「マリンの秘密」です!
「お待たせ、検査とメンテナンス、終わったよ」
俺達は高月博士の研究所に来ていた。マリンちゃんの検査が終わり、高月博士がいつもの応接室に入ってきた。
「やっぱり感染してたよ、まぁ適切に処理したから安心しなさい」
高月博士は夏樹ちゃんの肩にポンポンと手を置きながら夏樹ちゃんに声をかける。そして、高月博士は俺達の対面のソファーに腰掛け、話し始めた。
「それにしても、真っ先に私の所に連れてきたのは正解だったよ。音声出力に関する箇所の調整はシビアなんだ。とてもじゃないが他人に娘の声をいじくられたら堪ったものじゃない!」
高月博士は大袈裟なジェスチャーで冗談めかしながら続けた。
それでも、恐らく今の言葉は本気だろう。それは前にアミィを診てもらったときの高月博士の言動から読み取れる。
「特に3373型は声が命だからね。私が完璧に直しておいたよ。今後の事を考えて喉周りの人工表皮の補強もしておいたよ」
「あ、あの! すみません、高月博士!」
高月博士の話を聞いたマリンちゃんは、少し遠慮気味に口を開く。
そして、マリンちゃんは高月博士に海水浴場のステージ裏でアンドロイドと対峙した時の事を話した。
「私、あのときは気が動転して、何が起きたのか解らなくて。私、一体どうしちゃったんですかね? 高月博士」
やっぱりマリンちゃん、表情が何だか不安そうだ。高月博士は少し考えてから、マリンちゃんの質問に答えた。
「恐らく3373型の特徴に関わる事だろうね。3373型の特徴は言わずもがな『声』だ。まぁ正確には『音』と言った方がいいかな。一般的なアンドロイドはスピーカーから音を出力する前にアンプで音を増幅する訳だが、3373形のメイドアンドロイドは極低抵抗のスピーカーに対して多重的に音を増幅して極限まで音量を高める事が出来、口腔を砲身として指向性を持たせ音速で撃ち出す事が出来る。言わば音の大砲さ」
俺達は高月博士のちょっと聞き慣れない単語が混じった話に聞き入る。特に、夏樹ちゃんとマリンちゃんは身を乗り出して食い入るように高月博士の話を聞いている。
「ウイルスに感染したことでリミッターが外れた訳だ。夏樹さんが無事だったのは運が良かった。下手をすれば聴力を失う事だって考えられた。マリンちゃんはそれだけの力を扱えるようになった訳だ。まぁそんな設計をした私が言えたことではないがね」
夏樹ちゃんとマリンちゃんは顔を青くしている。そんな様子を見て、高月博士は明るい声で二人に話しかけた。
「なに、そう暗くなることはない。今の話はただ、マリンちゃんにはそういったことが『出来る』ということだけの話、アイドル生活にはな~んの問題も無いっ!」
高月博士は過剰に笑いながら二人の方に顔を向ける。それでも、夏樹ちゃんとマリンちゃんはまだまだ不安そうだ。
「いや、ちょっと脅かしすぎたかな。済まない二人とも! 私が悪かったよ!この通り!」
高月博士は頭の上で手を合わせて、深々と頭を下げる。話の内容と高月博士の態度のギャップに、俺達は何だかしらけてしまった。
「高月博士……そんなことするくらいならあんなに脅かさなければよかったのに……」
「いや、普通に怖ぇよ……二人とも声が商売道具なんだから、あんなこと言われたら萎縮するに決まってるじゃねえか……」
「夏樹さん……マリンさん……気を落とさずに……」
「今の話、恐ろしいものですね。例えるならば、いつ爆発するか解らない爆弾を喉に抱えているようなもの。私なら恐ろしくてしゃべることもできません」
いや! キッカさん! 今はマジで止めて! 全く、キッカさんのこのストレートな物言いは聞いているこっちがヒヤヒヤしてしまう。
「高月博士~! 一つ聞きたいことがあるんだけど」
そんな緊迫した空気の中、昌也が大袈裟に口を開いた。いいぞ、昌也、お前の手腕でこの空気を何とかしてくれ。
「何かね? 関くん」
「俺もマリンちゃんと同じように、キッカさんの特徴について知りたいんだけど! いや、あの海水浴場でのキッカさん、本当にスゴかったから、俺、気になって気になって」
おいおい、昌也、それは今のタイミングで聞くことか? 気持ちは解らないじゃないけど、また同じような空気になるんじゃないか?
「キッカさんの秘密か……知りたいかね? 諸君」
高月博士がニタリと笑う。何だこのオッサン!
その顔を見た昌也は恥ずかしいくらいの大声で答える。
「知りたい知りたい! 教えてくれよ、高月博士!」
「それではお教えしよう、キッカさんの秘密について!」
何だか妙なノリになってきたぞ。しかし俺も少なからず気になる話だ。俺達は大人しく、高月博士の話を清聴することにした。
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