砂上の攻防
目の前にあの時のアミィがいる。俺は思わず、俺を守るように立つアミィに言った。
「アミィ……だよな?」
「あぁ、そうさ」
アミィはあの時と同じ自信を帯びた笑みで、俺の質問に答える。そうだよな、それでも、俺にはやっぱり信じられない。
「そんな事より、今はこの場を切り抜けるぜ! 恭平! 俺の後ろから離れるんじゃないぞ!」
アミィが前に向き直り、拳を合わせる。その目は鋭くアンドロイドを見据えている。
「ウゥゥゥ……」
目の前には数体のアンドロイド、アミィの目の前をフラフラしながら近づいてきて、少しかがみ気味の態勢で、今にも飛びかかってきそうだ。
アミィはそんなアンドロイド達を前に、周囲を警戒しながら俺の前に立って攻撃に備える。
この状況を、俺はまだよく飲み込めていなかった。アミィも心配だけど、昌也とキッカさんも心配だ。
とにかく、俺は辺りを様子を見回した。よかった、既に観客のほとんどは避難し終えたようだ。
しかし、さっきまで近くにいた昌也とキッカさんの姿がない。もしかしたら、もう安全なところまで逃げることが出来たのかな。
そんなことを考えていると、俺の後ろから甲高い金属音が響いた。音のする方を振り替えると、昌也と刀を抜いたキッカさんがいた。
「大丈夫ですか? ご主人」
キッカさんの表情はいつも通り、この場に似つかわしくないほど落ち着いている。それに対して、昌也の顔にはひきつった表情が張り付いていた。
「あっぶねぇ……ありがとう、キッカさん、助かったよ」
「危険ですので、私の後ろに居てください、ご主人」
どうやらキッカさんがアンドロイドを抜き身の刀で弾き返したようだ。しかし、アンドロイドは再び立ち上がりキッカさんを見据えている。
そのアンドロイドの肩口には配線が剥き出しになっていて、バチバチと火花を散らせていた。
「おい、キッカ、やりすぎだ! 丸腰の奴を抜き身の刀で切りつけるやつがあるか! 刀を使うのは得物持ち相手だけにしろ!」
アミィがキッカさんに向かって、いつもとは似ても似つかない口調で叫ぶ。同じ声のはずなのに、口調が変わるとここまで別人に聞こえるものなのか。
「狙うなら鳩尾だ! 上手くやれば一発で済む! 出来る限り怪我はさせるんじゃねぇぞ! 後々面倒だし、何より何も落ち度がない奴が怪我するなんておかしいだろ?」
そうだ、アミィの言う通りだ、そこまで頭が回るとは、アミィは冷静だ。
確か、アミィの電源スイッチは鳩尾にあったはずだ。しかしそれはアンドロイド全般に言えることなのだろうか?
「っ……! 確かに、とっさのことで気が回っていませんでしたね、解りました、気を付けます」
キッカさんはいつものアミィとのあまりの違いに目を見開いて驚いている。無理もない、いつものアミィとは落差がありすぎるからな。
俺がアミィの方に目をやると、アミィの目の前にいたアンドロイドのうちの一体がアミィに向かって飛び出してきた。
周囲には観客が座っていたパイプ椅子が散乱していたが、それをお構いなしにアミィに向かって一直線に進んでくる。
踏まれて歪むパイプ椅子、普通じゃない。暴走しているアンドロイドの力は通常より強化されているようだ。
そして、アンドロイドは拳を振り上げて、奇声を発しながらアミィに飛びかかる。
「オァァ!」
「フン、いくら力が強かろうが触れられなければ意味ねぇよ。ちょっと足元が動きにくいが、それでもお釣りが来る」
アミィは迫るアンドロイドの拳を全く動じることなくひょいとかわす。拳をかわされたアンドロイドは、勢いを殺しきれずにたたらを踏む。
そして、アミィは砂を蹴ってパイプ椅子がない位置まで移動する。その足運びは、まるでアンドロイドがどこに飛びかかって来るかが事前に解っていたかのように流麗だった。
「おい、そっちは恭平がいるから行ってくれるなよ」
アミは足元を数度踏み固め、勢いよくアンドロイドとの間を詰める。そして、アミィの声に反応したアンドロイドの振り向き様に合わせて、アミィが懐に入り込む。
「悪いな、勘弁してくれよ。少し眠ってもらうだけだから、な」
アミィが少し優しめの口調でアンドロイドに語りかける。その直後、アミィの一撃がアンドロイドの鳩尾にめり込んだ。
「アガッ……!」
アミィの一撃を受けたアンドロイドが砂の上にうつ伏せに倒れ込んだ。アミィの言う通り、鳩尾への攻撃は有効みたいだ。
アンドロイドが倒れたときに巻き上げた砂がアミィの白い水着に付着し、それをアミィは手でパンパンと払う。
それを見た他のアンドロイドは後ずさりしながら少し怯む、どうやら自らの危険を察知する程度の本能は残っているようだ。
その隙を、アミィは見逃さない。アミィは再び足元の砂を踏み固めて、アンドロイドに詰め寄る準備をする。
「ま、お前らにも少し眠っててもらうぜ。加減はするから、悪く思うなよ」
アミィは砂を巻き上げながら、倒れたパイプ椅子を飛び越して、真っ直ぐにアンドロイドの懐に飛び込む。
そして、先ほどと同じようにアンドロイドの懐に潜り込み、鳩尾を射抜く。
「すまねぇ、これもお前らのためだ」
アミィの拳を受けたアンドロイドは、倒れた衝撃で砂を巻き上げながら崩れ落ちた。背中ごしに見えたアミィの表情は、何だかばつが悪そうにも見えた。
俺はふと、昌也とキッカさんの方に目を向ける。キッカさんは、昌也を背後にアンドロイド達と対峙していた。
「それでは、これは使えませんね」
キッカさんは刀を箒に納めて、柄をアンドロイドの方に向ける。これなら必要以上にアンドロイド達を怪我させることもないだろう。
「少し速度は落ちますが、まぁ、この程度の相手であれば十分でしょう」
キッカさんは箒を片手で肩越しに構えて、アンドロイド達を見据える。その視線は、アンドロイド達の本能に訴えかけるかのように鋭く光る。
実際、アンドロイド達はキッカさんの視線にたじろいているようだ。キッカさんの瞳が持つ圧力は本能すら凌駕するのか。
「疾風!」
キッカさんはアミィのアドバイス通り、アンドロイドの鳩尾への正確な突きを繰り出す。前に駅前で見たほどの切れはないけど、それでも十分にアンドロイドには通用している。
キッカさんの目の前にいたアンドロイド達は、柄の先端で鳩尾を突かれ、完全に動きを止めて棒立ちになる。あまりに静かなその一連の流れは、何だか異質なものだった。
その直後、キッカさんの背後の昌也を狙って複数のアンドロイドが飛びかかってきた。
「「キィィ!」」
「!! ご主人! こちらへ!」
それにいち早く気づいたキッカさんは、昌也の腕を引っ張る。足を震わせながら引き寄せられる昌也。その顔は、引っ張られる直前まで自分がいた場所にアンドロイド達が殺到したのを見て青ざめていた。
「ゴメン、キッカさん、助かったよ」
そんな昌也を、キッカさんは薄く笑みを浮かべて叱咤する。この状況に似つかわしくない、何だか少し楽しそうな笑みだ。
「まったく、やっぱりご主人は私がいないとダメですね。ご主人は私の側を離れず、ビクビクしていてください」
「あぁ、解ったよ。ゴメンな、キッカさん」
こんな状況でもキッカさんの辛辣さは変わらないな。それに素直に従う昌也は何だか情けないけど、この状況では仕方ないか。
それでも、キッカさんは昌也のことを必死で守ろうとしていることは、さっき昌也の手を引っ張ったときのキッカさんの表情でよく解った。
「さて、一気に決めてしまいましょう。所詮は理性のない烏合の衆、その動きを捉えるなど造作もありません。最も、彼らはその場から動くこともできないようですが」
キッカさんの言う通り、アンドロイド達はキッカさんの視線に縛り付けられている。
まるで蛇ににらまれた蛙だ、アンドロイド達の表情は何かに恐怖しているかのように歯をカタカタと鳴らしている。
「山嵐!」
キッカさんはそんなアンドロイド達へ素早く連続で突きを繰り出した。その全てが、寸分違わずキッカさんの目の前に対峙しているアンドロイド達の鳩尾へと吸い込まれていった。
キッカさんがアンドロイドに突きを放つ度に、真っ赤なビキニに包まれたキッカさんのFカップはあろう豊満な胸がブルンと揺れる。
いかん、こんなときに俺は何を考えているんだ。アミィが守ってくれているとはいえ、俺もすぐにアンドロイドの動きに反応できるようにしておかないと!
「すっげぇな、キッカさん。こんな姿を見たら俺、キッカさんのことをますます好きになっちまうよ」
昌也はキッカさんの後ろで、初めて見る自分のメイドが戦う姿に口をポカンと開けて驚いている。
無意識に出たであろう昌也の発言に、キッカさんはわずかに顔を赤くして答えた。
「い、いえ、この程度、どうと言うことはありません。何せ、相手は動かないのですから」
それからも、まるで時間を止められたかのように固まるアンドロイド達を、キッカさんはただ事務的に処理していった。
アミィとキッカさんの強さは、やはり尋常ではなかった。こんな調子で暴走するアンドロイドの数はみるみる減っていった。
…………
「ふぅ……これで最後か」
最後のアンドロイドの処理を終え、アミィが額をぬぐう。
周囲は機能が停止したアンドロイドと所々倒れたパイプ椅子だけになった。俺が見た限りでは、周囲には怪我をした観客もいないようだ。
そして、アミィが少しもの悲しそうな表情でその場に佇む。このアミィの様子、恐らく今のアミィが元のアミィに戻る予兆だ。
「そろそろだな……それじゃあ悪いが後は頼ん……だ……」
あの時の同じくアミィの目から生気が抜け、すぐに戻った。生気が戻ったアミィは少し狼狽しているようだった。
「私、またやってしまったんですね……」
すかさず俺は、目を伏せて落ち込むアミィをフォローする。
「もしアミィが守ってくれなかったら危なかったよ、ありがとう」
俺はアミィに駆け寄り、アミィの頭を撫でた。そのか弱い姿は、もう完全にいつものアミィだった。
「だからアミィは何も心配しなくていいんだよ」
「はい、ご主人様……」
アミィは目に涙をためながら頷く。
「さて……後は警察に連絡かな?」
この騒ぎの大きさなら、もう既に誰かが連絡しているだろうけど。俺が携帯を取り出し、電話をしようとした、その時だった。
ドォン!!
ステージの方から、とても大きな重低音が聞こえた。その音の大きさは、俺達が居る場所からでも空気の振動を感じるほどだった。
「何だ!? 今の音は!?」
「今の音、ステージからだろ? ちょっと行ってみようぜ!」
俺と昌也は音のしたステージへと急いだ。足元に倒れているアンドロイド達を避けながら、俺達は走る。
「わわわ、待ってくださ~い」
「……」
アミィとキッカさんも俺達に続き走り出す。俺の頭のなかは、ある考えで一杯になってしまっていた。
もしステージに人が残っていたとしたら。暴走したアンドロイドに、人が襲われたりしていたら。
そんな不吉なことを考えながら、俺はただひたすらステージに向かって走り続けた。
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