「あ~ん」です!
夏樹ちゃん達と高月博士の研究所へ行ってから数日が経った。それからは特に変わった事も無く、平和な日々を過ごしていた。
しかし、断続的に続くアンドロイドの暴走は、まだまだ世間を騒がせている。日夜対応に当たる警察には頭が下がる思いだ。
昌也から聞いた話では、これが今の警察に出来る精一杯の対応だというから、現状の逼迫具合がうかがえる。
季節はというと、まだまだ残暑も厳しいけど、街路樹の葉の色は緑から次第に茶色へと変わり始めていた。
「あ、こっちですよ! ご主人様!」
駅の改札口から出てくる俺を見つけたアミィがこちらに向かってブンブン手を振っている。
「お待たせアミィ、待った?」
「いえ、私もさっき着いたばかりです!」
本当は少し前からアミィが待っていてくれたことは端末で確認済みだ。アミィのこういうところがなんだかいじらしい。
今日は仕事帰りにアミィと待ち合わせてどこかで外食をしようかと考えていた。こういった待ち合わせは初めてだからアミィのテンションはやや高めのようだ。
「アミィは何か食べたいものとかあるかな?」
「いえ、特には。ご主人様にお任せします!」
「それじゃあ、無難にファミレスにでも行こうか」
「はい! 私、ファミレスは初めてなので、楽しみです!」
俺達は空腹を満たすべくファミレスへと向かった。
独り身のときは数えきれないぐらい行ったファミレスだけど、アミィと一緒というだけで心が踊る。
…………
扉に取り付けられたベルの音と共に、俺達は目的のファミレスへと入った。
この時間帯、やっぱり仕事帰りのサラリーマンや、一家団らんを楽しむ家族連れなんかでなかなか混んでるな。
俺達は5分ほど待合の長椅子で待ち、席へと案内された。
「さて、何を食べようか……」
俺はメニューを見ながら唸る。アミィもまた同じ様にメニューを見ながら唸っていた。
「俺は決まったけど、アミィはどうかな?」
「そうですね……私も決まりました!」
「それじゃあ店員さんを呼ぼうか」
俺は店員を呼ぶべく備え付けのチャイムを押した。
…………
「ご注文はお決まりですか?」
「俺はこの季節の野菜を使ったクリームパスタと豆腐サラダを」
「私は……たっぷり生クリームと苺のパンケーキとアイスココアでお願いします!」
「かしこまりました」
これはまた、甘そうなのを頼んだなぁ。やはりアミィは筋金入りの甘党のようだ。
しばらくすると俺達の前に料理が運ばれてきた。仕事帰りの空腹で、俺の口のなかには否が応にも唾がわく。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます!」
俺達はそれぞれ目の前に運ばれてきた料理を食べ始めた。アミィはパンケーキをナイフで小さく切りながら生クリームと一緒に口へと運ぶ。
「ふゎあ……私、こんなに美味しいパンケーキは初めてです。生クリームと苺が口のなかで合わさって、とろけてしまいそうです」
一口食べる度に、アミィの表情が甘さにほころぶ。こんなに美味しそうに食べられたら、毎日でもファミレスに来たくなってしまうな。
食べている間、俺は今日、会社であった出来事なんかをアミィに話したりもした。
俺の話を、アミィは興味深そうに聞いてくれる。やっぱり、一緒に食事をする相手がいるって、いいもんだよな。
…………
「ふぅ、結構量があったな、ごちそうさま」
俺は運ばれてきた料理を平らげた。アミィは想定外の生クリームの山盛りっぷりに苦労しているようだ。
「急がなくていいからね、ゆっくり食べな」
「申し訳ありません……そうだ!」
アミィが何か思い付いたように両手をパンと叩く。そして、アミィが俺に意外な提案をして来た。
「ご主人様も、パンケーキを少し食べてみませんか? あ、でも、私の食べ掛けを食べてもらうのは失礼ですよね……」
アミィが少し顔を伏せて少し申し訳なさそうにしている。でも、俺も丁度甘いものが食べたいと思っていた所だ、遠慮なくいただこう。
「そんな事無い無い。アミィがいいなら、いただくよ」
俺の返事を聞いたアミィの顔がパッと明るくなる。そして、アミィは猛然とフォークを右手に構える。
「解りました! それでは、少々お待ちくださいね……」
アミィはフォークでパンケーキを挿し、左手に持ったナイフでモタモタと生クリームをパンケーキの上に盛る。
そして、そのフォークを真っ直ぐに俺の口元に持ってきたではないか。
これは……
「あ~んして下さい! ご主人様!」
これは……これは……!
「はい、あ~ん!」
まさか、こんな日が来ようとは。可愛いメイドさんからの『あ~ん』! これぞ男の夢! 有り難う、おっかさん!
しかし、やっぱり人前だと女の子の手からものを食べるのは恥ずかしいもんだな。
それでも、このままアミィを待たせるわけにはいかない、俺は意を決して口を開いた。
「あ、あ~ん」
フォークの先のパンケーキにパクリと食らいついた俺の口の中に、生クリームと苺ソースの甘味が広がる。
こんなにも甘く感じるのは、アミィが食べさせてくれたからなのかな。
「うん、美味しいよ、アミィ!」
「それなら良かったです! それでは、もう一口どうぞ! はい、あ~ん!」
俺は引き続き、餌を与えられる雛鳥のようにパンケーキに食らいつく。やっぱり、傍目から見たらこの光景はやっぱり異様なのかもしれないな。
気付けば、周りからクスクスと笑い声が聞こえてきた。それに、周囲からは何だかほっこりとした視線を感じた。
笑いたきゃ笑え、俺は今このファミレスの中で一番の幸せ者だ。俺はアミィに差し出されるまま、甘い、甘いパンケーキを食べ続けた。
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