ずっと、一緒だよ
最近、夏樹ちゃんの帰りが遅い。これまではいつも一緒にいたけど、最近は私だけで先に帰る機会が増えてきた。
やっぱり、そういうことだよね。それじゃあ、私に出来ることは夏樹ちゃんが帰りを待つことだけだ。
そんなことを考えていると、部屋のドアが勢いよく開け放たれる。私が玄関へ向かうと、そこには泥だらけの夏樹ちゃんが立っていた。私は夏樹ちゃんのボロボロの姿に少し驚く。
そして、夏樹ちゃんが私の胸に飛び込んできた。夏樹ちゃんは、小さい子供のように泣き続けた。あぁ、やっぱり、こうなってしまったんだね。
私は夏樹ちゃんを抱き締めた。響さんとアミィちゃんとのデートの時から決めていた通りに。さあ、これからがお姉ちゃんの腕の見せ所だ。
私は、泣き疲れた夏樹ちゃんの話を、自分の頭のなかで整理しながら、夏樹ちゃんの気が済むまで聞いてあげた。
夏樹ちゃんは響さんを好きで、勇気を振り絞って告白して、振られて、裏切られて、響さんの元から逃げ出したことを。
「あのね……? 響さんが……ね? 酷いん……だよ? 私、こんなに響さんのことが好きだったのに、私のことをずっと、騙してたんだよ? マリンちゃんだって、響さんのこと、酷いと思うよね?」
私は夏樹ちゃんを何とか落ち着かせようと、言葉を選んで夏樹ちゃんを諭す。夏樹ちゃんのことを傷付けないように、慎重に、慎重に。
「夏樹ちゃん、この前のデートで、響さん達と一緒に食べたケーキ、美味しかったよね。私は今でも忘れられない。だから私、響さんが夏樹ちゃんを初めから騙そうと思ってたなんて、ちょっと信じられないな」
「マリンちゃん……? マリンちゃんは、私の味方をしてくれないの!?」
「夏樹ちゃん、響さんだって、夏樹ちゃんを何とか傷付けないように付き合えないことを伝えようと、悩んでたんだと思うよ。だって響さん、いい人だから。それは私より夏樹ちゃんのほうがよく解ってるんじゃないかな?」
「でもでもぉ……アミィちゃんはアンドロイドでぇ……私、納得出来ないよぉ……!」
「夏樹ちゃん。夏樹ちゃんは、私のこと、好き?」
「当たり前じゃない! どうしてそんなこと聞くのぉ!?」
「そうだよね。私だって、夏樹ちゃんのこと、大好き。でも、私だってアンドロイドだよ? 夏樹ちゃんが私を好きでいてくれる気持ちと、響さんがアミィちゃんを好きな気持ち、どこが違うのかな?」
「それは……!」
「それに、私には男の人を好きになるって気持ちはちょっとピンと来ないけど、アミィちゃんが響さんのことが好きだってことは解ってた。この前のデートのとき、響さんとアミィちゃんを見てて、気付いちゃった」
「それじゃあ……何で私にそのことを教えてくれなかったの!? マリンちゃん!!」
夏樹ちゃんの言い分は最もだ。でも、それじゃあ、だめなんだよ、夏樹ちゃん。
「だって、私、夏樹ちゃんのメイドだから。言うのは簡単だよ? でも、それじゃあ夏樹ちゃんはいつまでたっても子供のままだから。主人の成長を、時には厳しく見守るのもメイドのお仕事。恨んでくれたっていいよ? それでも私は夏樹ちゃんの明るい未来のために、この考え方を変えるつもりはないから」
「恨んだりするわけない! 本当は、私だってもしかしたらそうなんじゃないかと思ってた! それでも……響さんのことが好きだった! 好きだったんだよぉ……マリンちゃあん……」
私は、夏樹ちゃんの頭を撫でる。
「うん、よく頑張ったね、偉いぞ、夏樹ちゃん。辛かったよね、苦しかったよね。それでも、みんなそうやって大人になっていくんだよ。夏樹ちゃんだけじゃない、誰だってみんなそうなんだよ。だから、これからも私と一緒に、乗り越えて行こう? 夏樹ちゃん」
「マリンちゃん……私……私……」
「夏樹ちゃん、今日は久しぶりに、私と一緒に寝よっか!」
「うん……うん……」
「大丈夫、私が夏樹ちゃんの話、一晩中だって聞いてあげるから」
「ありがとう……マリンちゃん……やっぱり私、マリンちゃんのこと、大好きぃ……!」
「私も、夏樹ちゃんのこと、大好きだよ。これからも、ずっと」
私は夏樹ちゃんの頭を撫でながら抱きしめ続けた。
そして、夏樹ちゃんが落ち着いたタイミングを見計らって、お風呂に入ってくるよう薦めた。
…………
お風呂から上がった夏樹ちゃんは、私と一緒のベッドで、私を抱きしめながら眠った。こうして一緒のベッドに入るは何年ぶりかな。何だか懐かしい気持ちになる。
私はアンドロイドで、眠る必要はないから、夏樹ちゃんの話をずっと聞いてあげられる。私は、夏樹ちゃんと今日あったことを、夏樹ちゃんが気が済むまで聞いてあげた。
夏樹ちゃんは、今日の私の話に納得してくれたみたいだった。後は、夏樹ちゃん次第だけど、夏樹ちゃんなら乗り越えられると信じている。そして、ベッドに入ってから一時間ほどで夏樹ちゃんは眠ってしまった。
それにしても、本当に大きくなったね、夏樹ちゃん。初めて会ったときは、あんなにちっちゃかったのにね。
この体には、輝かしい未来が一杯に詰まってる。私の仕事は、その未来を全力で後押しすることだ。
私はアンドロイドだから、この姿のままだけど、だから夏樹ちゃんの傍にずっといてあげられる。これからも、私は何があっても夏樹ちゃんと一緒にいるからね。
夏樹ちゃんがお嫁に行っても、夏樹ちゃんに子供ができても、夏樹ちゃんがお婆ちゃんになっても、ずっと、ずっと、ず~~~っと一緒だよ、夏樹ちゃん。
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