BANG!
アミィはダイクから距離を取り、ダイクが立ち上がるのを、軽く拳を握り、ステップを踏みながら待っている。そして、ダイクはそんなアミィに答えようと、少しずつ立ち上がろうとする。
「ぬぐっ、ぐああっ!」
ダイクの体が起き上がる度に、腹部からショート音と共に煙が上がる。しかし、下半身や腕はほぼ無傷。一瞬の勝負のアヤによってはどうなるかも解らない。それに、さっきの言い方だとまだダイクには隠し球がありそうだ。
やがて、ダイクは苦悶の表情を浮かべながらもしっかりとした足取りで立ち上がる。そして、アミィに向かってニヤリと笑うと同時に、体から湯気のようなものがユラユラと立ち上り始めた。
「はぁっ……はぁっ……! 待たせたな、お嬢ちゃん。それじゃあ、俺も最終形態って奴を見せてやろうか! うおおおおっ!」
ダイクは渾身の唸りを上げながら、四本の腕をバッと開き、そのまま背中の方へと下げていく。すると、左側の腕が背中を経由して右側に移動し、四本の腕が右側に集まった。
更に、その腕全てがバラバラの繊維状になって絡まりあい、やがて一本の巨大な腕になった。その腕はさっきダイクの腹部のように黒く、ダイクの胴ほどの太さに加え、拳の大きさは、もはやダイクの顔の数倍はあろうかというものだった。
「これが俺の秘中の秘、『魔神腕』だ。正直、長くは持たねぇから、必死こかせてもらうぜっ!」
そして、ダイクは巨大な腕を振りかぶり、先ほどと同じ様にその場でアミィに向けてストレートを放つ。しかし、その迫力は先ほどまでとは段違いだった。
「喰らいなっ! 『伸身魔弾』っ!」
ダイクから放たれたストレートは、直線的な軌道でアミィに向かって飛んでいく。その拳からは唸るような風切り音が鳴り、その風圧、遠く離れた俺のところまで届くほどだった。
「ハッ! なんだ、まだまだやれるじゃねぇか! だが、それじゃあ腕がデカくなっただけで、結局さっきまでと変わらねぇよっ!」
そう言いながら、アミィは超高速で迫る腕を大きめのステップで避ける。そして、その直後にアミィがいた場所を、ダイクの漆黒の剛腕が通過する。しかし、ダイクの攻撃にはまだ先があった。
「ごもっともだ! だが、それがそうじゃないんだな、これが!」
ダイクの声と共に、ダイクの腕が再びバラバラの繊維状になる。その一本一本は細いけど、その本数は10や20じゃきかなそうだ。そして、その繊維が鞭のようにアミィに襲い掛かる。
「なるほど、量より質と思わせてからの、搦手か! いいねえ! こうでなくっちゃあ、面白くねぇよなあっ!」
アミィはニヤリと笑いながら、さっきと同じ様に腕で繊維を払おうとする。しかし、あまりにも本数が多すぎる。初めはフットワークを交えて上手く避けていたけど、やがて繊維の一本がアミィの足に深々と絡み付いた。
「ぐあっ!」
アミィは苦悶の表情を浮かべながらも、何とか繊維を振りほどこうとするけど、その間にまた一本、また一本、アミィの身体中に繊維が絡み付いていく。
「マズイな、これはほどけねぇ。さて、どうしたもんかね」
「さ~て、ようやく捕まえたぜ、お嬢ちゃん。形勢逆転、今度はこっちからさっきのお返しをしないとなあ!」
ダイクは勢いよく伸ばした繊維を縮めてアミィを自分の方へと引っ張っていく。アミィは何とか地面に食らいついて踏ん張っているものの、少しずつズルズルと引き寄せられていく。このままじゃアミィが!
俺は、無理を承知でアミィを何とか逃がそうと、ダイクの方へと駆け出そうとした。しかし、それを察知したアミィが、落ち着き払った声で俺を制止する。
「焦るなよ、恭平。お前じゃこいつはどうにもならねぇだろ。それに、俺はまだやれる。だから恭平はそこで黙って見てなって」
俺はその場で立ち止まり、アミィの言う通りにした。アミィの言う通り、俺はアミィを信じて、黙ってアミィを見守ることにした。こんな状況でも、アミィは冷静そのものだ。
「さあ! こっちに来なっ、お嬢ちゃん!」
ダイクが更に勢いよく腕を引っ張ると、ついにアミィの体が宙を舞う。そして、そのままダイクの腕が元の一本の巨大な腕に戻り、アミィがダイクの目の前に吊り下げられる形になった。
「やあ、お嬢ちゃん。気分はどうだい?」
右足を掴まれ、頭を下にして吊り下げられているアミィは、ニッと笑いながらダイクの問いに答える。
「ま、いい気持ちはしないわな。しっかし、これからのことを考えるとゾッとするぜ」
「ほう、まだ軽口を叩ける余裕があるのかい。どうだい、お嬢ちゃん。泣いて許しを乞うってんなら今からでも解放してやるぜ」
ダイクからの提案に、アミィはククッと笑いながら質問で返す。
「お前、何を躊躇ってるんだ?」
「いや、俺はなにも躊躇ってなんか……」
「その反応、図星だな。本当はお前には俺を破壊する気なんて無いんだろ? 正しくは、今のお前には、な」
「お、お嬢ちゃん、今お嬢ちゃんが置かれている状況が解ってるのかい? 俺がその気になれば、このままお嬢ちゃんの足を握りつぶすことだって出来るんだぜ?」
「だから、何でさっさとそうしないかって言ってるんだよ。しかも、足だけ? 本当は俺の体ごと握りつぶせるだろうに、そうしない」
そうだ、アミィの言う通り、この状況、本来ならもう勝負はついている。それでも、アミィは余裕の態度を崩さない。そして、その理由に、俺も薄々気付いてる。
「ぬう……!」
「まあ、それはいいや。それはそうと、お前に一つ聞きたいんだが、何で俺の腕を自由にしてるんだ? 本来なら真っ先に封じておく所だと思うんだがな」
アミィからの突然の質問に、ダイクはもはや理詰めで叱咤されるのに対して、子供が言い訳をするように、モゴモゴと答える。
「それは、この状況じゃもう何も出来ないだろうから……」
「そりゃ嘘だな。お前は俺を極力傷付けないようにしているのさ。さっきのボディへの一撃もそうさ。本気で殴られてたら俺は間違いなく壊されていたよ」
アミィはそう言いながら、ダイクに向けて右拳を付き出した。宙ぶらりんの状態で拳を突き出すアミィと、それに対して何も行動しようとしないダイクの姿からは、妙なシュール感が漂う。
「お互いもう余力もないだろうし、そろそろこの喧嘩もお開きにしようぜ。大丈夫、お前の代わりに俺がこの喧嘩に幕を下ろしてやるから」
「……何の真似だい、お嬢ちゃん。俺に拳を向けたりして。そんな無造作に拳を差し出されたんじゃ、逆に怪しくて手が出せねぇって」
「まあ、そういうことにしとくか。それにしても、久しぶりにヒリつく喧嘩が出来て楽しかったよ。本当に、楽しかった、楽しかった。なあ、ダイク」
「……へっ」
アミィは、もはや棒立ちのダイクに向けて、右拳を向ける。キリキリと縮んでいくアミィの右腕。更にアミィの右腕がギリギリと、ギリギリと、あらぬ方向に捩れていく。
「BANG!」
アミィの呟きと共に、破裂音を伴ってアミィの右腕が勢いよくダイクの顔目掛けて飛んでいった。まるで大型のライフル弾のように回転しながら飛んでいくアミィの右腕。その右腕は、危なげなく、ダイクの下顎に、甲高い金属音と共に、命中した。
「あがっ……!」
ダイクはその場でたたらを踏み、アミィの右足から手を離す。そして、そのままダイクはゆっくりと後ろに倒れる。巨大な右腕はというと、繊維状にバラバラになり、不規則に地面に散らばっていた。
アミィは空中でクルリと回転し、地面へと舞い降りる。そして、その場に落ちた右腕をガチャリとはめ直し、右手の感触を確認するように握ったり開いたりしていた。
「ふうっ! あれだけ近かったとはいえ、バッチリ当たってくれてよかったよ。これは一発限りの奥の手だからな」
軽いノリで笑うアミィ。そして、アミィは倒れたダイクにスッキリとした笑みを浮かべながらさっきと同じ様に手を差し伸べた。
「喧嘩は終わりだ。もういいだろ? さ、掴まりなよ、ダイク」
その手を、ダイクは繊維状になった腕の一部を何とか一本の腕にまとめあげた。そして、ダイクは差し伸べられたアミィの手をしっかりと掴み、上半身を起こす。
「ああ、俺の負けだ。お嬢ちゃん」
こうして、アミィとダイクの勝負はアミィに軍配が上がった。緊張感から解放された俺は、気が付いたら二人のもとに駆け寄っていた。
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