桜色の髪、空色の瞳
「ぬうんっ!」
ダイクが唸りを上げると、背中のハッチが開き、中から二本の腕が伸びてくる。そしてその腕はダイクの両脇まで移動し、ダイクの腕が四本になった。
「待たせたな。これが文字通り俺の奥の手、『阿修羅』だ。それじゃあ、始めようか、お嬢ちゃん」
そう言って、ダイクは四つの拳をゴツンと鳴らす。そんなダイクの変貌を見据えていたアミィは、腕を組んだままで不敵な笑みを浮かべる。
「何だ、てっきり武器でも出すのかと思ってたんだがな、腕が増えるだけとは、少し拍子抜けだぜ」
アミィの軽口じみた言葉に、ダイクは真剣な面持ちで答える。
「おれはあくまで格闘者だ、武器なんか使わんさ。それに、ただ腕が増えただけだと思って油断してたら、お嬢ちゃん、すぐにバラバラになるぜ」
「いや、油断なんがしねぇよ。お前からヤバい気配がビンビンしてきやがる。こりゃあ今までのようにはいきそうにないな」
四本腕を蜘蛛のように拡げたダイクから、アミィは距離を取りながらニヤリと笑う。しかし、その顔からはいつもの余裕は感じられない。
「さて、今度はこっちから行かせてもらおうかっ!」
ダイクは怒号と共にアミィに向かって走り出した。足元の石畳はことごとく砕け、粉々になった石畳が宙を舞う。
「喰らえっ! 『四腕羅刹撃』!」
ダイクは叫びを上げながらアミィに向けて四本の腕を鑿岩機の様に超高速で突きだす。その走る速度はアミィほどではないにしても、腕を突きだす範囲と速度は筆舌しがたい。
「おっと!」
その突進を、アミィは済んでのところで横っ飛びに回避した。しかし、完全には回避しきれていなかったようで、メイド服のスカートの端が千切れている。
アミィはそのまま再びダイクから距離を取り、ダイクの方に向き直る。その額には水玉が浮かんでいたけど、笑みは失われていなかった。
「ふう、危ない危ない。やっぱりお前、さっきまでは全く本気じゃなかっただろ。なかなかどうして、こりゃ参ったぜ」
「ああ、これが俺が本気って奴さ。これを使うのは久しぶりだから、手加減はできそうにないぜ、お嬢ちゃんっ!」
そう言って、ダイクはファイティングポーズのままジリジリとすり足で距離を詰める。それをアミィはジッと見据えて、次の攻撃に備える。
「さて、お次はこんなのはどうかな? お嬢ちゃん! そらっ! 『伸身弾』!」
ダイクはアミィから5メートルほど離れた位置からストレートを繰り出した。アミィはその妙な行動にその場で身構える。
しかし、その腕はその場で鞭のように伸び、アミィ目掛けて弾頭さながらの速度で飛んでいき、見事にアミィに着弾した。
「ぐっ!」
ダイクの右上拳がアミィのボディを捉え、アミィの体は後ろに吹き飛ばされる。しかし、アミィは空中で体勢を立て直し、地面に靴を擦りながら着地した。
「今のは手応えが妙だったな。お嬢ちゃん、着弾する直前に自分から後ろに跳んだな? 初見にしてはなかなかやるじゃないの」
「ああ、流石に腕が伸びるとは思わなかったぜ。お前、なかなか芸達者だな、誉めてやるぜ」
「お誉めに預かり恐悦至極ってな。それじゃあ、どんどんいくぜ! 『伸身連弾』!」
今度は四本腕全てを総動員しての乱れ打ち。流石にその変則的な軌道にアミィの防御は間に合わない。何とかガードを固めて防いではいるものの、その間にもダイクは少しずつアミィへと近づいていく。
(くそっ! 威力は大分弱いが数が多すぎる、捌ききれねぇ!)
「ホラホラどうした! このままじゃあ直に滅多打ちだぜ? お嬢ちゃん!」
「野郎っ……!」
そして、やがてダイクとアミィの距離が目と鼻の先まで近づいてしまった。ダイクはそのまま拳のラッシュをアミィに浴びせ、右下腕にグッと力を込める。
「さて、コイツでフィニッシュだ! 『明王拳』!」
「がはっ!」
遂に、アミィのボディに鈍い音と共にダイクの拳がクリーンヒットし、アミィは子供に放り投げられたオモチャのように宙を舞う。そして、今度はそのまま地面に体を擦りながら叩きつけられた。
「ア、アミィィィッ!」
俺は叫びを上げ、思わずアミィへと駆け寄ろうとした。しかし、それを遮ったのは他でもない、アミィ自身だった。アミィはヨロヨロと立ち上がり、ダイクの方を睨み付けるながら叫んだ。
「来るな! 恭平! 俺なら大丈夫、大丈夫、だから……!」
そんなアミィを見たダイクの顔には、驚きの表情が浮かんでいる。
「マジか! あれを喰らって立ち上がるとは思わなかったぜ! 手応えも完璧、動力炉もお釈迦だと思ったんだけどな」
アミィは腹を押さえながら、ダイクに言い放つ。
「ハハッ! 俺はそんなやわな作りしてねぇよ。しかし、このままじゃあお前には勝てそうにないな、お前、やっぱり強いよ」
「そうだ、お嬢ちゃんは俺には勝てない。初めから解りきっていたことさ。ま、俺も久しぶりに楽しめたし、今日のところはこのまま見逃してやるよ。じゃあな、兄ちゃん、お嬢ちゃん」
そう言って、ダイクはその場を立ち去ろうとした。しかし、アミィは後ろを振り返ったダイクを呼び止めた。
「勘違いするなよ、俺は『このままじゃ勝てない』って言ったんだ」
「……どういう意味だい? お嬢ちゃん」
このアミィの言葉、俺にも真意が解らなかった。アミィはダイクの問いには答えず、俺の方へ歩いてやって来ながら、呟いた。
「仕方ない、か……」
どういう意味だ? 何が仕方ないんだ? そんな俺の疑問をよそに、俺の目の前までやって来たアミィは、俺に向けて言葉を紡ぐ。
「恭平、ゴメンな。俺、もしかしたら、さっきの約束守れないかもしれない。でも、俺だって、お前だって、奴を放っておけないって思ってる。だから、俺、行くよ」
「な、何を言っているんだ? アミィ……」
俺の問いに答えること無く、アミィは目を閉じ、天を仰ぐ。まるで天に祈りを捧げるかのようなその様子を、俺もダイクもただただ見入っていた。
やがて、アミィの頭が淡く発光し始める。そして、アミィの髪が根本から徐々に変色していく。海のような青から、桜のようなピンク色に。
そして、毛先まで桜色に染まってしばらくして、アミィはゆっくりと目を開けた。その瞳のサファイアのような青色は、僅かに色が明るくなり、空色に変色していた。
「ア、アミィ……?」
「ああ、恭平。悪い、ちょっと驚かせちまったな。それじゃあ、行ってくるよ」
そう言って、アミィはダイクの方へと歩みを進めていく。こんなアミィ、今まで見たことがない、いや、あるはずがない。桜色の髪に空色の瞳、まるで別人のようなアミィ。
俺はそんなアミィがダイクの元へ歩いていくのをただ呆然と見つめることしか出来なかった。そして、そのままアミィがどこか遠くに行ってしまうような気がして、俺は胸が苦しくなってしまった。
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