初めてのお使い?
進君の家からの帰り道、早速僕は今日の夕食に向けて材料を買って回る。これまで買い物なんてネットで済ませていたし、こういった食品の買い出しなんかもメリーに任せっぱなしだったからな。
実際に目で見て、会話を交えながら買い物をするなんて何年ぶりだろうか。今日はいかに自分が世間に揉まれていないかを痛感した。
どうせだから、材料にはこだわりたいところだけど、僕には材料の良し悪しなんて解らない。高けれりゃいいって訳じゃないんだろうけど、特に挽き肉に関しては結構な値段のものを選んだから、少なくともマズイものはできないだろう。
しかも、僕には強い味方がいる。帰り際に今日の調理過程が細かく記載されているというメモを、キッカさんから貰ったんだ。
それにしても、キッカさんの用意周到ぶりには頭が下がる。結局、今日僕が取ったメモはほとんど役に立たないものになったわけだ。
しかも、キッカさんは僕がこんなことをしようとしている理由をほぼ言い当てて見せた。これはキッカさんからのあの要求にも答えざるを得ないだろう。
まったく、キッカさんは何者なんだろうか。最新式のメイドアンドロイドはあそこまで気が回るもんなのかね。
さて、粗方必要な材料を買い込んだ僕は、メリーが待つマンションへと戻る。
部屋に一人メリーを残して外出するのは久しぶりだ。まぁ、普段はいいと言っても付いてくるんだから仕方ないんだけど。
そういえば、今日は僕が外出するときにメリーは付いてこようとしなかったな。思えば、最近のメリーは僕から一歩引いたところにいる気がする。
僕が今回の計画を進める上では好都合だったけど、やっぱり隣にメリーがいないのは何だかムズムズする。
僕も変わったもんだ。昔はメリーのことを邪険にしてばかりで、鬱陶しいとすら思っていたのに。それが今ではメリーがいないと落ちつかなくなってしまっている。メリーは親父からのお目付け役、それ以上でも以下でもないのに。
やっぱり、今回の計画が成功したら改めてメリーに色々と問い詰めてみようかな。何だかんだで昨日まではぐらかされ続けて何ら進展がないわけだし、僕としてはとても居心地が悪い。
そんなことを考えながら歩くうちに、目の前にはマンションのエントランスが現れた。
よし! これからが踏ん張りどころだ! 大丈夫! 今日学んだことを繰り返しやるだけさ、何の問題もない!
それにしても、メリーの奴、今日が何の日か覚えているのかな。まぁ、僕だって例のアルバムの写真に書いてあった日付を見るまでは忘れていたんだけど。
俺は入場認証を済ませ、エントランスを抜け、エレベーターへ乗り込み、自分の部屋へと戻った。
…………
「メリー、戻ったぞ!」
僕の声に反応して、奥からドタドタと足音がしてきた。さて、いつもならこのあと勢いよく抱きついてくるんだけど、今日は……
「おかえりなさいませ、坊っちゃん」
やっぱり、今日もメリーはただ微笑みながら僕を出迎えるだけだった。最近はこんな調子が続いている。
するとメリーは、僕の方を見ながらキョトンとしている。その目線は僕が抱えている買い物袋に注がれてていた。
「坊っちゃん、何ですかぁ? その荷物」
僕はその質問には答えずに、メリーに今日の夕食について尋ねる。
「メリー、今日の夕食は何の予定だ?」
僕からの質問に、メリーは手をパチンと叩きながら、笑顔で答えた。
「はい! 今日のお夕飯は坊っちゃんが大好きなクリームシチューで……」
「メリー、悪いんだけどさ、それは明日にしてくれないか? 今日は僕が夕食を作ろうと思っているんだ」
僕からの提案に、メリーは少し困惑しつつ、両手の買い物袋を眺めながら返事をした。
「はあ、それは大丈夫ですけどぉ……坊っちゃんがお夕飯……一体全体、どういう風の吹き回しですかぁ? それならわたしもお手伝い……」
まぁ、メリー的にはそういう流れになるよな。でも、今日ばかりは一人でやらないと意味がないんだ!
「いや! 今日は僕が一人で夕食を作る! 詳しくはあとで話すから、今日は夕食ができるまでお前は自分の部屋に居ろ! これは命令だからな! メリー!」
ああ、いつもはこんな大声を出すことはないんだけどな。それだけ僕も必死ってことか。
そんな僕の声に、メリーはわずかに戸惑いを見せながらも、僕の提案に納得してくれた。
「はい、解りましたぁ……それでは、坊っちゃんはいつ頃からお料理を始められる予定ですかぁ?」
「そりゃあもう今からだ、今から! さあ! だからお前はさっさと自分の部屋に行った行った!」
そう言って、僕は荷物をその場に置き、メリーを部屋の奥に押し込み、メリーはそれに合わせてパタパタと自分の部屋へと歩いていく。
「は、はあ。それでは、お怪我に気を付けてくださいね、坊っちゃん。それから、料理の前には手洗いを……」
「解ってるよ、そんなこと! それより、僕がいいと言うまで何が聞こえようが部屋から出てくるんじゃないぞ! いいな! メリー!」
こうして、やたら僕の身を心配するメリーを自室に押し込んで、材料を手にキッチンへと向かう。さあ、これで誰も味方はいない。頼れるのは自分だけだ。
まぁ、正確にはキッカさんから貰ったメモもあるんだけど。僕は早速四つ折りに折り畳まれたメモを開いた。
すると、そこには期待していた内容とは大きく異なる文面が、とても整った綺麗な字で書いてあった。
『所詮、講習やメモなど付け焼刃。貴方は貴方ができる限りを尽くせばよいのです。『料理は愛情』でございますよ、紫崎様。それでは、ご健闘をお祈り致します』
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