし、いくらなんでも強制的にってのは労働基準法的にアウトな気がする。
まぁ、課長なりに俺をねぎらってくれているんだろうな。ここは大人しく課長の言うことを聞いておこう。
「解りました、しかし、引き継ぎ何かは大丈夫ですかね?」
「問題ない、お前一人程度抜けたところで会社は回り続ける、お前は何も心配せずに余暇を楽しめばいい、そのための同僚であり、上司だ。お前もたまにはぁ、温泉にでも行ってぇ、骨を休めるのもいいんじゃあないかぁ? 人生、生き急いでも残るのはボロボロになった体と、後悔だけだぞぉ?」
何だ何だ、課長、泣かせるじゃないか。もともと話の解るナイスガイで通っているとはいえ、ここまでとは思わなんだ。
「解りました。それでは、明日からお休みを戴きます。みんなには苦労をかけますが、宜しくお願いします」
俺の言葉を聞き、課長が少し笑いながら話し始めた。
「あぁ、言い忘れたがぁ、このことはぁ皆には課内メールで通達済みだ、お前以外になぁ。皆、全員一致で納得したぞぉ? 人徳だな、だから、お前は何も気にすることはない、存分に余暇を楽しむといいぞぉ!」
マジか、そこまで手が回っているとはな。このとっつぁん、やりやがるぜ。今思えば、今日は何だか昌也も、紫崎も、俺を見てニヤニヤしていた気がする。
「私からの用事は以上だ。お前から何もなかったら、帰っていいぞ。今日も部屋で待っているんだろ? 『ア~ミ~ィ~ちゃん』がぁ、な」
「うえぇ!?」
ちょっと待て! 何で課長がアミィのことを知っているんだ!? いや、情報ルートは奴しかいない、帰ってきたら覚えておけよ、昌也!
「は、はい、それでは、し、失礼します! お先です!」
俺はこっぱずかしくて、さっさと会議室から退散した。出際に見た課長の顔は、何だかいつもより柔らかい表情にも見えた。
それにしても、課内のみんなも何も言わずに俺の休暇を容認してくれるなんてな。本当に、俺はいい会社に就職できたもんだ。
何だか、泣けてきた。俺は、一生涯、この会社のために働き、骨を埋める決心をした。
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