間に合え!
俺達は沈痛な気持ちで遊園地の歩道を歩いていた。せっかくの楽しいはずの遊園地。それが最後にこんな事になってしまった。
誰が悪い訳でもない。悪いのは俺の運とウイルスだ。俺はウイルスの出所にモヤモヤとした憤りを感じていた。
進君とジュリさんとの出会いは決して悪いことじゃないけれど、それを差し引いてもアミィに嫌な想いをさせたのは事実だ。
「!!」
俺がそんなことを考えていると、突然アミィが立ち止まり、何か思い出したかのように目を見開く。
「ぬいぐるみ!!」
そうだ、そんなものもあったな。あまりに状況が目まぐるしく変わったから忘れていた。
「戻って探しましょう!」
それはちょっと難しい。もう周囲は暗くなり始めている。今からあの場所に戻って探しても見つかる可能性は低いだろう。
「もう時間も遅い。ぬいぐるみなら後で買ってあげるから……諦めよう」
俺はあまり深く考えずに言った。しかし、アミィの反応は意外なほど激しいものだった。
「そんな寂しい事言わないで下さい!」
「え……?」
こんなに声を荒げるアミィは始めて見た。アミィは涙を浮かべながら続けた。
「あのぬいぐるみは今日の思い出なんです! 楽しかった、思い出が詰まっているんです! 一生懸命ご主人様が取ってくれた、あのぬいぐるみがいいんです! だから……お願いです……そんな寂しい事……言わないで下さい……お願いです……ご主人様……」
アミィの涙が地面に染み込んでいく。アミィがそこまであのぬいぐるみを大切に思ってくれているとは思わなかった。
アミィはハッとして顔を上げる。そして、アミィは我に帰ったように、沈痛な表情を浮かべる。
「申し訳ありません……我が儘を言って」
いや、これは俺が悪い、アミィの気持ちを考えていなかった。俺はアミィの頭に手を置き、目を見つめながら言った。
「そうだよな、ごめんな、アミィ。悪かったよ、あのぬいぐるみがいいんだよな。行こう、探しに」
アミィは安心したような表情で言った。よかった、いつものアミィが戻ってきてくれた。
「ご主人様……ありがとうございます……」
俺達はぬいぐるみを落とした場所まで戻った。頼む、神様、どうか、アミィの思い出を、奪わないでやってくれ。
…………
「見つからないな……」
俺達は、ぬいぐるみを落とした場所の周辺を手分けして探した。やっぱり、そう簡単には見つかってはくれないか。
周囲は既に日も落ちて、闇に包まれている。電灯やアトラクションの明かりがあるとはいえ、視界は良くない。
もしかしたら誰かに拾われてしまったか。そんな事を考えていると茂みの奥に何かが光ったように見えた。
俺が茂みを掻き分けると、茂みの奥に瞳が赤く光るウサギのぬいぐるみがあった。
「あったぞ! アミィ!」
「本当ですか!? ご主人様!」
俺は茂みからぬいぐるみを取り出しアミィの元へと急いだ。よかった! アミィの思い出はまだ生きていた、生きていたぞ!
「これだよな! アミィ!」
「はい……!」
アミィがぬいぐるみを見て、目を見開く。その顔は、驚きと悲しみが混ざったような、複雑な表情をしていた。
アミィの視線をたどり、俺は手元のぬいぐるみに目をやった。ぬいぐるみは、歩行者に蹴られ続けたのか、所々裂け、首からは綿がはみ出している。
赤い瞳は片方取れた、見るも無惨な状態だ。それでもアミィは俺の手からぬいぐるみを受けとると、いとおしそうに抱き締めた。
「ごめんね……ごめんね……怖かったよね……? 大丈夫だからね……? 帰ったら、直してあげるからね……?」
「アミィ……」
俺はこの少女に何をしてあげられるだろう。今日という日を、最高の思い出にしてあげたい。俺は思い付くまま、アミィの手を持って走り出していた。
「行こう! アミィ!」
「ご、ご主人様!?」
アミィは目を丸くして驚いている。アミィの反応は無理もないけど、今は時間が惜しい!
俺はアミィが付いてこられるギリギリのスピードで園内を駆ける。頼む! 間に合え! どうか、アミィとの最高の思い出を作らせてくれ!
ここが、今日という一日の結果を決める分岐点だ。俺はただあの場所に向かって、アミィの手を引いて走り続けた。
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