武藤さんです!
俺とキッカさんが恭平達と海水浴場に行った翌日。俺は今、キッカさんを連れて歩いて高天崎警察署に向かっている。
何でも、俺が救急車を呼んだときに警察にも連絡がいったらしくて、俺達が部屋まで帰ってきてから、警察から昨日の騒ぎについて聞きたいことがあるから来てくれと言われて、今に至るって訳だ。
「それにしても、警察の世話になるのなんて高校生以来だよ。あのときは俺も若かったからなぁ」
「ちなみに、何をやらかして警察のお世話になったのですか? ご主人」
俺の何気ない話に、キッカさんがしっかりと反応する。その顔は、俺を咎めようといった感じではなく、あくまで興味本意で聞いてみた感じだった。
「何って、ただの喧嘩だよ。いや~ 今でこそリーマンとして収まっているけど、俺、昔は結構喧嘩強かったんだぜ?」
俺の自慢話に、キッカさんは過ごし険しい顔になる。ま、もうキッカさんにこんな顔をされるのには慣れたもんだけど。
「そんなもの何の自慢にもなりませんね。私、そのような武勇伝を自慢げに語る男性はあまり好きではありません」
「そんなこと言わないでよ、キッカさ~ん」
俺の自分でも情けないと思ってしまう声に、キッカさんは薄く笑みを浮かべる。
何だかんだでキッカさんは俺が何をしても許してくれる、それは間違いないから俺は安心してキッカさんに何でも話すことができるんだ。
「冗談ですよ、ご主人。さ、そんな下らない話は置いておいて、さっさと用事を済ませて帰りましょう」
俺とキッカさんは、休日の人だかりのなかを歩いていく。そして、俺達は警察署に到着して、とある一室に通された。
…………
俺達がソファーに座って、出してもらったお茶をすすっていると、部屋のドアが開いて、一人のオッサンが入ってきた。
「いや、悪いねぇ、休みの日に時間とってもらってよ。俺の名前は武藤ってんだ。宜しくな!」
部屋に入ってきたオッサンは、警察手帳を俺達に見せてから俺達の対面にドカリと腰掛けた。
そのオッサンは何だかタバコ臭い黒いジャケットを着ていて、タバコを吸わない俺としては少し勘弁して欲しかった。
いや、この独特のタバコの臭い、そしてオッサンのこの出で立ち、俺の記憶の片隅で何かが引っ掛かっている。
そんな俺をマジマジと見たかと思うと、オッサンは手を叩いてから俺を指差した。
「あ! お前! 昔、川原で派手に暴れてた小僧じゃないか! 俺だよ! あのときお前を羽交い締めにしてたポリ公だよ!」
「ああ! あんたは確かにあのときの交番のオッサンじゃねぇか! オッサン、刑事になってたのかよ!」
何てこった。こんな妙な巡り合わせがあるもんかよ。武藤のオッサンは身を乗り出して俺の肩をバンバンと叩く。
「懐かしいな、小僧! いや~ お前も変わってないな!」
「もう俺はガキじゃねぇよ! オッサンこそいつまでそんな時代錯誤な格好してるんだよ! 何だか嫌なこと思いだしちまったじゃねえか!」
俺と武藤のオッサンはあまりに偶然の再開に、わちゃわちゃとじゃれあう。
そんな俺達を、キッカさんは優雅にお茶をすすりながら生暖かい目で見ている。
「武藤様、今日はそのようなことをするために私達を呼んだわけではないでしょう? 早く要件を済ませて戴きたいのですが」
すげぇなキッカさん、初対面の刑事に向かってこの態度。やっぱりキッカさんの度胸は俺には到底制御しきれない。
「あぁ、悪い、確かにその通りだな。すまないな、ええっと……」
「私、キッカと申します。以後、お見知りおきを」
「ああ! 宜しくな、キッカさんよぉ! それじゃあ早速、話を聞かせてもらおうか!」
武藤のオッサンは俺達に海水浴場で何があったのかを聞いてきた。
俺は自分達がアンドロイド達を倒して回ったことは伏せて、海水浴場で何があったのかを話した。
「そうか……やっぱりお前らの話も他の連中と同じか。そりゃそうだよな、解った! それじゃあ最後に聞かせてもらおうか」
そう言った武藤のオッサンの眼光が鋭く俺を捉える。俺は俺の目を真っ直ぐに見据えるその目に、思わず息を呑んだ。
「小僧、お前、俺に何か隠してるだろ。俺だって長年この世界でやって来ているんだ、それくらいは解るってもんさ」
俺は武藤のオッサンに図星を突かれて思わず泡を食ってしまった。そんな俺を見て、武藤のオッサンは豪快な大声で笑い始めた。
「ガッハッハッ! やっぱりそうか! 俺を騙そうなんざ100年早いぞ小僧!」
そして、武藤のオッサンは手を組んで俺の目をじっと見る。その顔は、さっきまでの飄々としたものではなく、間違いなく刑事としての真剣なものだった。
「小僧、悪いようにはしないから、俺に正直に話してくれないか? ぶっちゃけ、俺にはお前の態度から目星はついているんだ。だから、な?」
ダメだ、俺にはこれ以上隠せない。俺は昨日あったことを、武藤のオッサンに包み隠さず話した。
それに伴って、俺達が高月博士と会って色々世話になったこともついでに話した。
さすがに高月博士がウイルスの元凶とドンパチやろうとしていることは伏せたけど。
「そうか、やっぱりあれはお前らがやったのか……」
「でも! あのときは俺達も必死で! ああしなかったらもっとヤバいことになっていたはずだって! だから、アミィちゃんとキッカさんのことは許してやってくれよ!」
俺の訴えに、武藤のオッサンは目を閉じて唸っている。そして、武藤のオッサンは俺の方を見ながら話し始めた。
「お前さんも知っての通り、現代社会の原則では、アンドロイドを傷つけたアンドロイドは、俺達人間と同じようにそれ相応の罪に問われる。それはいいな?」
そうだ、さすがに俺だってそんなことはよく解っている。
アンドロイドも人間と同じように扱われ、その罪は基本的に主人が精算をするわけだけど、アンドロイド自体に何のお咎めもなしって訳にはいかない。
よくて謹慎、悪くて処分。残念だけど、現代の法ではアンドロイドはモノとして処理されてしまうって訳だ。
「だが、今回キッカさんがあんなことしたのは、一応は今流行っているウイルスが原因な訳だから、少し怪我をさせた程度なら特例としてアンドロイドの罪については免除されるだろう。片っ端からアンドロイドの罪を追及していたら現代社会が成り立たないからな! そこのところは安心しな!」
よかった! それならキッカさんは大丈夫だ!
でも、アミィちゃんについては少し事情が違う、これについては俺には看破できない。
「オッサン! アミィちゃんについてはなんとかならないのか? 頼むよオッサン! これじゃあアミィちゃんが可哀想すぎるよ!」
俺の声に、武藤のオッサンは顔をズイっと寄せてくる。そして、武藤のオッサンは声のトーンを落として、俺に言った。
「小僧、この話、俺だけにしか言ってないよな? 今回のところは俺の方でアミィちゃんもウイルス感染者ってことにしておくから、絶対に他言するなよ! 解ったな!」
「オッサン……!」
よし! これでアミィちゃんもひとまず大丈夫だ! 俺が安心していると、キッカさんが武藤のオッサンに尋ねる。
「武藤様、アンドロイドである私がこんなことを言うのもなんなのですが、そもそも警察の方でウイルスの拡大を未然に防ぐよう各方面に呼び掛ければ済む話なのではないでしょうか? 私には現状はとてもじゃないですが警察が機能しているとは思えなくてなりません」
キッカさんの言うことは確かにその通りだ。そんなキッカさんの質問に、武藤のオッサンは頭を掻きながら答えた。
「そう言われると俺達としても痛いところなんだよな。まぁ、今回の海水浴場での件は国内最大の規模だったからと言い訳したいところではあるんだが。しかも、俺も話でしか聞いていないから詳しくは解らないんだが、どうもこのウイルスの性質が厄介でな……」
武藤のオッサンは知っている限り、ウイルスの特性について話してくれた。
「このウイルスはな、定期的なウイルススキャンにも引っ掛からず、まるで透明な爆弾みたいに、発症してから初めて狂暴性を露にするものらしいんだ。だから、俺達も事前に対策を打つのには限界があるんだよ。ウイルスの特性上、人間が対応に当たるしかないのもマイナス要因だな」
それじゃあ、確かに武藤のオッサンの言う通り、まさに透明な爆弾だ。こんなものを抱えたアンドロイドが普通に生活するなんて恐怖でしかないだろう。
「発症してから一週間ほどでウイルスは自然に消滅するもののようだから、感染したアンドロイドの電源を切っておけば問題ないのだけが救いだな。今の俺達に出来るのは、通報を受けて暴走したアンドロイドの電源を何とかして切ることしかないんだよ」
確かに、ニュースでそんな対策法を言っていた気がするけど、アンドロイドが暴れだすのは大体突然だから、対策法はあってないようなもんだ。
「では、さっさとセキュリティ会社にウイルスの対策を講じるよう命じたらいかがですか? それが一番効果的だと思いますが」
そのキッカさんの質問に、武藤のオッサンは渋い顔をする。そして、武藤のオッサンは俺達に向かって、ゆっくりと話し始めた。
「本当は、こんなことカタギの人間に言うべきじゃないんだが、どうも上層部が今回の件の対応を渋っているみたいなんだよ。現場だってそうだ、本来ならもっと今回の件についても人員を増員して当たらないといけないはずなんだ。実はな、俺は今回の件について何だかキナ臭いものを感じていてな、上層部の目を盗んで独自に捜査を進めている最中なんだ」
何だ? 何だか難しい話になってきたぞ? 俺が少し混乱していると、武藤のオッサンが話を切り出した。
「そこでだ、お前さんにお願いがあるんだ。さっきお前さんが話した高月博士に、俺の連絡先を渡してほしいんだ。さっきの話だと、アンドロイド二人があんなことやったのも高月博士が原因なんだろ? 高月博士は何かしらこのウイルスの対応方を知っていそうだから、何か現状を打開する方法が解るかもしれない。今日お前さんらと会えたのも何かの縁だ、頼むよ、小僧」
「それがものを頼む態度かよ、まぁ、いいや。この話、オッサンもあんまり口外しないでくれよ! 俺はオッサンだから話したんだからな!」
「解ったよ、約束するよ、小僧」
「だから、その呼び方がだな……」
俺とキッカさんは、またデカイ声で笑いだした武藤のオッサンを背に、警察署の一室から出ていった。
今回武藤のオッサンと会って話した件については、改めて恭平にも話しておかないといけないな。
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