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【旧】アミィ  作者: ゴサク
十章 覚醒するメイド達
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君は、誰?

 夕日が沈みかけた公園で、さっきまでの騒動の熱が引いてきた俺の頭は、少し冷静さを取り戻しつつあった。そして、俺は隣にいるアミィに改めて目をやった。


 痛々しく凹んだ腹部、所々が破れ、布の面積が半分近くむしりとられたメイド服、そして、いつもの海を思わせるような青髪からはかけ離れた、桜色の髪。


 夕日を浴びてキラキラと光るその髪は、まるでアミィの周りの季節だけが春になったかのような錯覚をしてしまう程の美しさだ。それでも、秋口の外気の冷たさで、俺の意識が元の季節に戻ってくる。


 そんな俺の視線に気づいたアミィは、俺の視線に自分の視線を合わせる。その目は、髪の色とはまた違った意味で美しい、揺らぐ焚き火のような、燃える茜色をしていた。


 何も言わないアミィ。その顔は、さっきまでのダイクとの戦いの最中の、ある種の狂気を感じるような笑みでもなく、戦いの後に見せた爽やかな笑みでもなく、少し物悲しさを感じる笑みを浮かべている。


 アミィは何も言わない。ただ俺の目を見つめる。そんな目で見つめられたら、今、俺が聞かなきゃいけないことが言いづらくなってしまうじゃないか。それでも、聞かなきゃ。こんな機会がこれから先あるか解らないから、今、聞かなきゃ。


 そして、俺は、一度唾を飲み込んで、目の前にいる、いつも一緒に過ごしてきた、ボロボロのメイドアンドロイドに、目を逸らさず、こう尋ねた。


「君は、誰なんだ?」


 そう、俺の目の前にいるのは、アミィじゃない、アミィじゃないんだ。いや、それは前から薄々解っていたことだった。それでも、俺はこの質問をするのが怖かったんだ。


 いつもはそれを聞く間もなく、元のアミィに戻ってしまうから、聞けず仕舞いだったこともあるけど、それでも、『アミィはアミィだ』と、無理やり納得していたんだ。


 それでも、このアミィの代わりようを目の当たりにしてしまったからには、もう、このアミィに対する疑問を握りつぶすことなんて、できない。


「しょうがない、か」


 そんな俺の問いに、目の前のメイドアンドロイドは、頭を掻きながら、少しバツの悪そうな顔をする。そして、目の前なメイドアンドロイドは、こう言った。


「解った、話すよ。とは言っても、話せることはそう多くはないけどな。取り敢えず、なんか暖かいもんでも飲みながら話さないか? 立ち話するにはちょっと長くなりそうだから、な?」


 確かに、立ちっぱなしで話すには気温が低すぎる。かと言って、部屋に戻るまで、アミィ(?)の今の状態が持つとは限らない。こうして、俺とアミィ(?)はその場を離れ、どこか落ち着ける場所へと伊藤する。


 その間、二人の間に会話は無かった。何度か一緒に並んで歩いた場所のはずなのに、俺は隣にいるメイドアンドロイドがアミィなのかアミィじゃないのかハッキリしない状態なもんだから、妙な居心地の悪さを感じてしまっていた。


 ………………


「はい、アミィ」


「ああ、ありがとう、恭平」


 俺とアミィ(?)は、屋根付きのベンチの下、薄暗い公園で、街灯の光を浴びながら、暖かいコーヒーで暖をとる。俺は気分を少しでも落ち着かせるために、コーヒーをグッと一息に飲み干す。


 そして、その隣では、アミィ(?)がミルクココアのペットボトルを手の平で転がしている。どうしたのだろうか、一向に飲もうとしない。


「どうしたの? 飲まないのかい?」


 そんな俺の問いに、アミィ(?)は少し申し訳なさそうに、控えめに笑いながら答える。


「あ~ いや、実は、俺、甘ったるい飲み物はちょっと苦手でな。先に言っとけばよかったな、悪かった、恭平」


「あ、いや……」


 アミィは大の甘党、ミルクココアは大好物だ。でも、隣に座っているメイドアンドロイドはそうじゃない。つまり、そういうことなんだろう。この現実に、俺は改めてうちひしがれる。


 そんな俺の気持ちを察してか、僅かな沈黙のあと、ペットボトルを手の平で転がしながら、アミィ(?)は俺のさっきの問いに答える。


「こんな答えじゃ納得してもらえないのは解ってるが、さっきの質問に強引に答えるなら、『俺はアミィでもあるし、アミィじゃない』だな。本当に、こうとしか言えないんだよ、悪いな、恭平」


 もちろん、こんな答えが帰ってくることも想定はしていた。それでも、『はい、そうですか』と割り切れるほど、俺はドライな人間じゃない。とにかく、今は隣で俺と話しているアミィに俺が抱えている疑問に答えてもらうしかない。


「それじゃあ、いくつか聞いてもいいかな? あ、その……」


「ああ、呼び方なら、これまで通り『アミィ』でいいよ。そっちの方が恭平も呼びやすいだろうし、第一、俺が何者なのかもハッキリしないんだ」


 今の口振り、やっぱり基本的には、今、俺と話しているアミィはいつものアミィとはまったく別の人格な訳だ。取り敢えず、その切り口から攻めてみよう。


「えっと、つまり、一般的な二重人格みたいなものってことかな? 正直、二重人格の人間にすら会ったこと無いからよく解らないんだけどね」


 高月博士曰く、アミィが急に性格が変わってしまうのは一種のバグのようなものって話だったけど、性格が変わるのと人格が変わるのとではえらい違いだ。ここはハッキリさせないと!


「ああ、俺もそれが一番しっくりくると思う。でも、俺の感覚だと、俺の思う一般的な二重人格とはちょっと違うんだよな。うまく説明出来ないんだが、俺と恭平がいつも一緒にいるアミィは、コインの表裏みたいに、ハッキリした二重人格じゃないっていうか……」


 そう言ったアミィは、何とかうまく説明しようと思考を巡らせているようだ。俺は黙って、アミィの邪魔をしないように気長にアミィの考えがまとまるのを待つ。


 そこで、俺は気付いた。アミィの髪の毛先が桜色から、いつものアミィの青色へと戻っていることに。


「そうだ、『人格の濃度』なんて表現がいいかもな。前に何度か俺が()()()()ときが『20パーセント』なら、今日の俺は、『40パーセント』って感じ。これならこれからの話も説明がつくと思うんだ」


 こうして、アミィ自身による、自分についての謎の仮説が語られる。その間も、アミィの髪の色はまるで導火線のように毛先から根本に向かって青色へと変わっていく。


「実はな、俺、普段、アミィ、あー、いつも恭平が一緒にいる方のアミィの方な? そっちのアミィとどんな会話してたのかとか、俺もある程度は知ってたりするんだ。だから、恭平の名前なんかを知ってたわけだ。それで、俺が『恭平がヤバイ!』と思ったりしたら、俺の『濃度』が濃くなって、表に出てくるってわけよ」


 確かに、それなら、前にアミィが言っていた、『自分が何をしたのかボンヤリと覚えている』って話にも一応の裏付けは出来るわけだ。それにしても、こっちのアミィは、荒っぽい性格だとばかり思っていたけど、こうして話してみると、結構頭の回転も速そうだ。


「今回の場合、いつもの『濃度』じゃ、前に殴り倒した雑魚どもみたいにはいかなそうだったから、自発的に『濃度』を濃くしたってこったな。今回は今くらいの『濃度』で何とかなったから助かったよ」


 ちょっと待ってくれ、今の話は聞き捨てならないぞ。今の話が事実なら、俺はこのことをハッキリさせなくちゃいけない。


「待って、つまり、君は、()()()()()()()()()調()()()()()ってことだよな!?」


 そう、それはつまり、やろうと思えば、普段のアミィに成り代わり、自分が表に出てこられるってことだ。それはつまり、『実質的なアミィの消滅』という事態と同義だ!


 もちろん、今のアミィには何度も助けられてきたし、今のアミィだってこうしてじっくり話してみれば、自信に満ちていて、理知的で、いつものアミィとはまた違った魅力を感じる。


 それでも、ドジで少し抜けていても、何にでも真剣で、表裏のない、俺の大事な、大事な彼女が消えてしまうなんて考えたくもない! そんな俺の考えが表に出ていたのか、アミィは俺に笑いかけながら言った。


「あ、いや、恭平が今、考えていることはその慌てぶりからよく解るよ。取り敢えず言っておけば、今、恭平が考えているような事態にはならないと思う。そこはひとまず安心してくれていい。それについても説明するから」

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