僕がメリーに出来ること
調理を終え、調理器具を流しに突っ込んだ僕は、フライパンの上にひしめくハンバーグの盛り付けに入った。
量が量だから何度かに分けて焼かないと行けなかったけど、用意した分全てのハンバーグの焼き上げが完了した。
用意したのはこの部屋のなかで一番デカイ皿。それでも乗り切らずに、皿の上にはまさに山盛りのハンバーグが鎮座することになった。
さあ、これで準備万端、あとはメリーを呼んで食べてもらうだけ。味見もしたし、焼き損ねもないだろう、多分。
僕はメリーが待つ部屋の前まで向かう。やっぱり食べてもらうなら熱いうち、僕の足はどうしても早足になってしまう。
僕はメリーの部屋までたどり着くと、ノックもなしに扉を開けてしまう。
「メリー! 出来たぞ! さあ、冷めないうちに……」
僕が扉を開けると、そこには椅子に座り、うつむきながら何か物思いにふけるメリーの姿があった。
その目はどこを見ているのか、その姿に思わず僕は固まってしまった。こんなメリーを見るのは初めてだ、僕はつい慌ててしまう。
「ど、どうした、メリー?」
「あっ、坊っちゃん……」
僕の問いかけに、メリーはまだ少しボーッとした様子で答えた。いや、ハンバーグが出来上がるまで相当待たせたんだ、この態度は仕方ないのかもしれない。
僕は気を取り直して、メリーをダイニングへと向かわせた。正直今回の出来はかなり自信がある。僕の声も思わず大きくなってしまう。
「悪い、待たせたな! 今日の夕飯はお前の好きなハンバーグだぞ! ま、僕にだってこれくらいできるのさ! さあ! 早く行った行った!」
「は、はい……解りましたぁ……」
何だろう、メリーの様子が少しおかしい。いきなり僕が夕飯を作る提案をしたのを差し引いてもこの態度は明らかに変だ。
まぁ、その辺は追々聞くとして、今はとにかくメリーに僕が作ったハンバーグを食べてもらうのが先だ!
メリーは僕に背中を押されながらパタパタとダイニングへと向かう。
僕はメリーがテーブルについたのを確認し、キッチンへと向かい、山盛りのハンバーグを慎重にダイニングへと運んだ。
…………
「さあ、どんどん食えよ! これくらいお前なら軽いもんだろ?」
「はぁ~ これ全部坊っちゃんが作ったんですかぁ?」
「ああ! これは全部メリーの分だぞ! 僕は、その、ちょっと色々あってお腹が一杯なんだ……」
メリーの目の前にはハンバーグの山がデンと置かれる。サラダやら付け合わせやらはなし、米もパンもない。ただハンバーグとその横に市販のソースやらケチャップがあるだけだ。
僕はメリーの問いに目を反らし、頬を掻きながら答える。これから先のことを考えると照れ臭くって仕方がないな。
「本当はもう少しそれらしくしたかったんだけど、何せ他には手が回らなくってな。ま、見た目はちょっとイマイチだけど、味は抜群だから、取り敢えず食べてみろよ!」
「は、はあ……そうですか……それでは、戴きまあ~っす」
そういって、メリーはハンバーグにフォークを突き刺し、何も付けずに一個まるごと口をあんぐりと開けて放り込んだ。
いつものことだけど、メリーの食事風景は見ているこっちが呆れるほど豪快で、マナーもなにもあったもんじゃない。
でも、今はそんなメリーの姿が言い様もないほど嬉しい。これが『自分が作ったものを食べてもらう喜び』って奴なのかな。
そして、メリーはハンバーグをモグモグと咀嚼し、ゴクリと音をたてて飲み込んだ。
「どうだ!? メリー! 味の方は!」
僕は思わずメリーの対面でテーブルに手を付いて、身を乗り出しながら声を上げて問いかける。
そんな僕の様子を見て、メリーはクスクスと笑う。参った、これはさすがに僕らしくなかったかな。
「どうされたのですかぁ? 坊っちゃん。今日の坊っちゃんは何だかちょっと可愛らしいですねぇ」
「そ、それはいいから! どうなんだよ! 味の方は!」
僕は少しきつめにメリーに再度問いかける。そんな僕を見ながら、メリーはフォークを皿の上に置き、微笑みながら僕の問いに答えた。
「それはもちろん、美味しいに決まっているじゃないですか。坊っちゃんがこうしてわたしのために料理を作ってくれる。それだけでわたしは十分幸せですよ、坊っちゃん」
「いや、そうじゃなくてだな……まぁ、いいか。メリーが喜んでくれさえすれば僕としてはいいわけだし。さ、冷めないうちにどんどん食えよ!」
「はい! それでは遠慮なく……あぐっ!」
こうして、メリーは目の前のハンバーグをものすごいスピードで平らげていく。本当に、見ているこっちは気持ちいいな。
さて、食べ終わるのを待ってからでもいいんだけど、僕としてはこっちはパパっと済ませたい。
メリーの目の前のハンバーグがちょうど半分ほどに減った頃、僕は姿勢を正して改めてメリーに視線を向ける。
さあ、これからがあと半分。僕はメリーの対面に座り、腕を口の前で組んでから話を切り出した。
「なあ、メリー。食べながらでいいから、僕の話を聞いてくれないか」
聞き流しでもいい、僕がメリーに出来ることはこれくらいしかないんだ。本当はこうして喜んでくれるだけでも十分なのかもしれない。それでも、僕はこうしてメリーの前で真剣な話をしようとしている。
そんな僕の気配を察して、メリーの手がピタリと止まる。
「食べながらなんてとんでもないですよ、坊っちゃん。さあ、今日はわたしにどのようなお話を聞かせてくれるのですか?」
まぁ、こうなるよな。メリーは再びフォークを皿の上に置き、手を膝の上に置いてから、少し首をかしげ、笑顔で僕を見つめる。
そうさ、メリーはあくまでメイドであって、主人から言いつけられた目付の役目は放棄しないってわけだ。
これで僕は逃げられない。これから僕がする話は100パーセント、メリーにも、親父にも伝わるってわけだ。
僕はもやっと伝えるのは諦めて、今まで生きてきたなかで一番の照れ臭さを抱えたまま、深呼吸をし、メリーに向かって話し始めた。
ここまで読んで頂き有り難うございます!
もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!





