それでいいじゃないか
「人間とアンドロイドに愛が芽生えるかという話をするのならば、まずは愛の定義付けが必要だろう。しかし愛とは何かと聞かれて迷うことなく答えられる人間はいるだろうか? それはアンドロイド然り、同じことだ。そういった意味では人間もアンドロイドも同様の価値観を持ちうるということだ。しかし悲しいかな、アンドロイドはあくまで人間が創りしもの、その事実は変わらない。どこまでいってもアンドロイドに宿る感情は作り物であると言わざるをえないだろう」
「作り物、ですか……」
あぁ、そうだ。やはりその事実は俺の前に大きな壁として立ちはだかる。
人間が創ったものが人間の思惑を越えることはあってはならない。解っていたことだけど、いざ言葉にされると堪えるものがある。
「しかし、私はこう思うのだよ、それでいいじゃないか、とね。そもそも愛などという言葉はあくまで言葉でしかなく、大事なのはそこに何があるのかということだ。何に変えても一緒に居たいと思う気持ち、命を賭して誰かを守りたいと思う気持ち、なんだったら、体だけを重ねたいと思う気持ちだってそうだ。そこにある感情全てが愛と言えるとわたしは思う。最も、お互いがそう思えるかは全く別の話だがね、相思相愛、そうあることが難しい。おっと、話が逸れた、すまないね。結局のところ、人間とアンドロイドの間に愛が芽生えるかは当人同士の問題ということさ。そこには感情が作り物かどうかなど入り込む余地もない。外野からの批判など犬にでも食わせておけばいいのさ。一番大切なのは、自分の気持ちに正直であることだよ。まぁ、現代社会ではそれが一番難しいのかもしれないがね」
「博士……」
「以上、年寄りの戯れ言でした! いやはや、どうも真面目ったらしく話すのは苦手でね。今の話は耳の肥やしにでもしてくれたまえ!」
「……」
高月博士はそう言うが俺にとっては救われる話だった。もしかしたら、俺の質問で察して勇気付けてくれたのかもしれないな。
「あ、ちなみに私は娘達のことはこの上なく愛してるよ! そこでブレちゃあ、私の存在意義に関わるからね!」
「ハハッ……」
「さて、そろそろアミィちゃんのチェックも終わる頃かな。ちょっと見てくるからもう少し待っていてくれないか?」
「解りました……高月博士」
「何かね?」
「いえ、話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「礼を言われることでもない気もするが、貰えるものは受け取っておくよ」
高月博士は恥ずかしそうに笑いながら応接室から出ていった。
…………
「おまたせ、アミィちゃんのチェック、終わったよ。お察しの通り感染していたよ、まぁ、ある程度は予測出来ていたことだが」
「そうですか……」
「もちろん、適切に処理しておいたから安心したまえ」
俺はアミィに駆け寄り、しゃがんでアミィの体を撫でる。
「何とも無いか? アミィ」
「はい! 私は元気ですよ!」
「そっか、それならいいんだ。それにしても、いつも無理に時間を取ってもらってありがとうございます、高月博士」
俺はアミィの横に立ち上がり、高月博士に頭を下げる。本当に、なぜこんな一般人によくしてくれるのか不思議だ。
「あ、ありがとうございます!」
それに倣いアミィも高月博士にペコリと頭を下げる。
「いやいや、何度も言うようだが嫁に行った娘の世話も親の仕事さ。また何かあったら遠慮なく連絡をくれたまえ」
「解りました、それでは今日のところは失礼します……あ! そうだ!」
俺は高月博士にもうひとつ用事があったことを思い出した。前に昌也から、高月博士宛の預かりものをしていたんだった。
「高月博士、今日はお渡ししたいものがあったんでした」
俺はポケットからメモ用紙を取り出して、高月博士に渡した。
「これは、電話番号かな?」
「はい、前に海水浴場でアンドロイドが暴走したときに、昌也が知り合った刑事さんの電話番号です。今回のアンドロイドの暴走の件で話したいことがあるようなので、預かってきました」
高月博士はその電話番号が書かれたメモ用紙を見ながら、少し考え込んでいる。そして、高月博士は顔をあげて、俺に向き直った。
「解ったよ、私の方から連絡してみよう。正直なところ、私には警察とのコネはないから、話によっては上手いところいくかもしれない。ありがとう、響君」
「いえ、俺としても協力できてよかったです」
俺とアミィは応接室を出て玄関へと歩き出す。すると、後ろから少し大きめの高月博士の声がした。
「あ、ちょっと……」
俺達は高月博士の方へ振り替える。そこには、こちらに手を伸ばしなから俺達を引き留めようとする高月博士がいた。
「何でしょうか?」
「あ、いや、何でもないよ。ここのところ物騒だからね、気を付けて帰りたまえ」
「はい、それでは」
「失礼しますね、高月博士」
高月博士は何か言いたげだったように感じたけど、すぐに手を引っ込めて、それ以上は何も言わなかった。
俺達はそんな高月博士を背に、改めて高月博士の研究所を後にした。
…………
あぁ。
言えなかった。
言えるはずもない。
これは全て私の我が儘だ。響君がこの話を聞いたら軽蔑するだろうか。
いや、それどころの話ではない。私は響君に一生恨まれるだろう。
いや、まだだ、まだ時間はある、タイムリミットはまだ来ていない。
これからも、私がそうならないように努力し続ければいいだけの話だ。
もうすぐだ。
もうすぐだよ。
待っていてくれ。
茜。
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