お別れ……ですか?
そば屋からから出て、ショッピングモールを抜け、住宅街まで歩くこと約30分。俺達は、住宅街のなかでも一際大きい家の前に到着した。
「はぁ~ おっきいですね~」
「これはちょっと予想外だったな……」
まさか、これが進君の家なのか。俺の想像の三倍はデカイぞ。家が広いっていうのは前に聞いていたけど、ものには限度ってもんがある。
「さあ、ここが進ん家だよ、歩かせちまって済まねぇな! さあさあ、入った入った! 歓迎するぜ!」
ジュリさんは俺達を家のなかに招き入れる。その内装は、おおよそ個人の邸宅とは思えないほどの豪華さだった。
ツルツルの大理石の床に敷かれた赤いカーペット、壁に飾られた高そうなデカイ絵画、そこかしこに飾られたこれまた高そうな調度品。
何だか、映画のセットのなかにいるようで落ち着かないな。アミィのドジっ娘ぶりが発動して、壺なんかを割らないよう気を付けないといけないぞ。
「付いてきな、二人とも。客間に案内するからよ!」
俺達はジュリさんの後に付いていく。ジュリさんの言う通り、俺達以外には誰もいない豪邸。そのなかに、俺達三人の足音だけが響いていた。
…………
「待たせたな! 恭平! アミィ!」
俺達は客間に案内され、やたらフカフカのソファーの上に腰かける。客間も当然ながら豪華な作りで、広さだけなら俺の部屋を全部合わせたくらいはありそうだ。
「さぁさぁ、飲みねぇ食いねぇ! おかわりはいくらでもあるからな!」
そう言って、ジュリさんはテーブルの上にお盆を置いた。お盆の上には、部屋のモダンな装飾とは不釣り合いなゴツい湯飲みと、木の深皿に盛られたせんべいが乗っていた。
「あ、ありがとう、それじゃあ、いただきます」
「いただきますね、ジュリさん」
俺達は同時に湯飲みの中の日本茶をすする。すると、俺の舌を強烈な苦味と熱が襲う。
「あっつ!! 大丈夫か!? アミィ」
「ら、らいじょうぶひゃありまへ~ん」
アミィが舌を火傷してしまったようだ。これはちょっと熱すぎる。しかもこのお茶、とんでもなく濃いめにいれてあるぞ。
「何だ何だお前ら、これくらい普通にいけるだろうが!」
そう言って、ジュリさんはお茶を豪快にすすり、せんべいをボリボリとかじる。その姿には、乙女の恥じらいなど微塵も感じられなかった。
「あ~! やっぱりこれだよな~! どうした二人とも、妙な顔して」
「いや、何でもないよ、アミィはゆっくり冷ましながら飲みな」
「はい……ふ~っ! ふ~っ!」
何と言うか、ジュリさん、日本人以上に日本人だな。そんなよく解らない感想を胸に抱きながら、俺たちはお茶会を楽しんだ。
…………
お茶会も一段落する頃、俺はジュリさんに話を切り出す。
お茶会の最中、ジュリさんは時々寂しそうな表情を浮かべていたのを俺は見逃さなかった。
今日出会ったときも、そば屋でも、進君の話をするときのジュリさんは、何だか様子がおかしかった。
「ジュリさん、もしかして、今日俺達を誘ったのは、何か聞いて欲しかったことがあったからなんじゃないかな? 今日のジュリさん、何だか寂しそうだ」
「実は、私もそう思ってました。ジュリさん、私達に出来ることでしたら、何でもご相談にのりますよ? ね、ご主人様」
「もちろんだよ、ジュリさん、話してくれないかな?」
俺達の話を聞き、ジュリさんが諦めたように話しだした。その表情は、もう寂しさを我慢している様子は、なかった。
「やっぱり、解っちまうか。それがな、進、旅行から帰ってきてからしばらくしたら、両親と一緒に海外に引っ越しちまうんだ。この家はそのままにしておくみてぇだから、オレは一人、この家を守らなくちゃならねぇんだ」
そんな。それじゃあジュリさんは進君と離ればなれになるってことだよな? あんなにジュリさんになついていたのに、それはないんじゃないか?
「そうなんだ……ジュリさんは、それでいいの?」
「いいも何も、俺は片瀬家のメイドだぜ? 口を挟む余地は無ぇよ」
「でも、ジュリさん、寂しくないですか? 何とかお願いして、進くんと一緒にいてあげることは出来ないんですか?」
「ありがとうな、アミィ。でも、これは片瀬家の問題だ。それに、進だって両親と一緒にいた方がいいに決まってる。いいんだよ、これで」
「でも……」
「あ~ この話は終わり! 悪かったな二人とも! 今日は二人の邪魔しちまったな!」
ジュリさんは元気に振る舞おうとしているけど、俺から見たら痛々しい。
でも、進君の家の問題に首を突っ込むのもお門違いだ。それは解っている。解っているけど、俺は、何かしら出来ることをしてあげたい。
「ジュリさん、それじゃあ、進君が海外に行ってしまう前に、何か思い出を作ってあげること、出来ないかな?」
「思い出?」
「うん、この前の遊園地みたいに、どこかに連れていってあげたりさ。ジュリさん、何かいい考えないかな? 俺達で出来ることなら協力するからさ。な? アミィ」
「そうですよ! 私も進くんに思い出を作ってあげたいです!」
俺達の言葉に、ジュリさんはしばらく考えてから、答える。その顔は、幾分かいつものジュリさんの明るさを取り戻していた。
「そういえば、進、よく魚が載った図鑑なんかを眺めてたんだっけ……そうだ! それしか無ぇ! お前ら、ありがとうな! それじゃあ、準備しないとな!」
「ジュリさん!? どういうことかな? 説明して欲しいんだけど」
「魚と来たら水族館だ! お前らも一緒来てくれるよな?」
なるほど、水族館か。それなら十分に思い出を作ってあげられるだろう。それに、アミィにも初めての水族館を楽しんでもらえる、一石二鳥だ。
「そうだね、よし! それじゃあ、進君が帰ってくるまでに計画立てないとな! アミィも水族館、行ってみたいよな?」
「もちろんです! 私も生きているお魚は本でしか見たことがないので楽しみですよ!」
「ありがとうな、お前ら、何だか、世話になりっぱなしでよ。本当に、恩に着るよ、二人とも」
俺達にお礼を言うジュリさんは、何だかしおらしくて、ちょっといつもと違う雰囲気だった。
こうして、俺達はジュリさんと進君と一緒に水族館に行くことになった。
ジュリさんと、進君と、俺達の最後の思い出、いい思い出にしてあげないとな。俺たちはジュリさんと予定の調整するよう約束し、進君の家を後にした。
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