真実
「そうですねぇ……それではまずはわたしから坊っちゃんに一つ質問をしたいと思います!」
そう言って、メリーは人差し指を立てる。
「し、質問!? メリーから話をするって言う話だったんじゃないか、どういうことだよ……全く……」
「そう言わずに聞いてくださいな、坊っちゃん。簡単な質問ですから」
長い付き合いだけど、相変わらずメリーの考えはいまだによく解らない。まぁ、今はメリーの言う通りにするしか選択肢がないんだけどさ。
「解ったよ……言ってみろよ、その質問とやらを」
「はい、それでは……」
僕はメリーがどんなとんでもない質問をするものかとつい身構える。そして、メリーの口から思ってもいなかった質問が飛び出した。
「アンドロイドであるわたしが眼鏡を掛けているのは何故でしょうか?」
なんだこの質問は。それとメリーがついてきた嘘とやらと何の関係があるんだ?
「いや、何故って……それは……」
確かに、言われてみればそうだな。メリーはアンドロイドだから目が悪いってことはないだろう。それが当たり前過ぎて考えたこともなかった。
「いや、解らん……アクセサリー、って訳でもないだろうし……」
「はい、そこで見て戴きたいものがございます。ちょっと待っていて下さいね、坊っちゃん」
そう言いながらメリーは立ち上がり、部屋を出ていった。そして、メリーは一分もしないうちに戻ってきた。その手には一冊の本が握られている。
「! そ、その本は……」
「坊っちゃん、坊っちゃんも時々このアルバムは見てらっしゃいますよね? わたし、知ってるんですからねぇ~!」
「そ、それは……」
確かに、最近ちょくちょく昔が懐かしくって、柄にもなくノスタルジーに浸ったりもしていた。もういない母親に唯一会える方法がそれだけだったからだ。
「それでは、先ほどの質問を踏まえてこちらの写真を御覧くださいな」
メリーはアルバムをペラペラとめくり、一枚の写真をアルバムから取り出した。その写真は僕と母親が顔を寄せ合って写っている写真だった。
「この写真がどうしたって言うんだよ!」
「お気付きになりませんか? 坊っちゃんの隣にいる女性が掛けている眼鏡……」
メリーにそう言われてハッとした。僕は横に立っているメリーから写真を引ったくるように取り上げた。
母親の眼鏡をじっくり見てみると、その眼鏡はメリーが掛けているものにそっくりだった!
しかも、今のメリーが言った、『隣にいる女性』って言い方も引っ掛かる。
「こ、これはどういうことだ! 説明してくれ! メリー!!」
僕が写真からメリーの方に目をやると、一呼吸置いてからメリーが僕に語り始めた。
「実は、坊っちゃんの隣にいる女性はわたしなんです。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」
そう言って、メリーは深々と頭を下げる。僕はメリーの言っていることの意味が解らなかった。僕は椅子から立ち上がり、メリーに問い詰める。
「そ、それはどういうこった!! どう見たってこの写真に写っているのはメリーとは似ても似つかないじゃないか!!」
僕の質問に合わせて、メリーは顔を挙げ、こちらを見つめながら質問に答えた。
その顔には、どこか憐れむようなニュアンスを感じ、僕の頭の中を駆け巡る混乱が加速する。
「坊っちゃん、わたしはアンドロイドですよ? メモリさえ乗せ替えてしまえば姿なんてどうにでもなるんです。坊っちゃんだってそれくらい解っているのではないですか?」
そうだ、メリーはアンドロイドだ。メリーの言う通り、ボディの違いなんて何の問題にもならない。
それでも、それが意味する事実に僕の脳内は一種の拒否反応を示しているのも事実だ。
「そんな……それじゃあ、本物の僕の母親は誰なんだ?」
メリーの言うことが真実だとしたら、僕が生まれてきてから今日まで一緒に過ごしてきたのはメリーだということだ。
それじゃあ、本物の母親が誰で、どこにいるかは解らないじゃないか。
もしかしたら、本物の母親は生きていて、今もどこかで元気に暮らしているかもしれないじゃないか!
その事実に、僕は冷静さを欠いてしまった。僕はメリーの服に掴みかかり、激しく揺さぶった。
「それじゃあ!! 僕の母親は今どこにいるんだ!! メリーも親父も知ってるんだろ!? 命令だ、メリー!! 教えろ!……教えてくれよ……」
僕の体から力が抜ける。僕は膝をついてメリーに追いすがるしかなかった。
そんな僕を、メリーの大きな体が包み込む。その感触は、一瞬僕の混乱した気持ちを和らげた。
「大丈夫ですよ、坊っちゃん。坊っちゃんのお望み通り、全てお話しします。それでも、敢えて最後にもう一度聞かせていただきます」
メリーは僕の肩をしっかりと握り、真っ直ぐに僕の目を見据える。
「これからお話しすることは全て真実です。恐らく坊っちゃんが期待しているような内容ではないでしょう。それでも、知りたいですか?」
メリーのいつになく真剣な口振りに、僕は思わず身構える。そうさ、僕だって本当は解っていて聞いているんだ。
それでも、これから聞くであろう話は、僕が生きてきた人生を根本から覆してしまう内容だろう。
それでも、僕は知りたいんだ。真実を、全て、ハッキリとした形で。
「ああ、教えてくれ、メリー。大丈夫、覚悟は出来たよ。こんな辛い役目を押し付けてゴメンな、メリー」
「坊っちゃん……!」
メリーは再び目に涙を貯め、口を手で押さえ、泣き出しそうな顔をした。それでも、すぐに涙を拭い、再び真っ直ぐな視線を僕に向けた。
「それでは、お話しします。坊っちゃんが知りたがっている、いえ、知らなければいけないことの全てを」
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