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【旧】アミィ  作者: ゴサク
九章 親心
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それだからいいんだ!

 キッカさんがくれたメモの内容に、僕は思わず唖然としてしまった。まさかキッカさんが僕を励まそうとしてくれているとは思わなかった。

 確かに、一日だけでそう上手いことできるようになるなんて虫がいい話だ。僕はそんなことも解っていなかったんだ、何だか恥ずかしい。


 もうここは出たとこ勝負! 幸い自分でとったメモはあるんだ、要点は全部網羅しているはずだ!

 あとはやるだけ! 正真正銘自分の力だけでメリーに旨いハンバーグを食わせることだけを考えろ!


「さて! やるぞお!」


 こうして、キッカさんからの激励のメモを握りしめ、僕はその足で台所へ向かい、材料を調理台の上に広げてから、台所の棚の中から調理器具を取り出そうとする。

 しかし、当然ながら調理器具の場所なんて考えたこともなかった僕は、それだけで小一時間ほどかかってしまった。まったく、先が思いやられるな。


 いや、時間は十分にあるんだ、焦るな、僕。それでも、今日学んだことを忘れないうちにことを済ませたい僕はどうしても焦ってしまう。

 そんなこんなで、ようやく調理を始められるまでこぎ着けた。さあ、これからは僕一人の時間だ!


 まずは玉ねぎのみじん切り。調理器具を探していると、何やらそれ専用のものもあったようだけど、今日は学んだ通りに行こう。僕の経験上、変に楽をしようとすると足元を(すく)われるもんだ。


 僕は玉ねぎを半分に切り、ジュリさんの見よう見まねで玉ねぎを刻んでいく。しかし、玉ねぎって奴はどこまで剥けばいいかよく解らないよな。


「猫の手……猫の手……焦るな……ゆっくり……」


 僕は自分でも解るほど危なっかしい手付きで玉ねぎを刻む。ジュリさんはあんなに簡単そうに刻んでいたのにな。

 それに、玉ねぎを刻んでいると例によって涙が出てきた。参った、これは思いの外辛いぞ。


 僕は涙目になりながらも何とか玉ねぎを刻み終わった。かなり不揃いだけどこれは仕方ない。確か、半分は飴色になるまで炒めるんだったよな。

 こうして、僕は何とか玉ねぎの下処理を終え、今回の(かなめ)の作業に取りかかる。そう、材料を合わせてこねる過程だ。


 挽き肉、玉ねぎ、卵に香辛料。そしてキッカさんがやっていたようにパン粉の変わりにすり潰した麩をボウルに投入する。

 さて、これからが肝心。僕は氷をはったボウルの中に材料の入ったボウルを突っ込んだ。


「さて! こっからは僕の手際次第だ!」


 僕は肉だねをこねるべく、ボウルに手を入れ、力を込めた。そこで感じたのは予想外の抵抗感。そして手を刺すような冷たさだった。

 季節はもう冬に近く、台所の気温はかなり低い。熱が大敵なハンバーグの調理にはいい環境だけど、僕にはちょっと辛い環境だ。


「キッカさんやジュリさんの言う通り、これはキツイ作業だな……でも、それだからいいんだよな!」


 僕は目一杯の力を込めて肉だねをこねる。自慢じゃないけど僕はかなりの()()()だ。腕力なんて望めるはずもなく、握力だって30キロそこらしかない。


 しかも、今日準備した挽き肉は約2キロ。メリーが食べる量からしたらこれくらいはいるだろうと思ってちょっと買いすぎたかな。

 僕の手はみるみるうちに感覚を失い、込める力も徐々に弱まっていった。それでも僕はその手を止めなかった。


 止めたくなかった。こんなに懸命に物事に打ち込むのは初めてだったからだ。僕は今日まで、楽な方、楽な方へと自分を甘やかしてきたからだ。


 FXだってそう、楽に稼げるに越したことはない。もしうまくいかなくても親父が何とかしてくれる。そんな甘ったれた思考で僕は今日まで過ごしてきたんだ。

 メリーが来てからもそう、僕はメリーの立場をいいことに、面倒なことは全部メリーに任せて今日まで過ごしてきたんだ。


 いつかは変わりたいと思っていた。それでも、僕にはそのきっかけをつかめるだけの交遊関係がなかった。

 近づいてくるのはおこぼれ目当ての奴らばかり。暗い子供時代、その影響からか、僕は自然と人を遠ざけるようになってしまっていた。

 いつも一人。子供みたいに、面倒事は遠ざけて、アイドルを追いかけ回して満足したふりをしながら。


 そんな僕に、チャンスがやってきた。就職先での響先輩との出会いだ。響先輩と話していると何だか心地よかった。おせっかいだとも思っていたけど、今となっては感謝しかない。

 それをきっかけに交遊関係も少しずつ増えたし、アイドルとしてしか見ることが出来なかった夏樹ちゃんとマリンちゃんとも、一人の人間とアンドロイドとして触れ合うことさえできた。


 僕は、この出会いを後押ししてくれたメリーに感謝をしたかった。いや、それだけじゃない。メリーは10年前から今日まで僕のことを見捨てずにいてくれた。

 わがままで、甘ったれで、どうしようもなく面倒くさがりなこの僕を、ずっとそばで支えてくれた。


 大袈裟じゃなくて、メリーは母親よりも大切な存在だ。今日は、そんなメリーと出会ってちょうど10年の日。ずっと覚えていた訳じゃないけど、そんな日を何とかして祝いたかった。


 まったく、柄じゃないよ、これも誰かさんの影響かな。おせっかいで、お人好しで、何だか暖かい、誰かさん。


 そんなことを考えながら、僕はとにかく肉だねをこね続ける。そして、十分に肉だねがこね上がる頃には僕の両腕はパンパンになっていた。これは明日は間違いなく筋肉痛だな。


 あとは、肉だねを成形して、しばらく冷蔵庫で休ませてから、キッカさんに教わった通りに焼き上げるだけ。

 量が量だから焼くだけで時間がかかりそうだけど、ここまで来たならもう成功でも失敗でもそのまま出すだけだ。


 待ってろよ、メリー。どちらにしても、今まで食べたことがないようなハンバーグを食わせてやるからな。

 ひょんなことから形になった僕の精一杯の感謝の気持ち、メリーにちゃんと届くといいな。


 いや、これだけじゃまだ半分だ。感謝は言葉を添えて初めて本当の感謝になるんだ。ものすごく恥ずかしいけど、それは仕方ないよな。

 僕は少し腕を休ませてから、ハンバーグの成形にとりかかった。キッカさんの言う通り、所詮(しょせん)は付け焼刃だけど、最後まで気を抜かずにいかないとな!

ここまで読んで頂き有り難うございます!

もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!

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