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【旧】アミィ  作者: ゴサク
七章 オレは進のお姉ちゃん
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ぼく、大丈夫だよ

 今日が進と一緒に居られる最後の夜。オレは言いつけられた家事と明日の荷造りを終え、自室へと戻る。


 水族館から帰ってきてから、何だか進の雰囲気が変わった。落ち着いてるっていうか、しっかりしたっていうか。

 水族館の帰り際に進が言った、『アミィお姉ちゃんとの約束』ってのが関係しているのかな? どうせ進のところに行くつもりだったから、ちょっと聞いてみるか。


 オレは早足で進の部屋まで歩いていく。両親も寝静まった時間、オレの足音と、手に持ったトレイのカチャカチャという音だけが廊下に響く。

 そして、歩き出してすぐに進の部屋の前まで辿り着く。多分、明日のことが気になって眠れないだろうから、まだ起きているだろう。


「進、起きてるか? オレだ、ジュリお姉ちゃんだ」


 俺が進の部屋のドアをノックすると、すぐに進が顔を出した。


「お姉ちゃん……」


「遅くにゴメンな、進。ちょっと進と話をしたくって、来ちまったよ。やっぱり眠れないか?」


「うん……」


「それじゃあ、少しお話ししようか。上がってもいいか?」


「うん、入っていいよ」


「ありがとう、進」


 オレは持ってきていたホットミルクの乗ったトレイを床から持ち上げ、進の部屋へと入っていく。大きなベッドに丸いテーブル。本棚にはぎっしり絵本や図鑑が詰まっている。


 進が眠れないときに、こうしてホットミルクを飲みながら話すのは、もう数えきれないほどの回数を重ねた。

 でも、それも今日で最後。オレと進は椅子に座り、向い合わせで互いをみつめあう。


「進、この前の水族館、楽しかったな。恭平お兄ちゃんもアミィお姉ちゃんも本当に進のことを考えてくれて、オレも嬉しかったよ。進、やっぱりみんなと別れるのは、寂しいか?」


 オレの問いかけに、進はハッキリとした口調で答える。その口調は、オレが今まで見てきた進とは全く違うものだった。


「ううん、ぼく、もう寂しくないよ。だって、アミィお姉ちゃんと約束したから」


「そうか……でも、大丈夫だぞ進。お父さんの仕事が一段落したら、すぐに帰って来られるから。それまでしばらくのお別れだから、何も心配しなくていいからな」


 オレは嘘をついた。本当は、もう進が帰って来ることはない。それでも、進にはこうでも言わないと、すぐに泣いちまうからな。

 オレはそう思っていた。でも、次の進の言葉で、それはオレの勘違いだったことに気づく。


「ジュリお姉ちゃん、もう嘘つかなくていいよ。ぼく、全部知ってるから。もうみんなとも、ジュリお姉ちゃんとも、会えないって」


「すす……む?」


「アミィお姉ちゃんに言われたんだ。『お前は強い子だ、お前なら大丈夫だ』って。だからぼく、決めたんだ。ぼく、ジュリお姉ちゃんと、お別れするって。いつまでもジュリお姉ちゃんに甘えてられないよね。ぼく、ジュリお姉ちゃんと一緒にいられて楽しかったよ。今まで、ぼくの側にいてくれて、本当にありがとう、ジュリお姉ちゃん」


 声が出なかった。オレの目の前にいるのは、もうオレの知っている進じゃなかった。泣き虫で、寂しがり屋で、甘えん坊な進はもういなかった。


「進……お前……」


「それに、これからも機械でジュリお姉ちゃんとお話しは出来るし、寂しいことなんてないよ。ぼく、大丈夫だよ。大丈夫だから、ジュリお姉ちゃん、泣かないで?」


「え……」


 進に言われるまで、オレは自分が泣いていることに気付かなかった。涙が止まらない。どんなに止めようとしても、止めることが出来ない。意味が解らない、何でオレは泣いているんだ。


「ぼく、ジュリお姉ちゃんと別れることより、ジュリお姉ちゃんが泣いてることの方が辛いよ。だから、ジュリお姉ちゃん、泣かないでよぉ……でないと……ぼくまで……泣いちゃうよぉ……」


 今日、この部屋に来るまでこんなことになるなんて思わなかった。オレは、泣いている進を慰める為に進の部屋まで来たつもりだった。

 笑っちまう。これじゃあ立場が逆じゃねぇか。結局、オレが進のことを泣かせちまったわけだ。本当に、笑い話にもなりゃしねぇ。


「ゴメンな……進……オレ、解んねぇんだ……解んねぇんだよ……」


「ジュリお姉ちゃあん……泣かないでよぉ……」


 オレと進は、ホットミルクが冷めきるまで泣き続けた。オレには、自分が泣いている理由が解らなかった。

 泣き疲れた進は、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまった。そんな進をオレはベッドまで運び、部屋を後にした。


 それにしても、オレは嘘をついて事実を誤魔化して進を見送ろうとしていたんだな。本当は、進にちゃんとお別れを言って、胸を張って送り出してやるべきだったんだ。


 進に勇気を与えてくれたのはオレじゃなくて、アミィだった。その事実が、オレの肩に重くのしかかる。これじゃあオレは片瀬家のメイドとして失格だな。それでも、オレにはまだ最後の仕事がある。


 明日進が旅立つのを、泣かずに見送る。これが出来なければいよいよもってオレはメイドではいられない。

 そんな思いを胸に、オレは自室へと戻りただ思いにふける。どんなに惜しんでもやって来る、明日を待ちながら。

ここまで読んで頂き有り難うございます!

もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!

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