絶望へのカウントダウン
私が選択は間違いだったのだろうか。いや、そんなのは決まっている。明らかに間違いだ。世の理をねじ曲げ、自らの願いのためだけに彼と彼女を犠牲にしてしまおうかというこの選択。全く、天に唾するとはまさにこのことだ。
しかし、もう後戻りは出来ない。私に出来ることは、必ず彼女を無事に分割し、彼の元へ帰すこと。私の願いは叶わずともせめてこれだけは。だか、それでも、私の長年の悲願の成就もまた願わずにはいられない。
今の私には、その両方を成す力は無い。どうしても、どちらかを犠牲にしなければならない。もしそうなったとして、はたして私は本当に彼女を無事に帰す道を選ぶことが出来るだろうか。解らない、こればかりは、実際に選択を迫られないと解らないよ。
そんな、ただ自分の力不足を嘆き、頭を抱える私のもとに、一本の通信が入る。誰だ、この通信のパスを知っている人間なんて数えるほどもいないはず。私は身を起こし、通信に応じる。
「こちら高月、高月だ。応答されたし」
私の問いに答えたのは、考えもしなかった、いや、考えようとしてこなかった人物だった。
『ハロ~オ! ミスター高月ぃ! 元気にしておるかね、ん~?』
「お前、いや、貴様はっ!」
『オイオイオイオイ、かつての同僚に『貴様』は無いだろぉ? 高・月・博・士! もう歳なんだからそういきり立ちなさんなって!』
人を小馬鹿にしたようなこの口調、かつての奴とは似ても似つかない。いや、奴はわざと癇に障る様に話して、私を挑発しているのだろう。
「今更何の用だ! もう貴様とは縁を切ったはずだ!」
『いやいや、そっちはそのつもりでもこっちはそうはいかんのだ。お前だって本当は解ってるんだろう? 私がお前にわざわざ連絡してきた理由が』
「何の話だ! 私には貴様と話すことなど……」
私が言葉を継ごうとすると、奴の言葉が間に割り込んでくる。その口調は、さっきまでのふざけたものではなくなっていた。
「惚けるな、私が知らないとでも思っているのか。いいだろう、ハッキリ言ってやろうじゃないか」
正直なところ、この口ぶりから私は奴が何を言おうとしているのかにていて、察しがついてしまっている。今まで目を背けて続けてきた、紛れもない事実。
『お前、『茜さん』に何をしたんだ』
「っ……!」
私は奴からの問いに答えることが出来なかった。答えてしまえば、最悪の未来がやってくるのが目に見えているからだ。
『ほう、だんまりか。ま、それもよかろう。しかしな、私だって馬鹿ではないし、一端の信念を持った人間だ。このままお前を放置しておくわけにもいかんのだよ、私の信念に賭けてもな!』
「貴様、何を言っている!」
『ま、それはそれとして、最近世の中は物騒だな、高月よ。アンドロイドが見境無く暴れだすなんて、まるで15年前のあのときみたいじゃないか』
「ふざけるな! あれは貴様が引き起こしたことじゃないか! 知らんとは言わせんぞ!」
『いや、知らんなあ。どこにそんな証拠があるというのだ。いい加減な憶測でものをいいのは止めたまえよ』
「お前こそ惚けるなよ! あんなやり口が可能なのはお前くらいしかいないだろう! あまり私を嘗めるなよ、禍津!」
『水掛け論だな。真実は闇のなか、お前がどう思っていようが私には関係の無い話だ。しかし、これからお前には大いに苦しんでもらうことになるだろうな』
「どういうことだ、お前、また何かするつもりなのが! ハッキリ言ったらどうなんだ!」
そんな私の叫びに、奴は凶器じみた笑い声を上げ、怨嗟のこもった声で答えた。
『いいだろう、ハッキリさせてやろう! 15年前、そして、昨今のアンドロイドの暴走の首謀者は私だ。そして、その原因はお前にあるんだよ、高月ぃ!』
「うぬっ……!」
『その様子だと察したようだな。私の目的はな、『偽物の破壊』なのだよ! お前が作り出した、忌々しい偽物のなあ!』
「貴様っ……!」
『ふん、その様子だとやはりまだ生きているのだな、忌々し偽物は。15年前の私の実験はやはり失敗だったのだな。お前のことだ、何かしらの対策はしているだろうとは思っていたよ』
「あれが実験だと……! 貴様! あの騒ぎでどれだけの人間とアンドロイドが犠牲になったと思っているんだ!」
『知らんな、私にとっては大事の前の小事さ。そんなものより、お前が後生大事にしていたであろう偽物を破壊することのほうが重要だ』
「屑がっ……!」
『さて、話を戻そうか。私の計画は第一フェイズを終え、第二フェイズへと移行する手筈になっている。お前が『娘達』と宣っているあのメイドアンドロイド達は、皆殺しにさせてもらうよ。今度は、物理的に、直接な』
「貴様! 何を考えている!」
『第一フェイズで上手くお前のメイドアンドロイドも暴走させてやれればよかったのだが、やはり対策は講じていたのだな。ひとまず持続力が弱いウイルスを用いたのは正解だった。無期限でアンドロイドに暴れられたらデメリットのほうが大きい。実験としては大成功さ』
「貴様は……何をする気なんだ……」
『よかろう、教えてやろうじゃないか。第二フェイズでは私の手駒のアンドロイド達に直接お前の大事なメイドアンドロイドを物理的に破壊させようと考えている。少しずつ、少しずつ、生綿で首を絞めるようにな』
「そんな馬鹿なことが出来るわけが……」
『『出来るか』じゃない、『やる』のだ。より凄惨に、より残酷にだ。そうすれば、お前の精神を少しずつ破壊してやれる。そして、頃合いを見て、『高月博士のメイドアンドロイドが居なくなれば事件は無くなるのでは』という風潮を世間にばらまけば私の計画は完成というわけだ。どうだ、この私の完璧な計画は!』
駄目だ、奴は完全に狂ってる。こんな支離滅裂な計画、成功するわけがない。私は奴がここまで狂うほどの過ちを犯してしまったのか。いや、そんなことより、今は奴がやろうとしている計画を止めなくては!
「馬鹿な真似はよせ! そんなことをしたって茜は……!」
『黙れっ! それに、私がこんなにペラペラ計画をしゃべっておいて、なにも対策していないわけがないじゃないか。私は漫画や映画の悪人とは違うよ。既に第二フェイズは動き出している。既に、な』
そんな、それでは、もう既に世の中で暮らしている私の娘達は危険に晒されているということか! これは非常にマズイ! 何とか対策を講じなくては!
『ちなみに、この会話を録音していようが無駄だぞ。特殊なジャマーを噛ませてあるから、後から聴いても全く意味が解らんぞ。ま、それくらいは想定しているとは思うがな。それでは、ごきげんよう』
奴が自信たっぷりにそう言って、奴からの通信は切れた。何てことだ、今こうしている間にも、全国の私のメイドアンドロイド達が危機に晒されているなんて。
打開策がないわけではないが、時間的、物量的に供給が間に合わない。今はとにかく、娘達の無事を祈りつつ、何とか全国に対策が行き渡るよう手を尽くさなくては……!
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