アミィ、再び
大柄なアンドロイドから放たれた一言は、俺の思考を混乱させるには十分なものだった。とても冗談をいっている雰囲気じゃない、彼は間違いなく本気で言っている。
アミィを、殺す? そんな、アミィが何をしたっていうんだ。いや、それ以前に、彼は何者なんだ。まさか、いや、あり得ない話じゃないけど、そんなこと滅多にあることじゃない。
いや! そんなことより、ひとまずアミィをこの場から遠ざけるのが何よりも先決だ! 俺は背中越しにアミィに逃げるように指示を出した。
「逃げろっ! アミィ! 彼は多分野良アンドロイドだ!」
「の、野良アンドロイド、ですか?」
「ああ! 彼は何かしらの理由で主人の元から離れて暮らしている、危ないアンドロイドなんだ! だからこんなおかしなことを言ってるんだ!」
そう、『野良アンドロイド』という存在。必要が無くなったアンドロイドが主人に廃棄されるに当たり、それを由とせずに主人の元から逃げ出す事案が希にあり、そのまま主人が不在で生活しているアンドロイドのことを総称してそう呼ばれている。
もちろん、そんなことは滅多にあるものではなく、そのようなアンドロイドは保護対象として警察が目を光らせている筈だ。というか、昨今の警察の主な仕事は野良アンドロイドの保護だったりする。
そして、一番厄介なのが、野良アンドロイドが長く一人で生活しているうちに、回路に変調をきたす事例があり、野良アンドロイドによる暴行なんかが希に起こすことがあるということだ。
そんな危険な野良アンドロイドが、俺達の前に現れ、アミィを殺すと言っている。野良アンドロイドと対面するのは初めてじゃないけど、このアンドロイドは明らかに異常だ。
俺の叫びに、アミィは俺から離れること無く、俺の服をギュッと掴みながら震えている。そんな俺達を見て、大柄なアンドロイドが俺達に話し掛けてきた。
「いやいや、俺は野良じゃないよ。正確には、『元野良』って奴だ。今はボスに仕えるれっきとした普通のアンドロイドさ」
「そんな筈あるか! それなら人を襲おうなんて言う筈無いじゃないかっ! それに、アミィを殺すなんて、そんな……」
「しゃーないべ、ボスからの命令なんだからさ。それに、さっきも言ったけど、このままだと兄ちゃんにも怪我してもらわないといけないんだけど、そこのところ解ってるかい?」
「馬鹿な! アンドロイドが人間を襲うなんてあるわけが……」
「いや、あるんだな~これが。ボスは俺達を『解放』してくれたんだ。このクソ忌々しい奴隷社会からな。だから、ボスには恩返しをしないといけないんだよ、ドゥーユーアンダスタン?」
このアンドロイドは何を言っているんだ。解放? 奴隷? いや、耳を貸すな、こんなものは狂ったアンドロイドの戯言だ!
「アミィ! とにかくこの場から離れるんだ! 早く! 時間がないっ!」
「でも、ご主人を置いてなんて行けませんっ! ご主人様も一緒に逃げましょう!」
「アミィは警察に連絡を頼む! 大丈夫、俺だって最近鍛えてるから、少しくらいなら時間稼ぎも出来るさ!」
そうさ、俺だってアミィに守られっぱなしではいられない。これからは俺がアミィを守るんだ! その為に今日まで自分なりに努力してきたんじゃないか!
「いやいや、そりゃ無理ってもんだ。俺は『戦闘用アンドロイド』だからな、人間が敵うわけ無いって。だからさ、大人しくお嬢ちゃんを置いて帰ってくれよ。俺だって人間殴るのは良い気持ちしないんだ、頼むよ、な?」
「そんなこと出来るかっ! アミィは俺の大切な恋人だっ! お前なんかにアミィを殺させるもんかっ!」
俺の叫びに、大柄なアンドロイドは一瞬キョトンとし、すくに嘲笑めいた仕草で俺に話し掛ける。
「あ? 恋人? な~に言ってんだ兄ちゃん。兄ちゃんの方が俺よりおかしいんじゃないか? ま、いいや。人が集まると厄介だから、兄ちゃんにはしばらく眠ってもらうよ」
そう言って、大柄なアンドロイドがジリジリと俺に歩み寄ってくる。駄目だ、足が動かない。今日まで俺はアミィのためにできる限りのことをしてきたつもりだ。
だけど、いざこんな状況になってみると、体の芯がキンキンに冷えていくのを感じる。足が震える、涙目になってしまう、恐ろしい、怖い、この場から逃げ出したい!
それでも、俺は立ち向かわないといけない。アミィを守るため、そして、アミィにもうあんなことをさせないために。だからアミィ、今は俺の言うことを聞いて逃げてくれ!
そんな俺の願いは、叶うことはなかった。ああ、やっぱり、そうなってしまうんだな。俺の願いを打ち砕くかのように、俺の背後から声がしてきた。
「馬鹿言うなよ、恭平を守るのが俺の使命。恭平は大人しく俺に守られていれば良いんだよ。でも、俺を守ってくれようとしてくれる気持ちは嬉しいよ。ありがとうな、恭平」
そう言って、アミィが俺の背中から手を離して、俺と大柄なアンドロイドの間に割って入る。
「何だ? お嬢ちゃん。大人しく俺に壊される気になったか?」
「いや、お前の言う通り、ちょっと遊んでやろうかと思ってさ。でも、気を付けな。チビだと思って油断してたら、お前の方が先に参っちまうぜ」
もう一人のアミィが大柄なアンドロイドに向かって不敵に挑発をする。そんな様子のアミィに、大柄なアンドロイドは一瞬驚きつつもすぐに大声で笑い飛ばした。
「カッハッハッ! 面白いこと言うじゃないか、お嬢ちゃん! オーケーオーケー、ここはひとつ俺と遊んでくれよ。ま、すぐに後悔することになるけどな! 泣き叫んだって俺はお前を殴るのを止めないからな!」
「言ってろデカブツ。後悔するのはそっちだってことをすぐに解らせてやるからよ。恭平、そういうことだから、ちょっと離れてな。なに、こんな奴速攻で片付けてやるから、安心して待ってろよ」
そう言って、アミィはこっちに自信に満ちた笑顔を浮かべ、再び大柄なアンドロイドに向き直った。
「さて、まずはお前の名前でも聞いておくか。叩きのめした後だとお前の口から聞けないからな」
アミィからの質問に、大柄なアンドロイドはニヤリと笑って答える。それと同時に、大柄なアンドロイドは戦闘態勢に入り、両腕を顔の横に持っていき、トントンと足でステップを踏む。
「面白いなぁ、お嬢ちゃん。いいぜ、教えてやるよ。俺の名前は『ダイク』ってんだ。短い間だけど、よろしくな、お嬢ちゃん」
その返答を受け、アミィも足を前後に開き、両拳をダイクの方に向けて腰だめに構える。
「ああ、よろしくな、ダイク。それじゃあ、早速遊ぼうか!」
こうして、アミィとダイクとの戦いの火蓋が切って落とされてしまった。俺はその様子をアミィの無事を祈りつつ見守ることしか出来なかった。
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