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【旧】アミィ  作者: ゴサク
九章 親心
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勝負の行方

 ジュリさんのハンバーグの試食を終えた俺達は、皆キッカさんがハンバーグを焼いている様子を遠巻きに見守る。

 皆の目線を集めながらハンバーグの表面を焼き固めるキッカさん。その様子はさっきまでの気迫のこもった様子とは違い、淡々とやるべき作業を消化している。


「おい、キッカ。お前もオーブン使うだろ? 焼けたら使い方教えてやっからこっちに来な!」


 そう言って、ジュリさんが親指でオーブンの方にクイクイ指差しながらキッカさんに話しかけた。


「紫崎様、そろそろ表面が焼きあがりますので、こちらへ」


 しかし、キッカさんがその場から離れることはなく、ジュリさんの誘いをスルーして紫崎を呼び出した。


「紫崎様、ハンバーグの表面を中火程度で焼き固めたあとは、弱火にして両面を2~3分程焼き、余熱で中心まで火を通すため、上からアルミホイルを被せ、また3分ほど待ちます」


 キッカさんは口で説明した通りの作業を手早く行い、ハンバーグに余熱を回す間に、更に紫崎にアドバイスをした。


「ここで気を付けることは、始めに表面を焼き固める際に決して強火にしないことです。強火で焼くと、ハンバーグが急速に収縮するためです」


「なるほど……」


 キッカさんからのアドバイスをしっかりとメモに取る紫崎。その隣には、同じようにメモを取るアミィと、せっかくの好意をスルーされて歯をギリギリいわせているジュリさんがいた。


「さあ、そろそろ中まで火が通った頃でしょうか。それでは、もう2分程弱火で表面を焼き、竹串かなにかで表面に穴を明け、透明な汁が出てきたなら、最後に表面に強火で焦げ目をつけたら完成です。赤みがかった汁が出てきた場合は適宜弱火で焼いてください」


 キッカさんがハンバーグのひとつに穴をプツリと明けると、透明な汁が出てきた。これでキッカさんのハンバーグもついに焼き上がりだ。


「さあ、それでは皆様、(わたくし)のハンバーグをご賞味ください」


 俺達の目の前に、小判型のハンバーグが乗った皿が並べられる。付け合わせはおろか、ソースさえかかっていない何の変哲もないハンバーグだ。


「召し上がりかたは各々方にお任せしますが、まずは何もつけずに食べていただくのがお薦めです。そのあとは市販のソースなりケチャップなりご自由に」


 キッカさんの言葉が意味するところは、余程ハンバーグ本体の味に自信があるということだ。面白い、ここはキッカさんの言う通りにしてみようじゃないか。


「それじゃあ、いただきます!」


 俺はキッカさんが作ったハンバーグにナイフを入れた。すると、ジュリさんのハンバーグとは明らかに違うところがあった。

 切った瞬間に溢れ出るはずの肉汁がない。いや、厳密には切り口にテラテラと光る肉汁はあるんだけど、そこから外部に流れ出すはずの肉汁がないんだ。


「なんだ! やっぱりこうなったじゃねえか! キッカのあれはいくらなんでもこね過ぎだ! その間に脂が外に流れ出てるんだよ、これは!」


 そう言って、ジュリさんはキッカさんのハンバーグを口に頬張る。すると、ジュリさんの顔がみるみるうちに青くなっていく。

 俺は改めてキッカさんのハンバーグを口に放り込む。その瞬間、ジュリさんのハンバーグと同じように焼けた肉の芳ばしい香りがしてきた。この点では二人のハンバーグに大きな差はなさそうだ。


 そして、口の中のハンバーグの味を堪能すべく、俺はハンバーグを噛み締めた。すると噛み締めた瞬間に尋常ではない量の肉汁がほとばしった。

 その量ときたら、まるでスポンジを絞ったかのようで、牛と豚の脂の旨味が香辛料の味と共に舌の上に広がっていく。


 更に、ハンバーグに混ぜ込まれたくるみの歯応えも心地よく、カリカリと噛むたびに独特の芳ばしさがハンバーグの脂っこさをリセットしてくれる。

 こうなると、『ハンバーグ』という料理単体で考えた場合、ジュリさんのハンバーグに使われていたチーズがむしろ重たく感じるような気がする。 


 もちろん、人の好みに依るところではあるけど、俺はキッカさんが作ったハンバーグのほうが、純粋な肉の旨味を感じられた気がしていた。

 焼け具合もジュリさんのハンバーグと何の遜色もない、食べ応え抜群のストレートな旨味のハンバーグだった。これは難しい、多分得票も割れるんじゃないかな。


「いや、これは驚いた……これなら何も付けないで食べても十分美味しいよ。正直、これまで食べたなかでも一番なんじゃないかな……」


 俺の隣では、昌也がケチャップをドバドバかけながらハンバーグを貪っていた。その姿は全く品はないけど、心底旨そうな顔をしていた。


「そうそう、この感じこの感じ! 慣れ親しんだ味ってのもあるだろうけど、俺は断然こっちだな!」


 正直俺も昌也と同じ、キッカさんのハンバーグに一票だ。


「ぼくはやっぱり、ジュリお姉ちゃんのハンバーグがすきだな! 今日もおいしかったよ! ジュリお姉ちゃん!」


「そうか……ありがとな、進」


 進君の言葉に対して、ジュリさんは少し物悲しそうな表情をし、進君の頭をクシャクシャとなでた。

 さて、進君はジュリさんに票を入れたか。これは大方予想できていたことだけど、これで得票は2対1だ。


「アミィはどっちが美味しかったと思う?」


 俺の答えに、アミィは普段見せないほど難しい顔をして、とても言いにくそうに俺の質問に答えた。


「どちらも美味しかったのですが……私はジュリさんのハンバーグのほうが好みでした。キッカさんのハンバーグは大人の味というか、私には少し苦すぎたような気がします」


 確かに、アミィの言うこともよく解る。キッカさんのハンバーグの中のくるみが焼かれた際に出す苦みが少し受け付けないという意見もあるだろうとは思っていた。

 まぁ、そこがアクセントになっていて、俺や昌也は好みだったわけだけどな。


 さあ、これで得票は2対2、最後の紫崎の票で全てに決着が付く。俺達は、一様に紫崎のほうに目を向けた。

 すると、そこには目を閉じて天井に顔を向けている紫崎の姿があった。それの目からは、一筋の涙が伝っていた。

ここまで読んで頂き有り難うございます!

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