楽屋へのご招待です!
俺は受信したメールの内容を皆に伝える。俺はこれがいかに有り得ないことかを理解していなかったんだ。
「ちょっと皆、聞いてくれないかな」
「どうした、恭平」
「えっと……今、夏樹ちゃんからメール貰ったんだけど……『もしよかったら、皆さんで楽屋に遊びに来ませんか?』だってさ」
「なんですって!?」
おっ、灰になっていた紫崎が復活したぞ。そして俺に詰め寄り、異様な剣幕で捲し立てる。
「先輩! あなたは本当に何者なんですか!? アイドルが一般人を楽屋に招待するなんて聞いたこともないですよ! もし他のファンにバレたりしたら袋叩き、SNSでの拡散、最悪刺されますよ!? あぁ、恐ろしい!」
「そ、そうなの?」
「そりゃあそうでしょう! しかも相手は今を輝くツインマーメイド……有り得ない、有り得ないですよ!」
「そうなんだ……」
いや、冷静に考えれば紫崎の言う通りな気がする。アイドルは手が届かないからアイドルなんであって、俺達一般人は大人しく応援するのが正しい気がしてきた。
「それじゃあ、夏樹ちゃん達には悪いけど、断りの連絡入れるよ」
「待ってください! 先輩」
夏樹ちゃんにメールを送ろうとする俺を紫崎が慌てて制止する。
「誰も行かないとは言ってないじゃないですか! それだけのリスクを負う価値は十分にある! いや、こんな千載一遇のチャンスを逃すなんて有り得ない! 行きますよ、僕は!」
何だ、結局行くんじゃないか。
紫崎の言うことも解らないじゃないけど、あちらから招待されているんだ、その辺は夏樹ちゃんも考えているだろうから、そんな大事にはならないだろう。
「それじゃあ、皆行くってことでいいかな?」
俺が皆に確認すると、全員行くということに決まった。キッカさんだけはやっぱり乗り気じゃなかったけど、まぁ一人で帰すのもあれだしな。
さて、シークレットコンサートの延長戦、どうなることやら。俺達は夏樹ちゃんに楽屋へ行くよう返事をし、返信されたメールに書いてある場所へと向かった。
…………
「こっちですよ、皆さん」
コンサート会場裏手の非常口。正面玄関と違って薄暗い、日の当たらない場所。そこでは夏樹ちゃんが一人で待っていた。
その服装はステージ上で着ていたお馴染みのメイド服。コンサートが終わって間もないせいか、その体には珠のような汗が光っていた。
「お疲れ様、夏樹ちゃん。今日は招待してくれてありがとう、楽しかったよ」
「いえ、私達に出来ることはこれくらいしかないので、それでは皆さん、早速楽屋に招待しますね! マリンちゃんも待ってますよ!」
俺達は夏樹ちゃんの後ろをぞろぞろとついていった。これだけの大所帯、誰かに見られてなければいいんだけどな……
…………
俺達は夏樹ちゃんに案内されて楽屋へとやって来た。白を基調とした横長の部屋の壁には、鏡台がずらっと並んでいた。
「あ! 響さんだ! 今日はコンサートに来てくれてありがとぉ!」
楽屋に着くなり、俺はマリンちゃんから熱烈な歓迎を受ける。今をときめくアイドルに抱きつかれる俺、非現実的な状況に困惑してしまう。
「羨ましい……俺と恭平の何が違うってんだ」
「そういうところですよ、関先輩。しかし、確かに羨ましいですよね……何なんでしょうね、響先輩って」
何やら昌也と紫崎から妙な視線を感じる。俺はマリンちゃんに離すようお願いし、改めて今日のお礼をした。
「夏樹ちゃんもマリンちゃんもお疲れ様、今日はコンサートに招待してくれて、本当にありがとうね」
「やっぱり最高峰なアイドルだよな! 俺、泣きそうだよ」
「とてもカッコよくて、私、感動しちゃいました! ご招待いただいてありがとうこざいました!」
「お疲れ様でした。本日はご招待戴き、有り難う御座いました。貴女方のステージ、存分に楽しませて戴きました、感謝致します」
面識のある俺達四人がお礼を終え、次は初対面の四人が自己紹介も兼ねて続けてお礼を言う。
「いや~ すげぇなお前ら! オレはジュリ、こっちは進。宜しく頼むぜ! 今日は恭平にくっついてきたんだが、ホント、来て良かったよ! な! 進!」
「うん! お姉ちゃんたち、カッコ良かったよ! ぼく、お姉ちゃんたちのファンになっちゃった!」
「こちらこそ宜しくお願いしますね、ジュリさん。そこまで喜んで貰えたなら嬉しいです、う~ん! これだからアイドルは辞められません!」
「お姉ちゃん達、すっごいでしょ~ 進くん! これからも応援してくれたら、マリンちゃん嬉しいな!」
そして紫崎とメリーさんの自己紹介なんだけど、何だか様子がおかしい。
「は、はひ! わたくひ! 紫崎 琢磨ともうひまふ! 本日は、お日柄もよく! 大変! 感謝したく存じまして! 誠に! 有り難うごさいまふ!」
「坊っちゃん、どうしたんですかぁ? ちょっと変ですよぉ? あ、わたし、メリーっていいます~ 宜しくお願いしますねぇ~」
メリーさんは相変わらずだけど、紫崎、緊張しすぎだろ。まぁ、目の前に憧れのツインマーメイドがいるんだ、しょうがないか。
その自己紹介を聞いた二人は、紫崎の顔を凝視する。
「あら? あなた、よく握手会に来てくれている方ですよね?」
「ホントだ! 私も見覚えある! 今日も来てくれたんだ! ありがとう!」
さすがはプロ、握手会に来た一般人を覚えているとはな。その言葉を聞いた紫崎は、感極まって恍惚の表情を浮かべている。
「あぁ……生きてて良かった……一生付いていきますよ……ぼかぁ……」
やれやれ、まぁ、これだけ喜んでくれたなら誘った甲斐もあるってもんだ。俺達が自己紹介を終えた直後、楽屋に人が入ってきた。
そこには、紺色のスーツを着たエメラルドグリーンの長髪の女性が立っていた。
縁のない眼鏡、キリッとした目元、スラッとしたプロポーション。俺達はその女性の雰囲気に目を奪われてしまった。
勿論、楽屋へも行ったことはありません!
「アイドルが楽屋に一般人を呼ぶか!」といったツッコミは勘弁してください!
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