俺は君を愛している
「ハァ……ハァ……」
良かった、どうやら間に合ったようだ。何とかこれでアミィに最高の思い出を作ってあげられたらいいんだけどな。
「アミィ……今日は色々あったけど……最後に……一緒に乗りたいと……思ってたんだ……」
「これは……観覧車、ですか?」
アミィは遊園地に来たときと同じように上空を見上げる。そう、この遊園地の目玉である巨大観覧車だ。ライトアップされた観覧車は、巨大な生物のようにゆっくりと動き続けていた。
「さぁ、アミィ」
俺はゴンドラに乗り込みアミィに手を差し伸べる。その手を、アミィはしっかりと握り返す。
「はい……よいしょ!」
そして、アミィがゴンドラに乗り込むとゴンドラが施錠される。これから一時間ほどかけて観覧車が一周する。
その間は誰にも邪魔されない、二人だけの時間だ。俺達は向かい合ってシートに座った。
「アミィ……今日はゴメンな」
「何がですか? ご主人様」
「その……せっかくの遊園地なのにあんなことになっちゃって」
アミィは少し声を荒げながら答える。
「そんな! あれはご主人様のせいじゃないじゃないですか!」
「いや、そもそも俺と一緒に遊園地に来なければこんなことには……」
いかん、どうしても話題が後ろ向きになるな。アミィを危険に晒してしまった後ろめたさがそうさせるのかな。
そんな俺の言葉に、アミィの声が更に大きくなる。アミィは眉をつり上げ、口をいっぱいに開けながら俺に反論する。
「何て事を言うんですか! ご主人様! 私、今日ご主人様と一緒に遊園地に来られて幸せでした! それなのに……ご主人様がそんな事を言ったら……私……」
アミィが悲しげにうつむいてしまった。だめだ、これじゃあ何のために観覧車に乗ったのか解らない。
「アミィ、本当に今日遊園地に来て良かったか?」
俺の言葉に、アミィが勢いよく顔をあげる。
「当たり前じゃないですか! 今日だけじゃないです! 初めて出会ってから今日まで、ご主人様にはたくさん優しくしてもらいました! こんな何も出来ない私なんかを……それだけで私は幸せです! ご主人様はいつだって私の事を心配してくれているじゃないですか!」
アミィは泣き出しそうな顔で俺に語りかける。アミィのそんな顔を見るのは辛いけど、これも俺のせいだ。
「それでも俺は、今日アミィを危険に……」
「それはもういいんです。ご主人様は困っている人や助けを求める人を放っておけないんですよね? 私はそんなご主人様の事、好きですよ。私、ご主人様の為なら何だってやります! 私、ご主人様に恩返しがしたいんです!」
「アミィ……」
俺はアミィの言葉にただ呆然と聞き入ることしか出来なかった。
「ご主人様、聞いていただけますか?」
アミィが真剣な顔でこちらを見据える。
「本当はそれだけじゃないんです。私、ご主人様の事、好きなんですよ」
解ってる、解ってるよアミィ。アミィは俺の事を好きでいてくれる。それは今までのアミィからも十分伝わってくる。
「ご主人様、お願いがあるのですが、聞いてくれますか?」
「何だい? アミィ」
「申し訳ありませんが、少しの間、目を閉じてくれませんか?」
「あ、あぁ……」
「私がいいって言うまで開けちゃダメですよ?」
何だろう、俺はアミィに言われるままに目を閉じた。
…………
目を閉じると、アミィの息づかいを鮮明に感じる。
見えなくてもアミィがすぐ近くにいるのが解る。
そして、ほどなくしてアミィの吐息が俺の顔を撫でた。
そして、アミィの気配が俺にグッと近づき、何かが一瞬俺の唇に触れる。とても柔らかい、微かな温もりを帯びた何かが。まさか、これは。
「ア……ミィ……?」
俺はその感触に、思わず目を開けてしまった。すると、俺の目には今まで見たことがないアミィがいた。
「開けちゃダメって、言ったじゃないですか……」
目の前ではアミィが顔を真っ赤にしている。うるんだ目、上気する肌、少し荒い吐息、その全てが俺を虜にする。
「私、何と言っていいか解らなくて……今の私のこの気持ち、自分でも解らないんです。ただ、これが今の私の気持ちなのは確かです。なぜ私はこんな事をしたのでしょうか? ご主人様にはこの気持ち、解るのですか? 私には解りません。でも、何だか暖かいんです。やっぱり私、ご主人様と一緒に居られて、とても幸せです」
馬鹿な。有り得ない。こんな話聞いたこともない。
アンドロイドが人を愛する。そんなお伽噺のような事があるものか。でも、もしそうだとしたら俺は大きな勘違いをしていた。
アミィが俺を好きでいてくれる、でもそれはあくまで人格プログラム上での話。所詮はプログラム、人間のために作られた作り物。
それ以上でも以下でもない、そう思っていた。でも、本当はそうじゃないんじゃないか?
俺の勘違いならいい。それでも俺は、このアミィの気持ちに応えたいと思ってしまっている。
この気持ちとアミィの今の気持ちが同じものだという保証はどこにも無い、それでも俺は……俺は……!
「アミィ、俺もアミィの事、好きだよ」
「ご主人様……!」
「多分、俺も今のアミィと同じ気持ちだ」
そうだ、今俺の胸にあるこの気持ちだけは確実に本物だ。それだけは誰にも侵すことの出来ないものだ、他の誰がなんと言おうが知ったことか!
「アミィ、俺は君を愛している」
言った。
言ってしまった。
もう後戻りは出来ない。
「愛……ですか?」
アミィは、はにかみながら俺の言葉を反芻する。何だかどこか遠くを見るように、口に人差し指を当てながら。
「愛……愛……この気持ちが、愛というものなのですね。言葉としては知っていましたが、愛とはこのような気持ちだということは初めて知りました。それではご主人様、私もご主人様の事、愛しています……いい響きですね、愛って」
アミィは頬を染めながら俺を見つめる。ダメだ、こんな顔で見つめられたら俺にはもう我慢ができない!
「アミィ……!」
俺はアミィを抱き締めた。これから先もアミィを離さないように。
誰にも言えない、二人だけの秘密。観覧車は頂上へと近づいていった。
ここまで読んで頂き有り難うございます!
もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!





