交錯する想い
予約した喫茶店は大入り満員、本当に予約しておいてよかった。店内はほぼ女性100パーセント、明らかに俺は浮いている。
俺達は喫茶店で色とりどりのスイーツを堪能した。男一人に女の子三人、俺は何だかむず痒くてしょうがなかった。
注文したのは、夏樹ちゃんは特製の桃のタルト、マリンちゃんはオレンジショートケーキ、アミィはブルーベリーのムース、そして俺はガトーショコラだ。
「う~ん! やっぱりいいよぉ~ 桃は。何だか、幸せな気分になってきゃうよぉ~」
「夏樹ちゃん! 私も一口貰っていいかな? 私のも食べていいからさ!」
「もちろん、マリンちゃん。アミィちゃんもどう? すっごい美味しいから、食べて食べて!」
「それでは、お二人も私のをどうぞ! ちょっと酸っぱくて美味しいですよ!」
「それじゃあ、アミィちゃんも私の食べてよ! オレンジの甘味と酸味が絶品なんだから!」
女性陣はお互いのケーキを少しずつ交換しながら食べていた。
さすがに俺もその輪に入るわけにはいかず、キャピキャピとした空気を外から眺めるしかなかった。
女性陣のケーキを食べる幸せそうな顔。俺のデートスポット選びのセンスも捨てたもんじゃないのかもな。
そしてケーキを食べ終えた俺達は、お茶を飲みながら談笑し、そして、店を後にした。
…………
その後も、俺達はウィンドウショッピングをしたり、屋台でちょっとした食事をしたりしながら、ダブルデートを楽しんだ。
楽しい時間は早く過ぎるものだ。時刻はもう17時に差し掛かっていた。結局、夏樹ちゃんの気持ちを確かめるまでには至らなかった。やっぱり、ふたりきりじゃないと難しいのかな。
「今日はわざわざお時間を戴いてありがとうございました、響さん」
「いや~ 久しぶりのお休みだったから、楽しかったよ~! アミィちゃんともお話できたし、言うことなし!」
「俺もアミィも今日は楽しかったよ。な、アミィ」
「はい! 夏樹さんもマリンさんも優しくって、ますますお二人を応援したくなりました! 今日はありがとうございました!」
「それじゃあ、俺達はそろそろ帰るよ。じゃあね、夏樹ちゃん、マリンちゃん」
俺は踵を返して帰路につこうとした。すると夏樹ちゃんが少し声を張って俺を呼び止めた。
「待って下さい! 響さん!」
「どうしたの? 夏樹ちゃん」
「その……響さんが宜しかったら……また、誘っていただけませんか?」
夏樹ちゃんの顔はほんのりと赤く染まっていた。夕日の茜色と合わさり、何だか扇情的な雰囲気を醸し出す。
視線もなんだか俺のほうを見ていない、目を伏せて俯いている。
この反応、間違いない、自惚れじゃない。この少女は、俺に、恋をしている。
そうと解ったら、俺がやれることは夏樹ちゃんを振ることだけ。今日はこの為に来たんだろ? さあ、言え、言うんだ! 恭平!
「……うん、また、一緒に、遊ぼう。な、アミィ」
「はい! またお会いできる日を楽しみにしてます!」
「ありがとうございます……響さん」
「それじゃあ、またね」
「はい、また」
…………
言えなかった。何をやっているんだ俺は。いや、まだそうと決まったわけじゃないじゃないか。やっぱり俺が自惚れてただけ。そうさ、その可能性は十分にある。
まだその時じゃない。なに、まだチャンスはある。夏樹ちゃんだって俺とデートするの楽しそうだったし、もう少し一緒に楽しんだってバチは当たらないだろう。
それにこの関係は碓井さん公認、何もやましいことはない。俺がどうしようが文句を言われる筋合いはないじゃないか。
俺は、最もらしい理由で自分を強引に納得させ、家路へとついた。これが間違いだった。俺はこの選択によって今後大いに後悔することになった。
…………
私は響さんの背中を見送る。その背中は父さんと違って、広くて、大きかった。大きい手、逞しい腕、時々見せる困ったような笑顔。その全てが私を今まで生きてきた中でも感じたことがなかった気持ちにする。
多分、これが、恋。普通の女の子だったら、もっと早くに知っていたであろう気持ち。初めて感じたこの気持ちは、私の心を塗り潰していく。
会いたい。今、別れたばかりなのに、もう会いたくなっている。私は我が儘な女だ。それでもこの気持ちを押さえることができない。
どうしよう。もう、私には自分が解らない。どうしたらいいの? 誰か、誰か教えてよ。
「夏樹ちゃん? どうしたの、ボーッとして」
マリンちゃんの声で私は現実に引き戻される。
「な、何でもないよ、マリンちゃん! それじゃあ、私達も帰りましょうか! 明日からも、お仕事頑張ろう!」
「うん……そうだね、お仕事、頑張ろう」
私達は、沈む夕日の光を受けながら、家路へとついた。
…………
夏樹ちゃん、やっぱりおかしい。夏樹ちゃんがこうなったのは響さんと会ってからだ。やっぱり、そういうことなのかな。だって響さん、優しくていい人そうだもんね。
夏樹ちゃんだって女の子だもん。女の子に生まれたからにはそんなこともあるよね。でも、本当にそれでいいのかな? 夏樹ちゃん。
夏樹ちゃんはちょっとロマンチストだから、たぶん今は響さんの優しさをそんな気持ちだと勘違いしているんじゃないかな?
それにね、実を言うと、私にはもう解っちゃってるんだ。今日、響さんとアミィちゃんを見て、解っちゃった。それでも、そのことはまだ言えない。私の口からは。
それでも、私に今出来ることは心の中で夏樹ちゃんを応援することだけ。そして、そのときが来たら夏樹ちゃんを抱き締めてあげるんだ。
恨まれたっていい、それが精一杯の私が夏樹ちゃんにしてあげられることだから。だから、今は私に出来ることをやるよ。頑張れ、夏樹ちゃん。
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