イルカのショーです!
俺達は、何とか落ち着いたジュリさんを連れて、水族館のロビーで休んでいた。ジュリさんもそうだけど、アミィの精神状態も良くないようだ。それでも、俺はアミィに聞かなければならない。
「アミィ、こんなときに悪いんだけど、ちょっと聞いていいかな?」
「はい、何でしょうか? ご主人様」
「アミィは、進君を助けたときのことを覚えていないんだよな?」
アミィは少し落ち込んだ様子で答える。
「はい、私、気付いたら進君を抱き締めていて……何だか私、怖いです。今までは何となく自分が何をしたのか覚えていたので……」
これは、アミィの症状が悪化しているということなんだろうか? しかも、俺がいないときにこの症状が出るのも初めてのことだ。
それでも、俺にはこの症状をどうすることも出来ない訳だけど。また迷惑をかけてしまうけど、高月博士に話をしてみようかな。
「ゴメンな、アミィ。せっかくの水族館だったのに、こんなことになっちゃって。俺がもっと気を張っているべきだったよ」
「いえ! やっぱり私が進くんを連れ出したのが……」
ダメだ、これじゃあ遊園地のときと同じ流れになってしまう。そんなことを考えていると、ロビーに館内放送が流れる。
『ご来館の皆様、先程の警報の件、大変ご迷惑をお掛けしました。当館にて対策としまして、当館のアンドロイドの職員につきましては、全て帰宅させましたので、以降は安心して当館をお楽しみ下さい。本日はご来館戴き、誠にありがとうございます』
よかった! これを一番心配していたんだ! せっかくの水族館なのに、このまま帰るんじゃ進君が浮かばれない。俺はこの空気を振り払うべく、大袈裟に明るく振る舞う。
「よかったな! 進君! これならイルカのショーも観られるぞ! アミィも、楽しみにしてただろ!? 俺も実は楽しみにしていたんだ!」
「は……はい! ご主人様! 私、イルカのショー、とても楽しみにしてたんです! 良かったね、進くん、イルカさんが観られるよ!」
アミィも進君を元気付けるのに乗ってくれているみたいだ。アミィだって辛いはずなのに、本当に、ゴメンな、アミィ。
「うん! ぼく、イルカさん大好き! 水族館に誘ってもらったときから、ず~っと楽しみにしてたんだ!」
「進……」
ジュリさんは進君の反応に少し驚いている。確かに、進君は思ったより落ち込んでいないみたいだった。この場で一番落ち込んでそうなもんなんだけど、何かあったのかな?
俺達はイルカのショーが始まるまでに、レストランで食事を済ませ、ショーのチケットを確保した。
どうやら、アンドロイドの暴走の時点で帰った客が多かったようで、すんなり前の方の席を確保することが出来た。
そして、いよいよイルカのショーが始まる。俺達は四人並んで、最前列でビニールを掲げ、ショーの開始に備える。
「楽しみだね! 進くん!」
「うん!」
本当は、俺は濡れるのが嫌だから、あんまり楽しみとは言えないんだけどな。それでも、アミィと進君が喜んでくれることの方が重要だ。そして、しばらくしてイルカのショーが始まった。
プールを泳ぐのは三匹のイルカ。プールの周囲を隊列を組んで優雅に泳ぐ。そして、飼育員の合図で様々な芸を披露する。
宙返り、ジャンプ、輪くぐり、ボールのパス回し。それを見るアミィと進君の顔には、さっきまでの陰鬱な空気は微塵も感じられなかった。
「凄いね! 進くん! イルカさんがあんなにたくさんの芸が出来るなんて、お姉さん知らなかったよ!」
「うん! ぼくも目の前で見るのは初めてだから、とっても楽しいよ! あっ! 見て! アミィお姉ちゃん!」
進君がプールを指差すと、三匹のイルカが同時にジャンプをしているところだった。イルカの着水の瞬間、激しい水しぶきが俺たちに降り注ぐ。
「きゃあ!」
「うわあっ!」
これは、ビニールが無かったら全身水浸しだっただろうな。そんな状況でも、アミィと進君はとても楽しそうだった。
そして、ほどなくしてイルカのショーはフィナーレを迎えた。何だかんだで、俺達四人はイルカのショーを満喫することが出来た。
それでも、俺も、ジュリさんも、二人が喜んでくれたことのほうが何よりも嬉しかった。これで、進君の為の最高の思い出を作ってあげられたんじゃないかな。終わりよければ全てよし。俺はそう信じている。
…………
イルカのショーも終わり、そろそろ閉館の時間がやって来た。俺達は外に出て、体に夕日の光を一杯に浴びる。
「今日は楽しかったかい? 進君」
「うん! とっても、と~っても楽しかったよ! 本当にありがとう! 恭平お兄ちゃん! アミィお姉ちゃん!」
「それなら良かった。アミィはどうだった? 初めての水族館は」
「私もとっても楽しかったです。また、みんなで一緒に来たいですね」
「あぁ、そうだな、アミィ」
「恭平、アミィ、今日は本当にありがとうな。これなら進も心置きなく海外に行けるよ。な、進」
「うん、ぼく、大丈夫だよ。アミィお姉ちゃんと約束したから。みんなとお別れするって、決めたよ」
進君の顔には寂しさは微塵も感じられなかった。何だか、進君は今日会ったときよりも大人になったようにも見えた。
「それじゃあ、進君が旅立つときには見送りに来るよ、またね、ジュリさん」
「あぁ、本当に何から何までありがとうな、恭平、アミィ」
「それじゃあ、お姉さん達、帰るね。バイバイ、進くん」
「うん、バイバイ、アミィお姉ちゃん」
こうして俺達は、進君とジュリさんに別れを告げた。次会うときが進君との最後の別れ。俺は、何だか年がらにもなくしんみりしてしまっていた。
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